表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

272/365

267 淀み

「さて、と」

 ボロ布の男が立ち上がる。


「う、あ?」

「ああ、何処か行くわけじゃない。食事の用意を、な」

 ボロ布の男が火を起こし、何処に隠していたのか紫色の毒々しい肉を焼き始める。


「う?」

 周囲には黒い煙が漂っている。今の僕では匂いはよく分からないが、とてもじゃないが美味しそうな匂いがしているとは思えない。

「美味しいかって? まぁ、あまり美味しいものじゃないな。あんたも食べるかい?」

 ボロ布の男がこちらの前へと臭そうな肉を持ってくる。


「う、い、いら」

 首を横に振る。この体では食事も出来ない。食べ物は不要だ。


「そうか。まぁ、欲しかったら言ってくれ」

 ボロ布の男が食事を続ける。だが、どうみても美味しそうではない。


 ……。


 このボロ布の男は、まだ食事を必要としている。まだ人としての部分が残っている。僕とは違う。


「あ、う、ば、ば、ばしょ、ばしょ」

「ん? あんた、ばしょ? 場所か。何の場所だ?」

 ボロ布の男は食事を行いながら、こちらの言葉を聞いてくれる。僕はまだ上手く喋ることが出来ない。何とか会話しようとしても、時間をかけて単語、単語を口にするのがやっとだ。だが、そんな拙い言葉でも、ゆっくりと待って、意味を理解しようとしてくれる。


 ……。


 このボロ布の男はとても良い人だ。

 本当に良い『人』だ。


 地上に出てすぐに彼に出会えたのは僕の一番の幸運かもしれない。


「ば、し、ばしょ、おう、おう、おうじ、たたう、たたう、たたかう、ばしょ」

 少し長く喋ることが出来た。うん、どんどん喋って、もっと、もっと会話が出来るようになろう。


「ああ、そうか。あんたは三番目の王子が魔王と戦った場所を知りたいのか」

「そ、そう。そう」

 何度も頷く。


「禁域の地は分かるか?」

 力強く頷く。

「わ、わかる」

「その禁域の地の近くに大きな平原があるのは知っているか?」

 平原?


 それはちょっと分からない。村があったのは知っているが、禁域の地の入り口付近は森しかなかったように思う。でも、平原と言うくらいだから、広い場所なのだろう。近くを探せばすぐに見つかりそうだ。


「まぁ、行けばすぐ分かるさ。今は、特に、な」

 なるほど。


 にしても、だ。禁域の地の近く、というのは良かった。僕の目的地は禁域の地の奥にある。好都合だ。


「さて、と。俺はそろそろ休むぜ。あんたも適当に休んでくれよ」

 食事を終えて眠くなってきたのか、ボロ布の男が横になる。そして、そのまま眠り始めた。


 ……。


 行動が早い。それだけ生きることに一生懸命で余裕がないのかもしれない。


 僕も目を閉じる。


 眠ることは出来ない。眠る必要もない。


『イフリーダ、どう思う?』

『何が、なのじゃ』

 銀のイフリーダからすぐに返事がくる。しばらく眠ると言っていた割には眠っている様子が無い。


『この人の話だよ。魔王は何の目的で人を魔獣に変えているんだろう』

 そうだ。その目的が分からない。


 魔王ソラが僕の予想通り、あいつなら、そんなことをする必要はないはずだ。人の反感を買うだけだ。


 分からない。


『ふむ。我にも分からないのじゃ。ただのお遊びにしか思えぬのじゃ』


 分からない。


 何故だ?


 うーん。


「うううぅうう」

 と、そこで眠っていたはずのボロ布の男がうめき声を上げ始めた。


 どうしたんだろう?


「痛い、痛い、痛い」

 ボロ布の男は眠っているようだ。眠りながら「痛い、痛い」と呻き声を――悲鳴を上げている。


 ……?


 何故? 


 ボロ布の男は眠っている。何故、こんな状況で目が覚めないんだ?


 異常だ。


「痛い、痛い、あががががが」

 ボロ布の男は体を抱え込み、震えている。だが、それでも目覚める様子が無い。


 おかしい。


 そして、異常に気付く。


 このボロ布の男の中のマナの流れが淀み滞っている。体の途中で、しこりのように膨れ上がっている。


 マナが体内で上手く循環できず、たまっていることで痛みを感じている?


 もしかして魔獣化もこれが原因?


 ……。


「痛い、痛い、うががぁぁ」

 ボロ布の男は叫び続けている。


 ……。


 ボロ布の男に手を添える。


 ボロ布の男の中に流れるマナの動きを見て、淀みたまっている部分の流れを戻していく。


 悲鳴を上げていたボロ布の男の顔が安らかなものに変わっていく。

 悲鳴や苦痛のうめきが消え、安らかな寝息へと変わっていく。


 ……。


 僕は勘違いしていた?


 魔王がやろうとしていたのは人の魔獣化ではない?


 もしかして、何かの実験の副産物で魔獣化してしまった?


 一体、何をやろうとしているんだ?


 分かりそうで、分からない。


 ……。


 そして、翌朝。


 ボロ布の男が目を覚ます。

「あ、あひぃっ!」

 そして、こちらを見て驚きの声を上げる。


「ど、どした?」

「い、いや、悪い。目の前にあんたの顔があったから、す、少し、驚いたんだ」

「そ、そうか」

 ボロ布の男が胸をなで下ろしている。そして、何かに気付いたのか、首を傾げている。


「どした?」

「いや、何だろう。今日の朝は凄く気分が良いんだ。久しぶりによく眠れた気がする」

「そか、よかった」

 ボロ布の男が、眼球のむき出しになった不気味な顔で歯を剥き出しにして笑う。


 不気味だけれど、とても良い笑顔だ。


「ああ。よく分からないけど、あんたにお礼を言っておくよ。よく眠れたのはあんたが来てくれたからかもしれない」

 だから、こちらも笑う。笑い返す。


 すると、何故か、ボロ布の男は顔をしかめた。


「いや、あんた。あー、こういうのも何だが、その顔は、あー、うん。俺は良いけどよ、人の居る場所に行くなら、俺みたいにフードを深くかぶるか、仮面でもした方が良いと思うぜ」


 ……。


 そう、か。


 どうやら、僕の顔は随分と酷いもののようだ。


 自分の顔を見ることがないから気付かなかった。


 ……。


 これから、人の住む場所に行くなら、何か仮面を、か。考えておこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ