245 銃士隊
宮殿を抜け、開けた場所に出る。これは裏庭とか、そういう感じの場所なのだろうか。
そして、そこにはすでに武装した集団と第二王子が待っていた。
「遅かったな」
第二王子がこちらへと歩いてくる。
並んでいる兵士たちは全員が軽装だ。金属製の胸当てだけを身につけ、長細い筒とそれよりも細く長い棒を持っている。
彼らが火薬を扱う兵士たちなのだろう。
「兄上が早すぎるだけだ」
金色のレームが呆れたような顔をしている。
なるほど。この第二王子は待ちきれなかったのか。そう言われてから、第二王子の顔を見てみれば、目の下に隈ができているようにも見えてくる。今日が楽しみすぎて、昨日の夜は眠れなかったのかもしれない。
「では、お見せしよう」
第二王子とともに並んでいる兵士のところへ向かう。
並んでいた兵士たちが手に持った細長い棒の方を地面に叩きつけた。これが彼らの挨拶なのかもしれない。
第二王子は満足そうな顔で頷いている。
その兵士たちの先、少し離れたところに金属の鎧が並べられていた。距離的には、剣や槍の間合いではない。弓の間合いだ。
「これが私の銃士隊の力だ!」
第二王子が手を上げる。
兵士たちが片膝立ちで細長い筒を構える。
そして、大きな音が響いた。
並んでいた金属の鎧が砕け、粉々になっていた。
兵士たちが立ち上がり、こちらの前へと整列する。それはかなり訓練された動きだった。
「どうかね」
第二王子が得意そうな顔でこちらへと振り返る。
どうかと言われても音が大きすぎて耳が痛いとしか言えない。
「相変わらず凄い音だ」
金色のレームは耳を押さえ、うんざりとした顔になっている。
「どう、ですか? 音は凄いですね」
金属製の鎧が粉々、か。
これを見て、改めて思う。銀のイフリーダが言っていたことは正しかった。弓などの攻撃では強力な魔獣は倒せない。
この火薬を使った武器を見て、それが実感できた。
「それだけ、だと? 他に言うべきことがあるだろう? あるはずだ」
ないです。
「封印されていた禁域に引き籠もっていた田舎者には、これの凄さがわからなかったようだ」
第二王子が、顔を振り、その金色の髪を掻き上げている。
「そうですか。金属の鎧は粉々に出来たようですが、その程度で竜の鱗を貫くことが出来るとは思えません」
そう、この武器は使えない。
「何を言っているのだ。竜? そのような御伽話にしか存在しないような魔獣を持ち出して通用しないとは……。いや、そういった伝説の魔獣を持ち出さないと駄目なほど恐れているということか……!?」
第二王子はかなり前向きな性格をしているようだ。
「あー、はい。なるほど、そう取るのか。では、分かりました。その武器をこちらに向けてください」
言葉で語るよりも実際に見せた方が伝わりやすい。特に、見たものしか理解出来ないヒトシュに分からせるには、それしかないだろう。
「お前は何を言っているか分かっているのか」
第二王子が驚いた顔でこちらを見ている。
「はい。その武器でこちらを狙って撃ってください」
先ほどの一回で、どんな武器かは大体理解出来た。
長細い筒の中で、火薬とやらを爆発させて、金属の弾を飛ばす武器なのだろう。
爆発する粉――火薬、か。
金色のレーム、第二王子から離れ、砕け散った金属鎧の前に立つ。ここなら二人を巻き込まないだろう。
「どうなっても知らないからな。銃士隊、一人、動け!」
第二王子が並んだ兵に命令を下す。
兵士たちが、困惑したような様子で第二王子の方を見ている。
「そちらが言い出したことだ、気にするな。構わず、やれ!」
兵士たちが顔を見回し、そのうちの一人が頷き、そして、こちらの正面へと歩いて来る。
第二王子が手を上げる。
その兵士が腰にくくりつけた袋から金属の弾を取り出し、何かの粉と一緒に長細い筒の中に入れる。そして、手に持っていた長い棒を先端から差し込み、押し込む。
威力でも、どうかと思ったが、発射の手間も酷い。こんなにも手間をかけないと弾を撃ち出すことが出来ないなんて武器としては使い物にならない。
戦いの最中にわざわざ弾を込めるのか? そんな隙を魔獣が許してくれるのか?
音が酷いのも問題だ。こんな大きな音、魔獣を呼び寄せるだけだ。
こちらの正面に立った兵士が片膝立ちで武器を構え、こちらに狙いを定める。だが、人を狙うのは初めてなのか、撃って良いのか、まだ少し迷っているようだった。
「大丈夫です。気にせず撃ってください!」
そして、爆音が響いた。
打ち出された金属の塊がこちらへと飛んでくる。
飛んできた金属の塊をギリギリまで引きつけ、指で摘まむ。
……。
意外と勢いが良かったのか摘まんだ金属の塊が滑り、指の間を抜ける。
あ、しまった。
とっさに金属の弾を握りつぶす。
指と指で挟んで摘まもうとするよりも、しっかりと握った方が安全に処理できるようだ。
「な、何をした!?」
第二王子が驚いた顔でこちらを見ている。
そちらに見えるように、手を伸ばし、握った手を開く。
握りつぶした金属の塊が落ちる。
「何をした! 何をした!」
「えーっと、その、飛んできた金属の塊を握りつぶしただけです」
第二王子の顔が驚きに染まる。
そして、その顔が徐々に怒りに染まっていく。
「た、確かに、凄いことが出来るようだ。だが、それは、こちらが一人だったからだ。本来、銃士隊は数で攻める。それが防げるか!」
「構いません。それで気が済むなら、どうぞ」
「言ったな! やれ!」
第二王子が兵士に命令をする。
困惑した顔の兵士たちが、こちらの前へと並んでいく。
そして、先ほどと同じように弾を込めていく。
第二王子が手を上げる。
大きな音が響く。
本当に音だけは厄介だ。
そして、無数の金属の塊がこちらへと飛んでくる。さすがに、これを全てつかみ取るのは難しいだろう。
だから……。
背中の剣へと手を伸ばす。
そして、前転するように飛び上がり、一気に引き抜く。
透明な、煌めくような刃が現れる。
一閃。
細長く純度の高い刃が金属の弾を全て消す。
そう、斬るのでも、叩き潰すのでもない。刃に触れた金属の弾が、その力によって消える。まるで蒸発したかのように消える。
これがマナの煌めき。
マナの剣。
ただの金属の塊を飛ばすだけの武器が通じるはずがない。
「な、何が起こった!? その剣は、何だ!」
第二王子は事態について行けず、驚いた顔のまま叫び続けている。
「それで、何を見せてくれるのだったでしょうか?」
マナの剣を構え、第二王子へと微笑む。




