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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
終焉迷宮

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248 結末を目指して

 これなら……。


 ここから降りることが出来れば、迷宮の深層へと進む近道が出来そうだ。


 ……。


 そこで気付く。


 もしかして、やっと手に入れた、この金属片――迷宮に入るための証明書だけど、必要がなかった?


 前回来た時に、迷宮の入り口から、この道へと進んで、この場所に来ていれば……。


 こんな、こんな遠回りをしなくても、迷宮に潜ることが出来た?


 なんて、無駄な……。


 いや、違う。


 無駄ではない。


 あの時、迷宮へと進むことが出来なかったから、金色のレームと出会えた。みんなの思いが詰まった剣と槍を手にすることが出来た。


 遠回りになってしまったけれど、必要な遠回りだったんだ。


 だけど、どちらにしても、せっかく手に入れた金属片が無駄になったことには違いない。あんなに手に入れようと頭を悩ませていたのに、と、少しだけ苦笑してしまう。


 後は、この崖を……。


「駄目だぞ、ソラ王」

 突端の右手側から崖下をのぞきんこんでいると金色のレームが慌てたような様子でこちらへとやって来た。

「考えていることは分かるが、それは駄目だ」


 金色のレームへと振り返る。

「駄目とは、どういう意味ですか?」

 金色のレームが小さくため息を吐き出す。

「ソラ王の考えていることは分かる。そこから降りたら、一気に下層へと降りられると思ったのだろう」


 その通りだ。


 大きく頷く。


「そう考えた者は多い。だが、そこから降りて戻ってきたものは居ない」


 考えた者は多い?


 戻って来ることが出来なかった?


 なら、道を作れば……。


「そして、こうも考えたのだろう? 降りる道を作れば、階段や梯子でもあれば、と」


 こちらの考えを読んでいるかのような金色のレームの言葉を聞き、何度も頷く。


「それが一番駄目だ。昔の、それこそ、物語になりそうなほど昔の話になる。そこの右手側に道を作った王がいたのだ」


 居たんだ。


 良いことを閃いたと思ったけれど、その程度は、誰もが考えることだったのか。


 でも、駄目な理由は何だろう?


「それで、どうなったんです?」

「簡単な話だ。その道を伝って凶暴な魔獣が、それこそ、この都市が壊滅するほどの魔獣が現れたのだよ」

 金色のレームは肩を竦めている。


「えーっと、なるほど。道があれば、深層に住んでいる凶暴な魔獣がそこを通ってやって来るということですね」

「その通りだ」

 この都市を壊滅させるほどの凶暴な魔獣。


 確かに、都市を危険にさらすのは不味いだろう。


 でも。


 でも、だ。


「分かりました。この都市には迷惑をかけないようにします」

「ああ。そうだ、ソラ王、ここは巡礼の道。ソラ王に迷宮がどういったものか分かって貰うために見て貰った場所だ。改めて、迷宮の入り口に案内しよう」

 金色のレームが来た道を、坂の方へと歩こうとする。


 だが、そちらには行かない。


 首を横に振る。


「ここを降ります」

「ソラ王!」

 金色のレームが驚いた顔で叫ぶ。


「レームさんの言葉を聞いていなかったわけでも、意味を理解出来なかった訳でもありません」

「ソラ王、それなら、何故!」

「レームさん……」


 首を横に振る。


 そして、改めて、友人である金色のレームを見る。

「レーム、僕が目指しているのは迷宮の深層です。底です。この道が危険なのは分かりました。でも、深層を目指すのならば、いつかは、その凶暴な魔獣と戦う必要があるはずです。その魔獣に勝てないのに、深層が攻略できるとは思えません」


 逃げていては駄目だ。


 だから、あえて、この道なき道を進む。


「ソラ王、本気なのか」

「本気です」

「道を進めば、迷宮の遺産を手にすることも出来る。マナを手に入れ、力を付けることも出来る。今は勝てない魔獣でもいつかは……」


 首を横に振る。


「自分はマナを捧げません。捧げていません。自分の力……自分と皆の力だけで勝ち進んできました」

「それは……」

 金色のレームが驚いた顔でこちらを見る。自分の力を、マナを捧げて手に入れたものだと思っていたのだろう。


「それに、今、迷宮は聖者の封印によって道が閉ざされているんですよね」

「確かにそうだ。だが、それは待てば、何とかなるものだ。焦ることはない」

 金色のレームがこちらを見ている。


 その瞳はこちらを心配してか揺れている。


 自分は、今、焦っている?


 違う。


 この好機を逃がしたくないだけだ。


 迷宮が呼んでいる。


 迷宮の底で僕を待っているものがある。


「レーム、ありがとう。あなたのおかげで、このヒトシュの地も、そうですね、最初の時の最悪な印象から変わりました。とても、とても良い思い出が出来ました。また会いましょう」


 金色のレームの言葉を待たず、右の崖から飛び降りる。


 落ちる。


 底が見えない闇へと落ちる。


 腰に差していた黒の短剣と石の短剣を引き抜く。


 黒の短剣を崖に突き刺す。金属で出来ていると思われる崖の層の壁にも黒の短剣はあっさりと突き刺さる。

 足を壁に滑らせ、勢いを殺す。


 その後は、石の短剣で均衡を取りながら、黒の短剣を突き刺し、ゆっくりと降りていく。さすがに、一気に飛び降りるような無茶はしない。底がどうなっているかも分からないのに、そんなことをすれば、命に関わる。


 僕は死にたいわけじゃない。


 迷宮を攻略したいんだ。


 降りる。


 崖を、壁を、遺跡を、降りていく。


 ……。


 どれだけ降りても先が見えない。


 深い。


 闇に飲み込まれるような感覚を覚えながらも降りていく。


 やがて日が暮れ始める。


 まだ陽が届く深さしか降りていない。まだまだ、底には遠い。


 降りる。


 降りる。


 日が落ちたところで手を止める。そのまま突き刺した黒の短剣の上に座る。そして背負い袋から干し肉を取り出し、囓る。水筒から水を飲む。


 そのまま黒の短剣の上で休む。


 陽が昇り始めたところで、また降り始める。


 何処まで続いているのだろうか。


 崖を降りる。


 底を目指す。

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