027 肉塊
時々、休憩を挟みながら大蛇の輪切りを作り続ける。
本当は何か布でも敷いて作業を行いたいが、無い物は仕方が無い。作った輪切りをそのまま地面へと転がしていく。
「後でしっかりと洗おう。水ならあるからね」
作業を行っているこちらの背後で聞こえていたガツガツという音が止まる。食べ飽きたのだろうか? そちらの方を見てみるとスコルが大蛇の腹からマナ結晶を取り出しているところだった。
なるほど、食べていた訳ではなく、マナ結晶を取り出すために大蛇の体を食い破っていたのか。時間がかかったのはマナ結晶の場所が分からなかったからかな?
スコルが取り出したマナ結晶を喰らう。
「スコルもマナ結晶を食べるんだね」
『うむ。魔獣とはそういうものなのじゃ』
「イフリーダには悪いけど……」
『うむ。最初に聞いておる、納得しているのじゃ。魔獣はマナを喰らい成長する、仕方ないのじゃ』
「えーっと、イフリーダも……」
『確かに我もマナを欲しているのじゃ』
イフリーダは、そこでいったん言葉を句切る。そして、力強い瞳でこちらを見る。
『しかし、なのじゃ。我を魔獣と同じと思わぬことなのじゃ!』
「うん。分かっているよ。イフリーダは、イフリーダだもんね」
輪切り作業に戻る。
日が落ち、暗くなってからも焚き火の明かりを頼りに作業を続け、最終的に両手を広げたサイズの輪切りが30個ほどになった。かなりの数だ。何か詰まってそうな、中を確認したくない状態の膨らんだ内臓などは全て一カ所に集めている。これは後でスコルが処理してくれるだろう。
朝日が昇り初めても作業を続ける。
作った輪切りから皮や鱗を剥ぎ取り、その後、大きなブロック肉に切り分ける。固いのは外皮だけで中の肉は柔らかいかと思ったが、引き締まった中の肉は固く、切り分けるのに結構な力が必要になった。非常に疲れる作業だ。
「この肉が腐らない肉だったら良かったんだけどね」
陽光の中、切り分けたブロック肉の一つを洗い、木の枝の串を刺して焼く。焼き加減を確認しながらも肉の切り分け作業を続ける。
「今日の夜にはぐっすりと眠りたいなぁ」
『ふむ。こやつはぐっすり眠っているようなのじゃ』
自分が作業を行っている横ではスコルが丸くなって眠っていた。まるで大きな猫みたいだ。
「野生の動物って、確か、狩りの時以外は体力を消耗しないようにするはずだから、仕方ないよ」
骨と肉のブロック、皮と鱗に分ける。太い骨は頑丈で色々なことに使えそうだった。
「うーん。使用用途を考えるよりも、まずは食事にしよう」
先ほどから焼いていた真っ黒になるまで焼けた肉を火の中から取り出す。真っ黒な蛇肉をまな板代わりの石の上にのせ、黒焦げになった木の串を引き抜き、石の短剣で焼けて黒くなっている部分を切り取っていく。
「うん、中まで火が通っているね」
中のしっかりと火が通った部分を囓る。
「うーん。あっさりとした味。切り分けた時は、あんなに固かったのに、思っているほど固い肉じゃないね。でも、やっぱりこのまま食べるのは味気ないなぁ。調味料が欲しいよ。ここが海の近くだったら良かったのに」
『ふむ。海であれば、今のソラが何日も旅をすればたどり着けると思うのじゃ』
「はは。そうなんだ。この湖の水が流れる先を探せば、もしかしたら海に出られるかもしれないって思ったんだけど、何日もかかるってなると準備が大変だね」
「ガルル」
食事をしているとスコルが起きたようだ。起きてそのまま近くにある小さい方の大蛇の死骸を囓っている。朝食なのだろう。
「ふあぁぁ、食べたら眠くなってきたよ。うーん、少しだけ仮眠しようかな。でも、肉が、うーん」
「ガル」
食事が終わったらしいスコルがこちらにやって来た。大蛇の死骸は、小さいとはいえ、まだ7割くらい残っている。スコルの食事7回分だろうか。ただ、そのまえに腐ってしまいそうだ。こちらもどうにかしたいところだ。
「ガルル」
やって来たスコルは何か手伝うことはないか、と言った表情でこちらを見ている。
「うーん。そうだ、さっきの森の奥で、ツタを見たんだけど、それを持ってきて貰うことは出来るかな」
「ガル」
スコルは、その程度のことか、と言わんばかりに小さく吼えた。
「お願いするよ。僕はスコルが戻ってくるまでの間、ちょっと仮眠するね」
そのまま大の字になって眠る。大蛇と戦い、徹夜で肉の切り分け、徹夜明けのテンションの高さでなんとか頑張れたが、疲労のピークだった。
……。
……。
「う、うーん」
何かが自分の顔を押している。
ゆっくりと目を開けると、すぐ近くにスコルの顔があった。吐き出される息が生臭い。野生の獣の匂いだ。
「スコル、匂うね」
その言葉を聞いたスコルが顔をしかめていた。
「って、寝てた!? どれくらい?」
『ふむ。ソラよ、目覚めたのじゃな』
お腹の上にイフリーダの顔がある。何故かイフリーダがお腹の上で丸くなっていた。重くはないけど、跳ね起きたら危ないぞ。
「イフリーダ、どれくらい寝てた?」
『わずかじゃ』
「そ、そうなんだ。じゃあ、作業を再開しないと。イフリーダ、僕のお腹の上からどけて貰っても良い?」
イフリーダは猫のようなしなやかな動作で、こちらの体の上から飛び降りる。
「ガル」
小さく吼えたスコルの方を見ると、その足元に丸くまとめられたツタが置いてあった。結構な長さだ。
頼んだものを採取してきてくれたようだ。ちゃんと言葉を理解し、綺麗な状態で持ってきてくれている。スコルは賢い。
「ありがとう、スコル」
スコルの頭に手を置き、優しくなでてあげる。青い毛はゴワゴワして、ちょっと脂っこかった。
「うーん。やっぱり体を洗ってあげないと駄目だね」
「ガ、ガルル」
スコルは少し困ったように小さく吼えていた。
「さて、と作業再開だ」




