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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
終焉迷宮

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236/365

232 拠点防衛戦

 防壁の上に立ち、魔獣の襲撃を待つ。自分の隣ではセツさんが翼を折りたたみ、その時を今か今かと待ち構えている。


 炎の手さんが防壁を作った時は必要があるのかどうか疑問だったけれど、こういう事態になってみるとあって良かったと思える。


 あって良かった防壁だ。


 蜘蛛の巨体を持ったカノンさんは防壁に空けられた唯一の入り口――門の前で待ち構えている。そして、その隣には決意を秘めた顔で金色のレームが立っていた。出来れば、お客さんである金色のレームには安全な場所に隠れていて欲しい。でも、責任を感じて戦いたいという人を止めることなんて出来ない。


 それならば、だ。


 これから戦場となる、この場では、カノンさんの隣が一番安全な場所だ。


 だから、そこを守って貰う。


 ……。


 あれ?


 でも……。


 そういえば彼は武器を持っていない。ただ、立っているだけなんて命を投げ捨てるようなものだ。どうするつもりなのだろう?


「戦士の王、お待たせしたのです!」

「戦士の王、準備に時間がかかってしまって申し訳ないのですっ!」

 やって来た戦士の二人、働く口さんと喋る足さんが防壁の下で大きな声を上げ、こちらを呼ぶ。


 せっかく来てくれたが、二人の実力では、魔獣の群の相手をするのは、少し厳しいかもしれない。だからと言って、やっと休むことが出来た語る黒さんを引っ張ってくるのもかわいそうだ。


 ん?


 と、そこで二人が手に持っている武器に気付く。


 そう、槍だ。


「すいません、その槍を貸してください。それと、鍛冶作業場から量産品で良いので剣を一本持ってきて貰えませんか?」

「分かったのです!」

「任せるのです。戦士の王、受け取るのです」


 喋る足さんが手に持った槍を構え、こちらへと投げ放つ。その飛んできた槍を掴む。なかなか鋭い勢いだ。これも槍の鍛錬を積んだ成果なのだろう。


 これで槍は手に入った。槍と剣があれば何とかなる。


「剣は門のところに居るヒトシュのレームさんに渡してください。その後、お二人はその場でカノンさんと一緒に門を守ってください」

「分かったのです」


 さて、と。これで準備は終わりだ。いや、準備といえる準備なんてもとから何も無い。ただ、倒すだけ。いつもと変わらない。


「王様、そろそろ来るみたいだぜ」

 防壁の上、自分の隣で待ち構えていたセツさんが翼を広げる。


 前方の森から大きな音が聞こえてくる。何か大きなものが辺りの木々をなぎ倒し、這いずり進む音。

 森の中を無数のマナの煌めきが見える。確かに数が多い。


「先制攻撃だぜ!」

 セツさんが叫ぶ。そして、渦巻く風とともに飛び立つ。


 速い。


 森から巨大な蛇と無数の大蜥蜴が姿を現す。


 そして、その先頭の一匹を目掛け、空高く舞い上がったセツさんが落ちていく。そう、落ちる。


 その落下の勢いのまま大蜥蜴の頭部に棍が炸裂する。たった、一撃で大蜥蜴が砕け散り、地面が凹む。そして、こちらへと進軍していた魔獣の群の足が止まった。


 セツさんを恐れて動けなくなっている。


「どうした、どうした! うちは一人だぜ!」

 セツさんが棍を振り回し、楽しそうに魔獣の群へと突っ込んでいく。飛び、跳ね、駆ける。


 自分も見とれている場合じゃない。


 行こう。


 槍と剣を持ち、防壁の上から飛び降りる。うん、この上に乗っていた意味が無かった。


「ソラ、ここは任せるのだ。討ち漏らした魔獣は私が斬るのだ。こちらの分担は十なので、そのつもりで気楽に行くのだ」

 カノンさんが門を守ってくれている。こんなに心強いことは無い。


「ありがとうございます」

 魔獣の群へと駆ける。


 槍を投げ放つ。槍が大蜥蜴の一匹を貫く。そのまま群へと駆ける。群の中を剣で切り抜け、大蜥蜴を貫いた槍を引き抜く。


 こいつら、そこまで強くないっ!


 と、そこへ大蜥蜴の一匹が液体を吐きかけてきた。とっさに屈み、液体を躱す。が、そこを狙ったかのように大蛇が大きな体を動かし薙ぎ払ってきた。


「おっと、王様。油断しすぎだぜ」

 その巨体から繰り出された薙ぎ払いをセツさんが棍で受け止める。セツさんの何倍もある蛇の巨体を棍一本で受け止めている。恐ろしい膂力だ。


 大蛇がセツさんを恐れたかのように尻尾を動かし距離を取る。


「助かりました」

 セツさんは嘴を歪め笑い、次の獲物へと向かっていく。


 本当に一人で何とかしてしまいそうな強さだ。


 しかし、そのセツさんを押し潰すように大蜥蜴たちが一斉に飛びかかった。

「ちっ!」

 飛びかかってきた数匹を棍で吹き飛ばすが、対処しきれなかった数匹にのしかかられる。


 どんなに強くても一人では相手に出来る数に限りがある。物量でこられてしまうと対処が出来ない!


 セツさんを助けないと!


 駆ける。


 大蜥蜴を剣で薙ぎ払い、槍で貫く。


 が、数を減らそうとすると片目の大蛇が動き、こちらの邪魔をする。

「セツさん!」

「お、王様、し、心配しすぎだーぜー」

 重なった大蜥蜴の下からセツさんの声が聞こえる。


 そして、大蜥蜴の山がはじけ飛んだ。そして、そのまま近くの大蜥蜴に喰らいつく。

「セツさん、その大蜥蜴には毒が……」


 セツさんが口元の毒々しい色の液体を拭い、肉片を吐き出す。

「毒があるくらいの方が肉は美味しいんだぜ!」

 と、そう言いながら豪快に笑い、そして、少しよろめいていた。


「あー、もう。油断して少し逃したぜ」


 セツさんが押し潰されていた間に見逃してしまった大蜥蜴が、二匹ほど門の方へと向かってしまったようだ。

 門へと二匹の大蜥蜴が迫る。防壁があるためか、大蜥蜴たちは唯一の入り口である開かれた門を目指している。こいつらにもそれくらいの賢さはあるようだ。


 だけど……。


 そこにはカノンさんが居る。


 目指すべき場所を間違えている。


 大蜥蜴の一匹がカノンさんへと迫る。


 カノンさんが動く。


 腰に差した細身の剣の柄へと手を置く。そして、その手が一瞬ぶれたかと思った時には、終わっていた。


 大蜥蜴の体に綺麗な線が入り、ずるりと滑り落ちていく。


 カノンさんの恐ろしいところは蜘蛛の巨体を使った戦いだけでも脅威なのに、その上で武器を使った技術を極めているところだ。


 そして、そんなカノンさんの元へもう一匹の大蜥蜴が迫る。


「うん? 譲るのだ」

 カノンさんが大きな前足を持ち上げ、振り下ろし、大蜥蜴の足を叩き潰した。そう、その巨体を使ってもこれだけのことが出来るのがカノンさんの恐ろしいところだ。


 そして、そのまま腕を組み、放置する。何をしているのだろう?


「よく分からないが、承った!」

 金色のレームが量産の剣を持ち、その大蜥蜴と対峙する。補佐として、喋る足さん、働く口さんの二人も加わっている。


 あー、因縁があると思って譲ってあげたのか。


 と、向こうを見てばかりではなく、こっちも戦わないと……。


 見ればセツさんは片目の大蛇と戦っていた。強力な一撃を棍で受け止め、そのまま棍を叩きつける。だが、大蛇にはあまり効いている様子が無い。セツさんでも大蛇の相手は苦労するようだ。


 そこへさらに追加がやって来た。


「ガルルルゥ」

 石の両手剣を口に咥えたスコルだ。


 スコルは何故呼ばなかったんだ、というちょっと拗ねた顔でこちらを見ている。


「えーっと、ごめん。一緒に頑張ろう」

 スコルの背へと飛び乗る。


 カノンさん、セツさん、そしてスコルもやって来た。


 後は殲滅するだけだ。

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