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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
終焉迷宮

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250 少年期の終わり

「誰だ?」

「誰、か、だと?」

 老人が椅子から立ち上がる。


 そして、こちらへとゆっくり歩いてくる。


 駄目だ。


 危険だ。


「この迷宮の守護者か何かですか? ここを守っている?」


 老人の足が止まる。そして、こちらを下から上に、舐めるように見つめてくる。


 ……何だろう? 何かを確認している?


 そして、老人が笑った。


「何を言っている? ここはまだ迷宮の半ばだ」


 半ば?


 ここが底だと思ったのに、まだ半分だった?


 まだ、ここからが本番ということ?


 いや、それよりも、だ。


 この老人は何者なのだろう。


 何故、こんな暗闇の中で、


 何故、こんな迷宮の中で、


 何故、


 何故……。


「さあ……」

 老人がこちらへと歩いてくる。


 まだ距離はある。


「何を言っている。あなたは誰だ。ここは……」

 老人がこちらへと歩いてくる。それに合わせて、後退る。


 逃げるように後退る。

「ああ、何故? 俺が説明しないと駄目なのか、その理由が分からないな」

 老人は足を止め、首を傾げる。


 飛び上がるように前転し、マナの剣を引き抜く。さらに世界樹の槍も引き抜き、右手にマナの剣、左手に世界樹の槍を持ち、構える。


 危険だ。


 この老人は危険だ。


「その剣はなかなか良い剣だな。だが、槍は不要だ」

 老人が歩いてくる。


「近寄るな! 近寄れば斬る」

 老人を近寄らせないようにマナの剣を振り回す。


 老人が足を止め、こちらを見る。


 いや、こちら? 自分の腕を見ているような気がする。


 右腕……?


「わざわざ説明する必要もないと思ったが、再確認も必要か」

 老人がため息を吐き出している。


「何を言っている?」

 老人が改めてこちらを見る。


「何処から話すべきか。お前は俺だということだ」

 お前は俺? どういう意味だ?


「俺は神を名乗る超越存在からの解放を目指し、その神たちを裏切り人の味方となった無の女神インフィーディアとともに戦っている」

 戦っている?


 マナを奉納することで神から力を得ることが出来る。


 その神……?


「かつてはアイロと呼ばれていた」

 アイロ?


 自分の夢に出てきた……夢?


 いや、あれは夢だったのだろうか?


「俺は戦い続けている。だが、俺の体は老い、戦うのは困難になってきた」

 老いて?


 確かに老いている。


 いや、ちょっと待て。


 おかしい。


 おかしいぞ。


 夢に出てきたアイロは遙か昔の人のはずだ。老いる程度で済むような年数ではないはずだ。


「だから、俺は考え、そして、若返ることにした。インフィーディアと協力し、神の力で自分の若い体を作る。そして、その体に乗り換える。俺はそうやって長き月日を生きてきた」

 体を作る?


 そこで老人の背後にある錬金小瓶が目に入った。その中にはぶよぶよと蠢く桃色の何かが詰まっている。


 あ。


 あ。


 あ。


 あああああああ。


 あああああああああああああああああああああああああああああああああああ。


「今回も同じように新しい体に乗り換えようとしたところだった。その体が神の使徒によって奪われてしまった」

 ああ。


 あああああ。


「だが、運の良いことにインフィーディアの分体が間に合った。しかし、その神の使徒には封じられた地に逃げ込まれ、その気配を追うことが出来なくなってしまった。長らく、その存在は消え、諦めかけていた。新しい体を作ることも考えたが、間に合いそうになかった。新しい体を作るのは、その素材も、時間も、非常に大変だからな」


 老人はこちらを見ている。


「だが、こうやって俺の元に帰ってきた」


 老人が手を広げる。


「ち、違う!」


 ……。


 体が、動かない。


 何故だ、体の自由が奪われている。


「しかも、インフィーディアの導きによって、どのマナにも染まらずに、力を蓄え、仲間を揃え、理想の形でやって来てくれた。ずっと見ていたよ。さすがは俺だな」

 老人が笑い、こちらへと歩いてくる。


 体が動かない。


 逃げられない。

「違う!」

「違わない。お前は自分で考えて行動していると思っているだろうが、それは体に残った記憶の残滓が、そう思わせているだけだ。お前は空っぽだよ」

 何で、体が動かないんだ?


 何かに体を抑えつけられているような……。


 何処かで同じようなことが……。


 そこで思い出す。


 ……!


 イフリーダっ!


 体を動かそうとすると右腕に巻き付いている銀色の腕輪が熱を発する。痛い。


「イフリーダ、なんで!」

 叫ぶ。


「イフリーダ? インフィーディアの分体のことだな」

「分体って、どういうことだ」

「インフィーディアが使役する――そうだな、子どものようなものだと思えば分かり易いか」

 子ども?


「でも、なんで!」

「何故? インフィーディアは元から俺のために動いてくれている。元の形に戻るために動くのは当然だろう」


 老人がこちらへと歩いてくる。


 その距離は――もう、ない。


 老人が手を伸ばす。


 体が、動かない。


 いや、違う。


 諦めては駄目だ。


 動かせ!


 こんなところで終われない!


 僕は迷宮を攻略しないと……。


 ……。


 跳ね返せっ!


「違う! 違う!」

 みんなが、みんなの力がっ!


 諦めないっ!


 動く、動く、うごかせっ!


 僕の戦い方は銀のイフリーダに教えて貰った。


 命を助けて貰った。


 道を示してくれた。


 でも、これは違うっ!


 銀の腕輪がはじけ飛ぶ。


 砕けた銀の煌めきが闇の中で光輝く。


 今、だっ!


 銀のイフリーダの拘束を跳ね返し、後方へと飛ぶ。


 そして、マナの剣と世界樹の槍を構える。


「これは……さすがは俺だな」

 老人が嬉しそうな顔でこちらを見ている。


「違う! 僕は僕だ!」


 老人が動く。


 その動きは早く、とても年老いているとは思えない動きだった。


 だけど、僕の方が早いっ!


 世界樹の槍で突きを放つ。


 老人が手を添え、滑らせるようにそれを抜ける。


 分かっている。


 これは囮。


 本命は……!


 マナの剣を老人目掛けて振り下ろす。世界樹の槍を躱したばかりの老人には回避出来ない。

 躱すことの出来ない軌跡だ。


 その時だった。


 何か、空気の塊を受けたような、強い衝撃を受ける。


 体が浮く。


 な、何がっ!


 気がついた時には自分の体が闇の中に横たわっていた。


 老人を見上げる。


 老人がこちらの手を踏む。マナの剣が手から離れる。

「インフィーディアは教えたはずだが? フォースの使い方を理解していないとは俺とは思えないな」

 老人がマナの剣を拾う。


「悪くない」

 寝転がった状態だ。


 だけど、まだ武器はある。


 もう片方の手に持っている世界樹の槍を……。

「だが、そちらの槍は不要だ。見ていたが使うには不便すぎる」

 老人がマナの剣を振るい、世界樹の槍を――切り落とす。


 世界樹の槍が途中から切り落とされ、転がる。


 こんな、こんな……。


「では、元に……」

 老人の手が伸びる。


 こんな、こんな……。


 老人の手が体に触れる。


 消える。


 自分が、


 僕が、


 なくなっていく。


 黒かった自分の髪が金色に輝いていく。


 色が変わっていく。


 何で。


 金色の髪に変わった自分が闇の中で座り、笑う。


 金色の僕の横に銀の髪の女性が現れる。そして、寄り添う。


 何で、僕は、それを見ているんだ。


 僕は、ここにいるのに。


 何で、僕があそこにいるんだ。


 消える。


 消えていく。


「俺がお前の物語を引き継ごう。良くやった」


 そして、闇に消えた。

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