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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命

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253 空

 人。


 人だ。


 僕は人だ。


 人だから、人として考え、人として行動する。


 人だ。


 目でものを見て、頭でものを考える。


 そうだ、人だ。


 目を開き、暗闇を見る。暗闇の中にぼんやりとした明かりが見える。あそこが僕の生まれた場所。僕が存在した場所。


 明かりを求めて動く。


 翼を広げ、飛ぶ。


 ぐちゃり、ぐちゃり。


 空は――空中を飛ぶのは、とても気分が良い。空はとっても良い。


 これが、この暗闇の中ではなく、綺麗な青空だったなら、もっと、もっと良かったのに……。


 青空。


 何処で見たのだろうか?


 思い出せない。でも、それはきっと僕にとって大切なことだったんだ。


 暗闇の中を飛び、明かりの前に降りる。一瞬だ。


 ぐちゃぐちゃ。


 空を飛ぶというのはとても便利だ。そう、空を自由に飛んでいた彼らを、彼女たちを見て、うらやましいと思っていたんだ。


 明かりの下にあるものを見ていく。


 まずは、その明かりだ。透明な、錬金小瓶と同じような容器の中に次々と光が生まれては消えている。これが明かり。

 多分、空中に漂っている微量なマナに反応して輝く物質が入っているのだろう。マナに反応しているから、暗闇でとても綺麗に輝く。これがあれば、マナが存在している場所なら、明かりに困ることは無さそうだ。


 ……。


 マナ?


 マナが存在しない場所? そんな場所がもしあったとしたら、どんな生き物も生きていくことは出来ないだろう。マナがない場所、そこは死の世界だ。

 生き物はマナによって作られ、マナを精製し、循環し生きていく。マナがない生き物なんて、この世界には居ないはずだ。


 ぐちゃぐちゃ。


 本棚が並んでいる。本棚には様々な本が並んでいる。とても古そうな年代物の本から比較的新しい本まで様々だ。ここの主はどうやって、この本を手に入れていたのだろうか。


 本の内容は……。


 本の内容は気になるが、それは後回しだ。


 ここの主は、何故、ここに居たのだろうか。


 いや、ここでどうやって生活していたのかも気になる。


 考える。


 考えるのは人に与えられた力だ。だから、もっと考えよう。


 考えて、思い出す。


 自分が何だったのか。


 僕が何だったのか。


 ぐちゃぐちゃ。


 何故、この場所に居るのか。


 考えよう。


 机。


 三つの机がある。


 横長の机の上にはよく分からない器具が並んでいる。ここで体を作っていた?


 そして、その足元に、封のされていない錬金小瓶が転がっていた。何かの偶然か、衝撃によって机の上から落ちたようだ。中身は空っぽだ。この中にあったぐちゃぐちゃとした桃色の塊は何処に消えたのだろうか。


 ……。


 改めて自分の手を見る。足を見る。体を見る。


 ぐちゃぐちゃ。


 蠢いている。


 繊維が蠢いている。


 何とか、その形になろうとあがいているだけの肉の塊がそこにあった。


 何、この体?


 僕はどうなってしまったんだ?


 何故、僕はこの場所にいるのだろうか。


 いや、それよりも、何故、僕は、こんな体に……。


 僕は、化け物?


 体が、肉の塊が大きく蠢く。


 いや、違う。僕は人だ。


 人だ。


 マナが足りない。


 ぐちゃぐちゃ。


 もっと集めないと……。


 考えよう。


 考えることは必要だ。


 人は考える生き物なのだから。


 そうだ、道具を使うべきだ。


 戦う為の武器を手にして、もっとマナを集めないと駄目だ。


 体を固定しないと。意識を固定しないと。人になれない。


 何か、何か、武器になるようなものは……。


 周囲を見回す。


 机に、本棚。椅子。よく分からない器具。


 壊せば、何か武器に加工が出来るだろうか。考慮しよう。


 そこで転がっているものに気付く。


 錬金小瓶?


 違う、あれは……。


 二つに分かれた木の棒が転がっている。長い棒と、もう片方はまるで刃物のように削って刃が作らた木の棒だ。


 まるで木の剣だ。


 何だろう。


 とても懐かしい。


 自分にとって、とても大事なものだったような気がする。でも、思い出せない。


 もっと、もっとマナを手に入れれば、思い出せるのだろうか。


 そのためにも、これは必要だ。


 木の剣を手に取る。途中で無理矢理切断したからか、形は不格好だ。だけど、何か大きな力を感じる。


 力を入れようとすると、自分の中のマナが吸い取られた。そして、その木の剣がうっすらと輝く。


 切断するための光の刃。マナの剣。


 こちらのマナを吸い取って刃にする?


 良く切れそうだ。


 これなら、どれだけでも魔獣を狩れそうだ。マナを集めることが出来そうだ。


 でも、これは、お腹が空く。とてもお腹が空く。空腹を解消するために、さらに空腹になっていてはいつまで経ってもお腹いっぱいになることが出来ない。これは、あまり使わない方が良いだろう。


 この力を使わなくても刃物として使えないだろうか?


 もう片方の木の棒を拾い、木の刃を当ててみる。金属製の刃ではないので、簡単にはいかないが、頑張れば削れそうだ。


 マナを使った光の刃を使わなくても、使えないことはない。でも、魔獣と戦うには心許ない。だから、他に武器が必要だ。


 マナを手に入れないとお腹は空く。だけど、時間はあるんだ。


 まだ蓄えたマナには余裕があるはずだ。


 頑張って削ろう。


 武器を作ろう。


 この木の剣だけでは駄目だ。


 もっと、離れたところからも攻撃できるような、そんな武器が必要だ。

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