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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命

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264 魔将

 スコルだ。


 その姿は僕が知っている時よりも少し大きくなっており、その前足には見覚えのない金属製の四角い具足が身につけられていた。


「ガルルルゥ」

 スコルはこちらを見て唸り声を上げている。


 ……。


 スコルが僕の目の前にいる。


 だが、目の前のスコルには以前にあった繋がりを感じない。


「あ、う、あ、う、あ、あ」

 話しかける。


 言葉が……。


 と、そこで僕の体を引っ張る者が居る。ボロ布の男が慌てたようにこちらの体を引っ張っていた。

「お、おい、あんた、離れるんだ」

「あ、う、あ、あ、あ」

 男の手を振り払う。


「おいおい!」

 するとボロ布の男がこちらの体に取り付いてきた。そのままこちらに小さな声で話しかけてくる。

「あんた、離れるんだ。あんたは知らないかもしれないが、その魔獣はただの魔獣じゃない。魔王ソラの四魔将、獣魔将のスコル・ディザスターだ」


 ……。


 魔王ソラ?


 誰のことだ?


 いや、それよりも、だ。スコル・ディザスター? ディザスターって何?


 スコルはスコルだよね。


「あ、う、あ」

 スコルとの繋がりを感じない。呼びかけることが出来ない。


「ガルルル」

 スコルはまるで敵でも見るかのような目でこちらを見ながら唸り声を上げ続けている。


 その目は辛い……。


 でも、声をかければ、スコルなら分かってくれるはずだ。

「あ、う……」

 駄目だ。


 声にならない。


 言葉にならない。


「あ、あ、あ」

 駄目だ。


 スコルに呼びかけたいのに、声が出ない。


「あ、あ、あ」

「ガルルル」

 スコルはこちらを見て唸り声を上げ続けている。襲いかかってこないのは、こちらが敵かどうかを見極めようとしているからだろうか。


 ……スコルは賢いからな。


「あ、あ、あ、あ、あ、あ」

 声を、何とか、声を。

「だから、あんた何を……」

 ボロ布の男は逃げることなく、こちらを引っ張り続けている。スコルに怯えているのに逃げないのか。


 ……悪い人ではないのかもしれない。


 でも、ここで逃げるわけには行かない。


 僕は逃げない。


「あ、あ、あ、す」

 声を、声を、何としても声を出す。声を出してスコルに話しかけるんだ。


 『あ』とか『う』とかでも音は出ているんだ。頑張れば何とかなるはずだ。


『ふむ。何をしようとしているのか分からぬが、我は無駄だと思うのじゃ』

 銀のイフリーダの呆れたような声が頭の中に響く。僕の行動は銀のイフリーダを呆れさせてばかりいるようだ。でも、これは必要なことだ。

『スコルに話しかけようとしているんだよ』

『ふむ。それなら我にやっているようにマナに話しかければ良いと思うのじゃ』

 銀のイフリーダは簡単なことのように言う。だが、今のスコルにはマナの繋がりを感じることが出来ない。マナへと呼びかけることが出来ない。


 だから、どうしても言葉が必要だ。


「あ、す、す、すこ、すこ」

 もう少し、もう少しだ。

「ガルル?」

 スコルはこちらがやろうとしていることが気になるのか、首を傾げ、こちらを見ている。


 待ってくれている。


 だから、頑張る。


「すこ、すこ……う、すこう、すこおう、すこおる、すこる、すこる、すこる!」

「ガルル」

 スコルは不思議なものを見るような目でこちらを見ている。


 やっと声になった。言葉になった。


 もう少し、もう少しだ。


「すこう、あ、ぼ、うく」

 違う。


「すこおる、ぼおく、ぼおくだ」

 腕を振り、自分を指差す。


『スコル、僕だ』

「すこる、ぼくだ」

 スコルに呼びかける。


「すこる、ぼくだ。ぼくがソラだ」

 呼びかける。


 そして、スコルは……。


 スコルは大きなため息を吐き出し、それはかつてよく見かけたスコルらしい態度だったけれど――体を伏せた。


「すこる?」

 そして、そのまま、その姿が動いた。


 動いたと思った時には僕の体が宙を舞っていた。


 弾き飛ばされた?


 見えなかった。


 恐ろしい早さだ。


 体が宙を舞い、そのまま地面に叩きつけられ転がる。転がる。


 痛みはない。この程度はたいしたことじゃない。


 だから、ゆっくりと手をつき、顔を上げる。


 スコルを見る。


 スコルは冷たい瞳でこちらを見ている――こちらをどうでも良いと思っているような瞳でこちらを見ている。

「すこ、る?」

 そして、そのまま背を見せ、宮殿跡を覆っている壁の向こうへと戻っていった。


 スコルに言葉が届かなかった。


 起き上がり、壁へと向かう。

「お、おい、あんた大丈夫か?」

 ボロ布の男が話しかけてくるが無視する。今はスコルだ。


 黄色が混じった白い壁。


 叩く。


 叩いた場所から大きな波紋が広がる。


 叩く。


 叩く。


 叩く。


 だが、今度は何も反応がない。波紋が広がるだけだ。


 スコルがもう一度現れることはなかった。


 どれだけ叩いても結界の壁は、こちらの衝撃を波紋にして逃がしていくだけだ。


 ……。


 最初に見た時はこの壁を壊すのは難しそうだと思ったが、その考えを改めた方が良いかもしれない。このままで、今の僕の力で、この壁を壊すのは――無理だ。


 まだまだ力が足りない。


 もっとマナの力を手に入れるか、何らかの方法を見つけるべきだ。スコルは、この結界の壁をすり抜けてやって来た。すり抜けるための何かの方法があるはずだ。


 手段。


 まずはそれを見つけるべきだ。


 そしてスコルともう一度会話をしよう。


 今度はもっとしっかりと喋れるようになって、ちゃんと言葉で伝えるべきだ。スコルが分かってくれるまで話しかけよう。


 会話をしよう。


 ……。


 だが、今は後回しだ。


 スコルが元気そうで良かった。


 元気そうな姿が見えただけでも良かったと思おう。

ディザスター(笑)

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