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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
終焉迷宮

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242/365

238 ヒトシュの村

「ガルルルゥ」

 スコルが小さく吼え、その大きな頭を押しつけてくる。自分は? と言っているのだろうか。

「スコルはもうとっくに友人だよ」

「ガルルル」

 スコルが当然だ、という感じで吼える。金色のレームと話した時の言葉の意味は分からなかったはずだのに、もしかすると、なんとなく雰囲気で察したのかもしれない。


 スコルの顔を撫でる。


 そのままスコルの体を枕代わりに眠る。


 おやすみなさい。


 そして、翌朝。


 朝食を食べ、境界を越える。


「スコル、またね」

「ガルルル」

 境界の向こうで足を揃え座っているスコルが頷く。


「では、レームさん、行きましょう」

「ああ」

 金色のレームが大きな荷物を背負い、歩く。なかなか力持ちだ。


 獣道を歩いて行く。

「この先に村がある。そこで馬を譲って貰おう」

 金色のレームの提案。


 馬?


「馬ですか?」

「ああ、ソラ王の騎乗魔獣に比べれば劣るだろうが、荷物を運ぶのにも便利だ」

「スコルは騎乗魔獣では無く、友人ですよ」

 ここだけは訂正しておく。


 こちらが支配するのではなく、助け合う関係だからだ。


「すまない」

 それを聞いた金色のレームが頭を下げる。


「いえ、分かって貰えたら充分です。ところで馬ですか?」

「ああ、馬だ。ソラ王は馬に乗ったことは?」

「多分、無いです」

 ヒトシュの地を歩いていた時に見かけた、人の連れ歩いていた四つ足の魔獣が馬なのだろうか。


「それでは乗る用と荷物を運ぶ用の二頭にしよう」

 金色のレームの提案。とりあえず、勝手が分からないので、全て任せることにする。

「ヒトシュの地のことはヒトシュであるレームさんに任せます」

「おう、任された」

 金色のレームが笑い、自分の胸を叩く。


 獣道を抜け、大きな道に出る。そこまで出ると、道を歩いているヒトシュの姿を見かけるようになる。


「人の姿が見えますね」

「ソラ王、この辺りは辺境と呼ばれる場所だ。あまり人が通らない場所だな。それでも隣国へと向かうために、こうやって歩いている者達はいる」

 金色のレームが解説をしてくれる。こうやってヒトシュの地のことを教えてくれる人がいると、とても助かる。

 前に来た時とは違う見え方が出来るかもしれない。


 歩き続け、やがて石造りの建物が見えてきた。ここは以前も通った場所だ。ただ、その時は建物の扉を叩いても何の反応もなかった。反応して貰えなかった。

「ソラ王、早いが今日はここで泊ろう」

「あ、はい。分かりました」


 そういえば、この村? から目的地である都市までは結構な距離があったはずだ。それを踏まえて少し早くても、ここで休むことにしたのだろう。


 だが、この村の人たちは反応してくれるのだろうか?


 呼びかけに答えてくれるのだろうか。


 石造りの建物が並ぶ道を、金色のレームの案内で歩く。自分はついて行くだけだ。


 そして、少し大きめの建物の前で止まる。

「ソラ王、自分が交渉してくる。少し待っていてくれ」

「分かりました」


 交渉ごとは任せよう。


 自分がヒトシュと関わるとろくなことにならない。


 建物の外で待つ。


 ……。


 ……。


「なぁ、おい」


 すると、見知らぬヒトシュの男が話しかけてきた。


 無視しよう。


「おい」


 無視しよう。


「おい、ガキ、聞こえねぇフリをするんじゃねえよ!」


 無視しよう。


「このガキがっ!」


 男がこちらへと手を伸ばしてくる。


 何のつもりだ?


 斬るか?


 背中の剣へと手が伸びかける。


 ……。


 しかし、その手を途中で止める。


 男が、こちらへと伸ばした手を誰かが掴んでいた。

「自分の友人に何の用だ?」

 いや、誰かではない。金色のレームだ。


 男が怯えた目で金色のレームを見る。

「あ、いえ、そこのガキが……」

 金色のレームが力強い瞳で男を睨む。

「あ、その、そこの坊ちゃんが一人でいたので、迷子になったのかと……」

「失せろ」

 金色のレームが男の手を離す。


 男は怯えたようにペコペコと頭を下げながら逃げていく。


 何だったのだろうか。


「何だったんでしょうね」

 金色のレームが大きなため息を吐き出す。

「ちょっと離れた間に絡まれるとは、普段はこんなことないはずが……ソラ王は何か、よからぬ輩を引きつける匂いでも出しているのだろうか」

「心外です。それなら、レームさんもよからぬ輩ということになりますよ」

「その通りだ!」

 金色のレームは腹を抱えて笑っている。


 一通り笑い終わった後、こちらを見る。

「ソラ王、宿は取れた。馬を見に行こう」

 馬を見に行く?


 ああ、ここで全て終わるわけじゃないのか。


 金色のレームの案内でヒトシュの村を歩く。


 そして、柵に囲まれた広場に出る。その柵の中では長く伸びた四つ足の魔獣が元気に駆け回っていた。足だけではなく首も少し長い。

 その魔獣の大きさは人と同じくらいのものから、人の倍くらいありそうなものまで揃っている。小さいのは子どもだろうか。


「これが馬ですか?」

「馬だ。ちょっと、馬主に話をつけてくる。その間、ソラ王はここで待っていてくれ。ここならさすがに絡んでくる輩もいないだろうからな」

 そう言って金色のレームは笑いながら歩いて行く。


 こちらも絡まれたくて絡まれているわけじゃないのだけれど。


 まぁ、大人しく待っていよう。


 ヒトシュの地のことはヒトシュである金色のレームに任せよう。


 にしても、馬、か。


 柵まで近づき、馬を眺める。首が長く、足も長い。あまり強そうな魔獣ではない。でも足が長いから、走るのは速そうだ。と言っても、さすがにスコルほどの速度は出ないだろう。


 まぁ、自分が歩くのよりは速そうだから、充分かな。


 そんな感じで馬を眺めていると、一際大きな馬がこちらへと駆け寄ってきた。


 手を振り、笑いかける。


 すると、その馬はこちらを馬鹿にしたような表情で、こちらへと走ってきた。意外と速い。一瞬で目の前へと迫る。


 馬と自分の間には柵がある。だが、そんな柵など壊してしまいそうな勢いで――いや、それを壊し、こちらへと走ってくる。


 このままこちらを吹き飛ばすつもりか!?


 斬るか?


 いや、さすがに、この飼育している魔獣を殺すのは不味い、か。


 手を伸ばす。


 馬が迫る。


 ぶつかる。


 その瞬間に馬の足を手で掴み、飛び上がる。自分の体を持ち上げ、一気に馬の背に跨がる。

 手を馬の首筋に当てる。そこから、馬の中にあるマナの流れを掴む。

「落ち着け」


 馬がビクンと跳ね、動きを止める。そして、ゆっくりと長い首をこちらへと回した。その顔は何処か怯えている。


「走るよ」

 馬がゆっくりと頷き、顔を戻す。そして、駆け出した。


 ……。


 スコルほどじゃないけど、そこそこ速い。自分で走るよりは、充分、速い。それに、だ。自分で動くわけじゃないから疲れないのが良い。


 そんな風に馬を走らせていると、金色のレームが戻ってきた。誰か人を連れている。ここの馬主? 管理人だろうか?


「レームさん、話はまとまりましたか?」

 馬を走らせ、金色のレームの元へ。


 金色のレームがこちらを見て何処か呆れたようなため息を吐き、そして、笑った。

「ソラ王、大人しく待っているよう頼んだはずだが?」

「この馬に絡まれました」

 馬の首筋を軽く叩く。それを見た金色のレームは顔に手を当て、宙を見た。


「あ、あの暴れ馬が人に、しかも、こんな子どもに懐いているなんて……」

 一緒にやって来た男が何か言っている。


 この馬は、暴れ馬という馬だったらしい。

虹色のマントを纏い、長剣、木槍を持った怪しい人物に普通に絡んでくる男。

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