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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命

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279 杞憂だ

前回のあらすじ

ロケットで突き抜けた。

「マナイーターなのです!」

「マナイーターが出たのです!」


 遠巻きに戦いを見守っていたリュウシュたちが叫び声を上げて逃げていく。それこそ、蜘蛛の子を散らすかのような勢いだ。


 ……。


『うむ。気にするで無いのじゃ。相手のマナを喰らうのは、その意志を引き継ぐことでもあるのじゃ』

 銀のイフリーダがこちらを気遣ってくれているのか、そんなことを言っている。

『ありがとう。でも、大丈夫だよ』

 分かっている。


 分かっているから、大丈夫だ。


 カノンさんのマナは僕の中で糧となり、力となっている。僕を強くしてくれる。


 カノンさんと僕の戦いは終わった。でも、ここは、まだ戦場だ。レームは……まだ戦いを続けているはずだ。


 戦いの結末を見届けに行こう。


 人の形を――人としての形を整え、自分の足で歩く。


 僕が歩けば、壁になっていたリュウシュたちは逃げていく。僕を恐れ、逃げていく。それで良い。無駄な戦いをしなくて済むなら、それが一番だ。


 歩く。


 前方からは激しい戦いの音が聞こえている。レームと戦士二人の戦いは続いているのだろう。


 歩く。


 そして、戦いが見えてくる。


 レームが暴れ馬を走らせ、剣を振るう。その一撃を一人が受け止め、もう一人が反撃する。

 喋る足が防御役、働く口が攻撃役。上手い役割分担だ。あれから、どれだけの間、二人は槍を使って戦い続けたのだろうか。槍の扱いが様になっている。熟練の戦士だ。


 レームは両手に剣を持ち、馬上から攻撃を繰り返す。だが、その攻撃のどれもが槍によって受け流され、攻めあぐねているようだ。


『レーム、こちらは終わったよ』

 レームに結果だけを伝える。僕の戦いは終わった。


『そうか。ならば、だな。そろそろ、こちらも、頑張らないとな』

 レームはこちらへと振り返らないまま返事を返す。


「爛れ人が来たのです」

「あり得ないのです! 負けるなんてあり得ないのです!」

 こちらを見て、二人は動揺している。


 その敵を見るような目は……正直、辛い。


「元凶が来たのです」

「友を魔獣として甦らせた罪を償わせるのです」


 そして、戦士の二人がレームを置いて、こちらへと駆け出す。


 違うと言いたい。だが、違うと言い切れない。


『ソラ、言葉など気にするな!』

 レームが暴れ馬を動かし、僕の前に、戦士の二人を妨げるように立つ。


『レーム、彼らの言葉が分かるのかい?』

 僕の言葉を聞いたレームが暴れ馬からずり落ちそうになっていた。

『そ、ソラ、そこなのか? あれからどれだけの日数が経っていると思っているんだ。交流する相手の言葉くらい分かるようになってるさ』

 骸骨姿になったレームの表情は分からない。でも、きっと笑っている気がする。微笑んでくれている気がする。


『さて、と。改めて、自分の因縁を終わらせようか!』

 レームが手に持っていた剣を上空へと投げ放つ。


「退くのです」

「駄目なのです。魔獣になったものに言葉は通じないのです。盾にするとは卑怯なのです」

 二人は憎しみを込めた目でこちらを見ている。


『ソラ、気にするなよ。誤解は解ける!』

 レームの言葉に頷きを返す。


 言葉は――すれ違いは辛い。だが、それが誤解だと分かっているから、レームが居てくれるから、だから、僕は耐えられる。


『禁忌の地の古き友よ。行くぞ』

 レームの手に新しい剣が生まれる。


『まずはサリアの剣。彼女は流線を描くような技を得意としていた』

 生まれた剣が振るわれる。


 流れるような剣の軌跡。


『次はソラスの剣。重く、全てを叩き潰す技を得意としていた』

 新しい剣が生まれる。


 重く叩きつけるような破壊の力を秘めた一撃。


 流線を描く剣によって身を守ろうとした喋る足の槍を弾く。そして、そこに重撃がたたき込まれる。


 喋る足が額から血を流し膝を付く。


「――!」

 働く口が叫ぶ。

「だ、大丈夫なのです。浅い一撃だったのです」

 喋る足がゆっくりと立ち上がる。


『この体には! 一緒に戦ってくれた仲間が、百の英雄の力が、意思が眠っている! 彼らの、彼女らの、全ての技、全ての力、全ての想いがここにある!』

 レームの手にあった二つの剣が揺らぎ、霧散していく。マナの流れへと還っていく。

『友のために力を貸してくれてありがとう』


 レームが空に手を伸ばす。そして、落下してきた――その、最初に放り投げていた剣を掴む。


 そのまま、その剣を戦士の二人へと突きつける。

『手加減だ! 分かるか、その意味が!』

 レームが叫ぶ。


 だが、その言葉が彼の口から発せられることはない。ただ、骨がカタカタと鳴っているだけでしかない。


 戦士の二人は、僕のようにマナに直接語りかけるような意思の疎通が出来るわけじゃない。


 二人に届くはずがない。


 そう思ってしまった。


 だが、戦士の二人は――戦士の二人の表情が憎しみから、驚きへと変わっていく。


「どういうことなのです!」

「これは、どういうことなのです!」

 二人が叫ぶ。


 ……行動で、言葉以外で、届かないはずの言葉が伝わった――届いた。


 届いた!


 レームが暴れ馬から降りる。


 そのまま、こちらへと近づいてくる。そして、僕の肩を軽く叩く。

『道は開いた。後はソラの言葉で伝えるべきだ』

 レームの骨の顔が笑っている。カタカタと音を鳴らして笑っている。


 だから、その金色に輝く胴鎧を凹むほどの勢いで叩く。

『ソラ、殺す気か』

『もう死んでるじゃないか』

 レームが首を傾げ、軽く自分の頭を叩く。

『ああ、そうだったな。にしても、改めて見るとソラも酷い有様だな』

『命がけの戦いだったからね。それだけの相手だった』

 レームに笑いかけ、歩く。


 レームが道を開いてくれた。


 だから、後は僕の番だ。


 戦士の二人の前に立つ。


 伝えよう。


 言葉を伝えよう。


「た、ただいま」

2018年12月23日誤字修正

……言葉が以外で言葉が届いた → ……行動で、言葉以外で、届かないはずの言葉が伝わった――届いた。

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