246 第二王子
「兄上、これで分かったはずだ。必要なのは、魔法であり、打ち砕く単純な力だ」
金色のレームが第二王子へと語りかける。それは何処か、諭すような口調だった。
第二王子はわなわなと震え、膝から崩れ落ちそうになる。しかし、その途中で歯を食いしばり、耐える。
そして、髪を掻き上げ、微笑んだ。
「これは、参った」
顔に手を当て、そのままその顔を上げ、空を見ている。
「これは参った。本当に参った。参ったよ」
そのまま動かない。
「兄上……」
そして、第二王子は、両手を広げ、こちらを見る。
「今までの無礼を詫びたい。凄い力だ。父上が取り入ろうとするのも分かる。当然だ。これほどとは思わなかった。私の考えが甘かった」
第二王子がこちらへとゆっくりと歩いてくる。
「あ、兄上?」
金色のレームは第二王子の突然の変貌に驚いている。
第二王子が自分の前で止まる。
「王よ、確かにあなたは王だった。軽んじていたことを許して貰えないだろうか。これだけの力を見せつけられれば納得するしかない。これだけの力の王だ、配下も凄いのだろう。弟の言葉をもう少し信じて考えるべきだった」
何を言っているんだ?
突然の変化について行けない。
「あー、もちろん、ただで私の態度が許されるとは思っていない」
第二王子はそう言って右手を上げる。
すると、何処に控えていたのか、一人の男が小さな金属のプレートを持って現れる。
「王は、迷宮に挑みたがっていると聞いた。これは迷宮の通行許可証だ。さらに、この都市での自由行動権も保証しよう。これで王の行動を阻むものは誰もいないはずだ」
第二王子が現れた男から小さな金属のプレートを受け取る。
確かに、それは自分が欲していたものだ。
迷宮に挑む権利。
そして、人を見かけでしか判断しないヒトシュの煩わしさを解消してくれる自由行動権。
どちらも自分が欲していたものだ。
だが、これはどういうことだろう。
あまりにも準備が良すぎる。
はじめから、これを自分に渡すつもりだったとしか思えない。この第二王子は何を考えているのだろうか? 何を考えていたのだろうか?
つかめない。
「どうだろう? 謝罪として用意したのだが?」
第二王子は金属のプレートをこちらへとかざし微笑んでいる。
「兄上、どういうつもりですか!」
金色のレームの言葉を聞き、第二王子は笑う。
「言葉通りだよ。謝罪だ」
……。
この第二王子、つかめない。
いや、これは好機だと思うべきか。自分が望むのは迷宮を攻略すること。それが怪しいものであれ、手に入るというのなら、その好機を逃さないようにするべきだ。
「分かりました。謝罪を受けます」
第二王子から金属のプレートを受け取る。
「ああ、王が心の広い方で良かった」
第二王子は笑っている。
そして、その笑いが止まる。
「だが、忘れないで欲しい。確かに今回は私の負けだ」
第二王子は強い瞳でこちらを見ている。
「だが、だが! 私の銃士隊はまだ十人ほどだ。だが、その数が百に増えればどうだろうか? 千に増えれば、どうだ! 今はまだ小さな力だ。使っている弾丸は小さなものだ。だが! その大きさを倍に、三倍に、四倍に、もっと沢山の火薬で大きな弾丸を撃ち出せばどうなる!? 今は、まだ、ここだ! だが、私は諦めたわけじゃない!」
そして、その意志を感じさせるように手を天へとかざし薙ぎ払う。
「弟よ、聞け。お前は魔法であり、単純な力と言ったな。その力をどれだけのものが手にすることが出来る? 魔法は神殿に頼らねば手に入らぬ力だ。この火薬以上の力を手に入れるためにどれだけ神殿に奉納する必要があるか考えたのか? これ以上、神殿に大きな顔をさせるつもりなのか!? この火薬は、銃は、練習すれば誰もが扱えるようになる武器だ。誰でも、簡単に力を手にすることが出来るのだよ! その意味を考えるのだ!」
……。
うーん。
まぁ、この第二王子の言いたいことや考えていることはなんとなく分かった。
でも、それを自分の目の前で言っても良いのだろうか。
それだけまっすぐな人物だと評価することも出来るけど、先ほどの謝罪が台無しになっている。
「えーっと、まぁ、その、頑張ってください」
「言われなくても頑張る、頑張ってやる!」
第二王子はこちらを睨むような目で見ている。
「えーっと、とりあえず、この許可証はありがとうございました。さっそく、迷宮に向かってみます」
「ああ、行けば良い。行って心折れてくれば良い!」
第二王子からの励ましのお言葉だ。
これは頑張らないとね。
それじゃあ、迷宮に向かおうか。
随分と遠回りしたけれど、やっと迷宮に挑戦できる。
やっとだ。
歩く。
歩いて行こう。
「ソラ王、待ってくれ。自分が案内しよう」
第二王子を放置して練武場を後にしようとしていると、金色のレームが追いかけてきた。
「助かります」
改め、て。
やっと迷宮だ。
そもそも迷宮とは何なのか。
どういった場所なのか。
これでやっと分かる。
最後の、そして当初からの目的地だ。




