254 糸
木を削る。
木を削る。
作りたいものは決まっている。
木を削る。
形になっていく。
木を削る。
切れ目を入れる。
……。
部品が足りない。後、もう少しなのに部品が足りない。これでは完成しない。
足りない。
紐が、出来れば紐が欲しい。何処かに落ちていないだろうか?
周囲を見回す。
それらしいものは落ちていない。
いや、暗闇で見過ごしているかもしれない。見えないところにあるかもしれない。
……。
そうだ、食べた魔獣が利用できないだろうか?
ここには僕がマナを喰らった魔獣の死骸が転がっているはずだ。
暗い。
魔獣の体内にあったマナの輝きが消えた今では何処に魔獣の死骸があったのか分からなくなっている。
明かりが必要だ。
周囲を見る。
そうだ。
透明な容器に入った明かりを見る。これを取り外して持ち歩けないだろうか? 容器自体は手で持てる大きさだ。
ぐちゃり。
手で持ってみる。
問題無い。ただ、もっと持ちやすいように持ち手があった方が良さそうだ。後で作ろう。
まずはこれを持って移動だ。
暗闇の中を歩き、魔獣の死骸を探す。
素材になりそうな魔獣の死骸……。
ぐちゃり、ぐちゃり。
嫌な音が聞こえる。
いや、今はそれよりも優先することがある。まずは素材を見つけないと……。
ぐちゃり、ぐちゃり。
自分を追いかけるような音とともに素材を探す。
そして、その途中で何か輝くものを見つめる。キラキラと銀色に輝く物体。
何だろう?
銀色に輝く物体。手を伸ばす。触れる。
ぐちゃり。
その瞬間、体に熱が走った。熱い。何だろう、これは? 何かを思い出しそうな、何か懐かしくて、だけど、何処か不安になるような……。
危険だ。
この銀色はまだ早い。
もっと、もっと、僕が、僕として、人として形になってから、もっと色々なことを思い出してから手を出すべき物だ。
この銀色はまだ早い。
これは無視しよう。
今は無視しよう。
他に何かないだろうか?
……。
その銀色の物体の近くに細長い銀色の糸が落ちていた。
糸?
何の糸だろう。
この糸も銀色に輝いている。でも、先ほどの物体のような危険な感じはしない。
何故、こんな場所に糸が落ちているのだろう。いや、でも、これは使える。
これが欲しかったんだ。
他にもないだろうか?
銀の糸を探す。
そして、いくつかの銀の糸を見つけ、それを回収する。
拠点に戻る。
……拠点?
この明かりと本棚があった場所。あそこが拠点?
拠点――だ。
拠点だ。
そうだ、拠点だ。
拠点に戻り、拾った銀の糸を束ねていく。長く丈夫な糸だ。
そういえば、以前もこうやって束ねた糸を作っていたような気がする。何かを思い出しそうだ。
束ねた糸が完成する。これで素材は全て揃った。
束ねた糸を削った木の棒の端に巻き付ける。
銀の束糸が結びつけられた木の棒を立てる。そして、そのまま力を込めて木の棒をしならせながら銀の束糸を引っ張り、もう片方の端へと結びつける。
木の棒は硬く、それでいてしなやかさも持っている。
これは良い。
完成だ。
そして弓が完成した。
そう、弓だ。
弓なら離れた場所も攻撃できる。
これで武器が完成した。
でも、まだ足りないものがある。
弓に必要なもの。
そう、矢だ。
矢が必要だ。
矢も作る必要がある。
矢。
矢……。
木材?
そこで周囲を見回す。
そして見つける。
木で作られた……本棚。
そうだ、この本棚を潰そう。
ぐちゃり。
本棚から本を取り出し、分解する。木の剣で本棚を斬って木材に変えていく。
後は矢に加工するだけだ。
矢羽根は……。
……。
なんだか、ちょっと前にも矢羽根をどうしようかと悩んだ覚えがある。そうだ。同じようなことがあった。
その時はどうしただろうか?
確か、木を削って矢羽根の代わりにしたはずだ。今なら、もっと上手く作れるはずだ。
木材を加工して矢を作る。
ちらりと視界に積んだ本が見える。本はもっと余裕が出来たら読もう。
弓と矢。
これが僕の選択だ。
早速、作った弓を構える。
そして矢を番える。
試し撃ちだ。
狙うのは……。
的。
的?
的の用意を忘れていた。
えーっと、そうだ。どうしよう。いや、特に必要ない。ちゃんと飛ぶかどうかのテストなのだから、必要ない。
弓を引き絞り、構える。
狙いを定める。
狙い……?
狙う的はない。
まっすぐ飛ぶかどうかだ。
力を込め、そして放つ。
矢が放たれる。
暗闇を穿ち、矢が飛ぶ。
暗闇が切り裂かれる。
飛ぶ。
飛ぶ。
飛ぶ。
何処までも飛ぶ。
うん、これなら大丈夫だ。
戦える。
弓と矢でも戦える。
さあ、狩ろう。
マナを得よう。
お腹を。
空腹を癒すために。




