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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命

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269 戦場

 足が長く、首も少し長い。縦長の顔を持った四つ足の魔獣。


 何処か暴れ馬を思い出させる姿をしている。あの、暴れ馬が今も生きているとは思えない。もしかすると、その子孫なのだろうか。その子どもか、孫か。


 四つ足の魔獣がいななき、こちらへと駆けてくる。周囲の蠢く骨を砕き吹き飛ばしながら、こちらへと迫る。


 なかなかの迫力だ。


『ふむ。どうするのじゃ』

『こうするよ』


 翼を広げ、一気に飛び上がる。そして、そのまま迫ってきていた四つ足の魔獣の背に飛び乗る。

 四つ足の魔獣は面長の何処か愛嬌のある間抜けな顔をこちらに向け、背に飛び乗った自分を振り落とそうと暴れ回る。

 なかなかに乱暴者だ。


 だから、手を伸ばし、その面長の顔に触れる。そのまま四つ足の魔獣の体内に流れるマナを操る。

 暴れていた四つ足の魔獣がビクンと跳ね、動きを止める。


 そのまま大人しくなっていく。


「よし、よ、よし」

 面長の顔を撫でる。


 四つ足の魔獣は、こちらに服従するかのように動きを止める。


「お、おまえ、な、なまえ、あばれうま」

 名付ける。


 この子の名前は暴れ馬だ。言うなら、暴れ馬二世だ。


 大人しくなった暴れ馬がいななく。


 うん、懐かしい。


 あの時、暴れ馬に乗っていたのは、本当にわずかの間だったけれど、それでも懐かしい。


 乗り物が手に入った。


 自分の足で駆けても、翼で空を飛んでも良いけれど、やはり、長距離を移動するなら乗り物があった方が便利だ。


 行こう。


 このまま平原を目指そう。


『行くよ』

 暴れ馬のマナへと語りかける。


 暴れ馬が頷き、駆け出す。


 周囲に集まり始めていた蠢く骨を吹き飛ばし、駆ける。


 駆けていく。


 無数の蠢く骨を倒さなくても――蹴散らせて進めるのは楽だ。このまま村の廃墟を抜けよう。


 駆ける。


 そのうち、朝日が昇り始めた。地上に出てから初めて見る朝日だ。

『太陽自体は何度も昇っていたんだろうけどね』

 それに合わせて骨たちが地中へと戻っていく。この骨たちは太陽の光が苦手なのかもしれない。


 駆ける。


 村の廃墟を抜ける。


 この村から禁域の地の入り口となる森は近かったはずだ。だが、目指すのはそこじゃない。まずは平原だ。平原へと向かい、そこで何があったのか、結末がどうなったのかを見極める。

 禁域の地に向かうのはそれからだ。


『お前、平原を知らないか? 知っているなら、そこに向かって欲しい』

 暴れ馬が頷き、駆ける。


 この暴れ馬は平原を知っているようだ。とても助かる。後は暴れ馬が進むのに任せれば良い。


 にしても平原か。どんな場所なのだろうか。あのボロ布の男は行けば分かると言っていた。そんな場所があるのだろうか?


 暴れ馬が駆ける。


 しばらくすると右手側に森が見えてきた。


 ……禁域の地。


 僕の拠点があった場所。


 目指す場所。だけど、今は後回しだ。


『今でも森が残っているんだね』

 禁域の地は多くの木に埋もれている。僕が居た頃よりも木の数が増えているように見える。


 森が深まっている。


 とても危険な雰囲気を漂わせている。


 拠点はどうなっているのだろうか……。


 右手に禁域の地の森を見ながら、そこを駆け抜けると、小さな丘が見えてきた。


 以前に、こんな丘があっただろうか?


 森を抜ける道しかなかったような気がする。


 暴れ馬を走らせ、そして丘の上へ。


 そこから見える風景は……。


 戦場跡だった。


 無数の錆びた鎧や折れた剣、盾が転がっている。


 ここで激しい戦いがあったのは間違いないようだ。そして、その戦場はそのままになっている。

 転がっているのは無数の武具だ。誰かが、それを目当てにして、あさりに来てもおかしくないはずなのに、そのままだ。

 そういった戦場荒らしすら居なくなってしまったのか、それとも近寄りたくないと思われているのか。


 暴れ馬で小さな丘を駆け下りる。


 戦場跡だ。


 暴れ馬から飛び降り、転がっている残骸を確認する。


 錆びた鎧だ。触れれば、ボロボロと崩れてしまう。中には白い骨が残っている。そして、その近くには折れた剣が転がっていた。


 周りを見る。


 無数の鎧が転がっている。それだけの人が戦い、死んでいる。


 平原は広い。


 何処までも戦場が広がっている。そして、それを埋め尽くす鎧、剣――残骸。どれだけの人がこの戦いに参加したのだろうか?


 百、二百? 千、二千?


 分からない。


 何処までも、何処までも広がっている。何処までも続いている。


 死体は……無い。死体が骨に変わるほどの月日が経っている。それだけの刻が経っている。


 戦場跡。


 酷い有様だ。


 これだけの数の人が死んでいる。


 戦ったのは金色のレームが率いる人と魔王。


 魔王の側には誰がいたのだろうか。


 スコルがいたのだろうか。

 カノンさんがいたのだろうか。

 セツさんがいたのだろうか。

 リュウシュの皆がいたのだろうか。

 ヨクシュの皆さんがいたのだろうか。


 魔王に言われるがままに戦ったのだろうか。


 何故、何故、こんなことになっている。


 暴れ馬に飛び乗る。そして、そのままゆっくりと戦場を歩く。


 暴れ馬がボロボロの鎧を踏み砕き、戦場跡を歩く。


 戦場跡を見回しながら歩く。そこにあるのは何処まで行っても戦闘の残骸だけだ。


『戦いがあった』

 こんな、こんな酷い戦場で誰かが生き延びたとは思えない。


 金色のレームは……、

 僕の友人は……。


 戦場跡を暴れ馬が歩く。


 ……。


 と、そこで何かが輝いているのが見えた。


 見れば、太陽の光を反射して輝いているものがある。


 そちらへと向かう。


 そこにあったのは……剣だった。


 数十本ほどの剣が墓標のように刺さっている。


 その剣たちだけは錆びることなく、今でも輝きを放っている。周囲に転がっている武器と比べて明らかに質が違っている。


 そして、僕は、その剣に見覚えがあった。

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