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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
終焉迷宮

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243 分かり易い

 その後も謁見の間には、色々な人がやって来た。


 王に対するお願い事であったり、お願い事であったり、お願い事であったり、その殆どがお願いだ。貢ぎ物を持ってきて、お願いする。それは自分たちが住んでいる場所の優遇のお願いであったり、自分の地位を高めるためのお願いであったり、どれもこれも欲望にまみれたものだ。


 これが王の仕事?


 何というか、面倒ばかりでうんざりするような仕事だ。自分のところでは、皆が好き勝手にやっているけれど、それで上手くいっているから、ただ、ただ、ヒトシュは面倒な種族だ、としか思わない。


 ある程度、謁見が終わったところで王が立ち上がる。


 そして、王の近くに立っていた鎧が大きな声を上げた。

「今日はここまで!」

 謁見は終わったようだ。


 王とともに謁見の間を後にする。

「さて、ソラ王よ。私は、これから配下の者達と話し合いをせねばならぬ。終わるまで、先ほどの部屋で待っていて貰えぬか?」

「分かりました」

 王はこれから会議か。


 ヒトシュの王というものは忙しいようだ。


 あのふかふかの椅子に座って待っていよう。


 王とともに先ほどの部屋に戻る。

「では、ここで待っています」

「すまぬな。さすがに、この領に関わることを他国の王には見せられぬ」

 首を横に振る。


 今は手を取り合っているが、それがいつまで続くかは分からない。どうしたって秘密が出るのは仕方ない。


 それに、また、ここの、ふかふかの椅子に座れるのは悪くない。


 王が会議に向かう。


 自分はふかふかの椅子に体を沈め、のんびりと待つ。眠ってしまいそうだ。水筒の水を飲み、喉を潤し、ただ、待つ。


 頃合い的には日が落ちそうな時間だろうか。

「ソラ王、眠っていないよな? 行こう」

 金色のレームが迎えにやって来た。そろそろお腹も空いてきたところだ。


 どんな晩餐が待っているのか楽しみだ。


 日が落ち始めた廊下を歩き、広めの部屋へと案内される。もう日が落ちようとしているのに、随分と明るい。


 部屋の天井を見ると、何か光り輝く透明な箱がくっついていた。


 照明?


 もしかすると、これも迷宮で見つかった不思議な道具なのかもしれない。

「ソラ王は王の隣に」

 金色のレームに言われるまま、王の隣へと向かう。


 部屋の中には大きな長細い机が一つ、そして並んだ椅子。一番奥の椅子に王が座っている。

「ソラ王、こちらだ」

 王が立ち上がり、自分を呼ぶ。


 王の隣が自分の席のようだ。しかし、そこは、普通なら王妃の座る場所なのではないだろうか? ここでは違うのだろうか?


 椅子に座っている人たちを見ながら王のところへと向かう。


 一番奥に王。その次の席に初めて見る男が座っている。目つきの鋭い金髪の優男だ。金色のレームよりはかなり年上に見える。

 次に座っているのが、あの嫌みな髭の男だ。金色のレームの兄だったのだから、この髭の男も王子なのだろう。

 三番目が金色のレームだ。


 二番目の席の王子よりも一番目の席に座っている人物の方が年下に見える。でも、席順としては一番なのか。


 最後の席には大人しそうな少女が座っていた。


 誰だろう?


 この場で唯一の女性だ。


 そして、彼らの後ろには、彼らを守るための兵なのか、鎧の男が並んでいた。


 その並んでいる鎧の男たちの中、少女の後ろに立っている男に見覚えがあった。ヒトシュの地から森に戻る時、魔獣に襲われた馬車を守っていた男だ。

 向こうもこちらに気付いたのか、驚いた顔でこちらを見ている。


 ……。


 あの時の、この男がとった態度は忘れていない。だが、今は、それを言うべき時でも場所でもない。


 まぁ、無視しよう。


 王の隣に立つ。こちらを見ていた王が頷き、座っていた王子たちの方へと向き直る。


「皆に紹介しよう。新しく友好国となった隣国の王、ソラ王だ」

 王が皆に自分を紹介する。


 それで並んでいる彼らは誰なのだろうか。いや、まぁ、大体は分かるのだけれど……。


「ソラ王、ここに居るのは全て私の身内ばかりだ」

 王がこちらに笑いかける。


 ……。


 その身内の後ろに並んでいる護衛の兵たちは、どう見ても身内ではない。王からすると、見えない――居ない存在なのかもしれない。


「紹介して貰っても?」

 王に聞く。


「うむ。手前が私の二番目の子にして、第一王位継承権を持つガッソだ」

 紹介された王子が、こちらを見てニヤリと笑う。挨拶は返してくれないようだ。


「次が……」

 王が口を開く。しかし、その王の言葉を遮るように第二王子が口を開いた。

「父上、私たちの紹介よりも先に食事を。私の弟が、何でも禁忌の地から持ち帰った食材を使ったとか」

 王とよく似た良く通る声だ。


「おお、そうだな。食べながら紹介をしよう」

 王の言葉によって料理が運ばれてくる。


 席に座り、それを待つ。


 皿にのっているのは炊いた天舞を魔獣肉の脂で炒めた料理だった。カノンさんが作ってくれた料理に似ている。


 これは美味しそうだ。


「この料理は、ソラ王から分けて貰った食材を、我が国の料理人が調理したものだ。ソラ王との友好の料理だ」

 王が、王子たちに言い聞かせるような口調で喋る。


 王子たちが出された料理を口にする。そして、驚きの顔で固まっている。

「これは……」


 王も同じように食べ、固まっている。


 そして、一気に食べ始めた。

「うむ。これは美味しい」

 それを楽しそうな表情で金色のレームが眺めていた。


「う、うむ。思わず、食べてしまった。いや、紹介の続きだな」

 王が、驚きから立ち直り、紹介を再開する。


「二番目が、一番目の王子だ。王権を放棄し、学院で迷宮と古代語を研究している。名は……」

「おじいさま、私も紹介してください」

 最後の席に座った少女が口を開く。


「おおう、リリィよ、そうだな。リリィを紹介しよう。孫娘のリリィだ。他国の貴族に嫁いだ娘の子だが、この領国に遊びに来ておる」

 王の目が緩んでいる。


 王は、どうにも子に甘い性格のようだ。


 と、油ぽいものを食べたからか、喉が渇いた。


 せっかくだから、ヨクシュの皆さんから貰った黄金色の水を振る舞おう。


「何か飲み物を入れる容器はありますか?」

「ソラ王、あれだな!」

 金色のレームがこちらが振る舞おうとしているものに気付いたようだ。


 やって来た男から容器を受け取り、その中に錬金小瓶に入っていた黄金色の水を移し替える。その容器を男に渡し、そこから、皆のグラスに注いで貰う。


「飲むと驚くと思いますよ」

 金色のレームが笑っている。


 王子の二人は黄金色の水を前に、どうしたものかとためらっている。


 それを見た最後の席に座った少女が、勇気を振り絞るように目を閉じ、黄金色の水を飲む。

 そして、ぱぁと花開くような笑顔を見せる。

「おじいさま、とても美味しいです! とても甘くて、とても美味しいです。それになんだか元気が湧いてくる気がします」

 少女が喜んでいる。


 それを見て、二人の王子と王も黄金色の水を飲む。そして、とろけるような顔を見せていた。

「これは凄い」

「このような飲み物は初めてだ」


「喜んで貰えて良かったです」

 良かった。


 料理を食べ、飲み物を飲み、一息つく。


 そして、第二王子が口を開いた。

「確かにこれは凄い。ですが、父上、これだけで、我が国が同盟を組む価値があるのでしょうか?」

 同盟?


 いつ、自分が同盟を組みたいなんて言ったのだろうか。


「ふむ。ガッソよ。ソラ王の国は優れた兵も有していると聞く。この剣を見よ。我が領国に、このような剣を作れる鍛冶士が居るだろうか?」

 王が第二王子に剣を見せる。


 ああ、剣、持ってきたんだ。


 しかし、第二王子はそれを鼻で笑う。

「父上、かつて武でこの国を手に入れた方らしくない言葉です。確かに、そこに居る蛮族の王が持ってきたものは優れているのでしょう。ですが、剣の時代は終わったのです。剣が凄い? 私の銃士隊なら、それ以上の活躍が出来るでしょう。優れたものを持っている国があるなら、力によって属国にすれば良いのです。このような迷宮があるだけの辺境で終わる必要はありません」


 ……。


 もしかして、これは喧嘩を売られているのだろうか。


「えーっと、それはどういうことですか?」

「ああ、蛮族の王には私の言葉が分からない、か。良いでしょう。明日、練武場にて私の銃士隊の力をお見せしよう。そして、蛮族の国のあり方を学ぶと良い」


 どうやら、本格的に喧嘩を売られたようだ。

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