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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
終焉迷宮

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227 ヒトシュ

 剣が無くなってしまった理由を説明しよう。


 このままだと、自分がまた壊したと疑われてしまう。


「えーっと、炎の手さん、ファフテマさんに会ってきました」

「なんと、会えるとは思っていなかったのです。と、……戦士の王、話を逸らさないで欲しいのです」

 炎の手さんが細めた目でこちらを見ている。


「いえ、話を逸らしたわけじゃありません。関係のある話です。ファフテマさんは、今は……えーっと、確か、十六代だったかと。今は後継者が、その後を継いでいます。ヒトシュの地で成功して、有名な鍛冶工房としての地位を築いたようです」

「なんと、それは良かったのです」

 炎の手さんは嬉しそうだ。


 と、そこまでは良い。


 次のことは出来れば伝えたくない。だが、これは言わないと駄目なことだ。


「それで話は戻ります。その今の当主であるファフテマさんに剣を見せてくれと言われたので、渡したら、そのまま盗まれました」

 それを聞いた炎の手さんの表情は、なんとも言えないものだった。がっかりしているような、寂しそうな、諦めているような、色々な感情が交じった表情だ。


「……戦士の王、分かったのです。あのいくらでも作れる剣ではなく、最高の剣を用意するのです」

「あー、それなら槍をお願いします」

「……分かったのです」

 炎の手さんは少し間を置き、それでも頷く。


 えーっと、剣は剣で作成をお願いします。


 と、そこでふと疑問に思ったことを聞いてみることにした。

「炎の手さんから見たヒトシュは、どういった種族なのでしょうか?」


 炎の手さんが少し考え込み、口を開く。

「なかなか答えるのが難しい質問なのです」

 そのまま、考えをまとめるためにか、口を閉ざす。


「何を話しているのだ」

「そうだぞ」

 こちらの会話が気になったのか、先ほどまで激しく戦っていたカノンさんとセツさんの二人もやって来る。


 勝負の結果がどうなったか気になるところだけれど、二人にも聞いてみよう。


「二人はヒトシュをどういった種族だと思っていますか?」

 それを聞いたカノンさんは皮肉気に笑い、セツさんは気まずそうに上を見ていた。


「どうでしょう?」


 最初に口を開いたのはセツさんだった。

「ヒトシュである王様には悪いけど、数だけ多くて猜疑心の塊って種族だと思うぜ」

 セツさんはこちらに気を使ってくれているようだ。それでもずばりと言ってのける。


 次にカノンさんが口を開く。

「そして、形にこだわる種族なのだ。目で見えるものしか見えぬ愚かな種族なのだ。権威、欲――本人の資質、力では無く、見た目で地位を判断し高める種族なのだ」


 確かにその通りだ。


 本当にどうしようもない種族だと思う。


 数は多くても人を疑ってばかりで、見た目でしか判断しない。自分がヒトシュの地で受けた仕打ち、そのままだ。


 リュウシュの里でヒトシュの地位が低かったのも、カノンさんがヒトシュを下に見ていたのも、今なら全て理解出来る。


 そうなっても仕方ない種族だった。


 最後に炎の手さんが口を開いた。

「しかし、なのです。突如として優れた力を持った者が生まれる、そんな可能性の種族でもあると思うのです」


 それを聞いたカノンさんとセツさんが顔を見合わせ、そしてこちらを見る。二人は、自分がそうだと思っているのだろう。でも、多分、炎の手さんが考えているのは、初代のファフテマさんのことだと思う。


 可能性の種族、か。


 どうしようもない種族だけど、可能性も秘めている。


 自分が、あんな種族と同じということに少しうんざりしていたけれど。それでも……うん。

「ありがとうございます。僕も、ヒトシュはどうしようもない種族だと思っています。でも、炎の手さんが言ってくれた可能性という言葉、少し救われた気がしました」


 種族としてどうであれ、自分は自分だ。


 炎の手さんも、カノンさんも、セツさんも、リュウシュの人たちも、ここに居る人たちは、ヒトシュではなく、自分を見てくれる。


「ああ、ヒトシュで思い出したのです」

 と、そこで炎の手さんがぽんと手を叩いた。

「どうしました?」

「抱えている問題に対して、あまりにも些事だったので放置していたのです」


 炎の手さんが抱えていた問題。


 カノンさんの襲撃。

 セツさんたちヨクシュの襲撃。


 その二つの問題はほぼ解決したはずだ。


 他に何か小さな問題があったのだろうか。


「怪我をしたヒトシュをスコル殿が持ってきていたのです。語る黒が治療を行って体は良くなったのです。ですが、何を言っているのかよく分からないので放置していたのです」


 ……。


 えーっと、それはまた、何というか……。


 スコル、また、ヒトシュを拾ってきていたんだ。あまり、何でも拾ってこないように注した方が良いのかなぁ。


 スコルの方を見る。

「ガルルゥ」

 スコルが顔を逸らす。いや、駄目だと言っているわけじゃ無いんだけどね。


 にしても、ヒトシュか。


 会うのが怖いなぁ。


 でも、ここでヒトシュの言葉が分かるのは自分だけだろうし……。


 会ってみて、ヒトシュらしいヒトシュだったら、森の外に投げ捨てよう。うん、そうしよう。

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