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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命

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255 獣

 弓と矢を持ち魔獣を探す。


 この周辺に魔獣の気配はない。何か、この場所には魔獣が近寄れない不思議な力が働いているのだろうか。


 魔獣が近寄れない――その理由はまだ分からない。でも、分かることもある。


 魔獣を探すために遠出する必要があるということだ。


 飛ぼう。


 明りを抱え翼を広げる。


 ぐちゃり。


 ぐちゃぐちゃと大きな音を立てて背中の翼が広がっていく。


 飛ぶ。


 暗闇の中を魔獣を探して飛んでいく。


 しばらく飛び続け、そして、魔獣の輝きを見つける。


 魔獣だ。


 獲物だ。


 抱えた明りで照らす。


 硬い甲羅に覆われ巨大な挟みの左手を持った魔獣。持っている輝きは大きい。これならお腹になりそうだ。


 巨大な甲羅から少し離れた場所に降りる。弓と矢の利点を活かすなら、やはり離れたところからの攻撃だ。


 体に絡みついていた矢を取るために体に手を入れる。体が、ぐじゅぐじゅとした音を立てる。


 ……矢を握る。


 弓を構え、矢を番える。


 巨大な甲殻の中にあるマナの輝きに狙いを定め、弓を引き絞っていく。


 狙う。


 輝き。


 放つ。


 矢が暗闇を穿ち、飛ぶ。


 そして、こちらに気付いていない巨大な甲殻に当たり――跳ね返った。


 矢は貫かない。


 貫けない。


 ……。


 そうだ。強い魔獣には、ただ飛ばしただけの矢では効果が無い。貫けない。分かっていたことだ。

 それでも弓と矢を選んだのは、通用すると思ったからだ。そのための方法があるからだ。


 攻撃を受け、こちらに気付いた巨大な甲殻が、その大きな挟みを打ち鳴らし、こちらへと駆けてくる。


 早いっ!


 でも……!


 次の矢を番える。


 まだ距離はある。


 ここから狙う。


 弓を引き絞る。そして、その番えた矢にマナの力を込めていく。弓に使われた木が良いのか途中で霧散することなく、弓を伝って矢にマナの力がたまっていく。

 その木の矢の先端にマナの輝きが灯る。


 放つ。


 暗闇の中をマナの輝きが飛ぶ。


 そして、こちらへと迫っていた巨大な甲殻を貫き、その体内にあったマナの結晶を貫く。


 大きな挟みを持ち上げていた巨大な甲殻の動きが止まる。


 貫いた。


 確かな手応え。


 駆ける。


 巨大な甲殻の前まで走る。ぐちゃぐちゃと何かがこぼれ落ちるような音が追いかけてくるが、気にしない。

 そして手を伸ばす。


 貫き、開いた甲殻の穴の中へと手を伸ばす。


 喰らう。


 巨大な甲殻のマナを喰らう。


 大きな挟みが崩れ落ち、巨大な甲殻は完全に動きを止めた。


 食べきった。


 大きな輝きを持っていただけあって、少しお腹が膨れた。空腹が癒される。


 矢を放つ時に消耗したマナを補っても充分過ぎるくらいの量だ。これなら、何とかなるかもしれない。


 今回のような強大なマナの輝きを持った魔獣を相手にするなら、マナの力を使うのは必須だ。


 木の剣にマナの力を宿した場合は常に消費をし続ける。相手に近寄って戦う、相手の間合いでマナの力を消すことは出来ない。どうしても大きな消費になってしまう。それに対して弓と矢なら、遠くから一方的に攻撃できる。それなら常にマナの力を使う必要がない。貫くだけの力が得られれば良いのだから、鏃に纏わせるマナの力も少量で済む。


 矢が消耗品だということを除けば、弓と矢は優れた武器だ。


 どちらにしてもマナを消費してしまうなら、使う量を抑える必要がある。弓と矢ならそれが出来る。


 これなら、ここでも戦える。


 巨大な甲殻。


 素材も手に入った。これを使えば鎧や盾が作れるかもしれない。攻撃を防ぎながら戦えるようになれば、もっと出来ることが増えるはずだ。

 拠点の拡張に使っても良い。これで建物を作れば住み心地が良くなるかもしれない。


 持って帰ろう。


 良い戦果だ。


 もっともっと戦って、もっともっと食べよう。


 と、その時だった。


 何?


 上から――空から何かが降ってくる。


 べちゃり。


 大きな音を立てて落ちてきたものが地面に叩きつけられる。


 何が落ちてきた?


 明りを掲げ、落ちてきたものを確認する。


 それは……人だった。


 多分、人だろう。


 落ちた衝撃でぐちゃぐちゃになり、ところどころ、欠け、折れ曲がっている。でも、人だったと思える原形が残っている。


 空から落ちてきた?


 人が?


 何故?


 死んでいる。


 高いところから落ちてきて固い地面に叩きつけられたんだ。生きているはずがない。


 だが、その死んでいたはずの人に何かが重なって見える。


 マナの輝き?


 その輝きは人の形に見える。生前の姿を取っているのだろうか。


 そして、その人の輝きが大きな口を開け、叫ぶ。


 怨嗟の声。


 声は――音は出ていないのに、声が聞こえる。


 恨みの言葉。


 呪いの言葉。


 様々な言葉が紡がれる。


 それはとりとめがなく、繋がっていない。


 ただ、思いを、死ぬ前の思いを――恨みを叫んでいるだけだ。


 その声に惹かれたかのように、周囲のマナが集まっていく。うっすらとこの空間に漂っていただけだったはずのマナが渦巻き、集まり、吸い込まれていく。


 そして、その人だったものが形を変えていく。


 潰れ、歪んでいた肉の塊が大きく膨れ上がり、四つ足の獣のような魔獣の姿へと変わっていく。


 魔獣が生まれた?


 魔獣?


 ……。


 人も魔獣もマナで作られている。その違いは……?


 そういえば、何処かで同じようなことが、あったような……。


 記憶の底にある、氷の城。そこで同じようなことが……。


 分からない。


 人が魔獣に?


 もしかして、ここに生息していた魔獣は……?


 魔獣が、大きな咆哮を上げる。


 そうだ。


 今は考えている時じゃない。


 倒す時だ。


 弓に矢を番えよう。

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