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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
禁忌の森

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023 退治

 折れた剣を構え、新しく現れた大蛇を見る。


 ヤツが、こちらに襲いかかってくるには、こちらを囲んでいる大蛇の死骸をどかさなければいけない。この倒した大蛇の死骸が新しく現れた敵との防壁になっている。


 ヤツがこの防壁を何とかする前に、戦うための準備を終えなければいけない。一番、気になっているのは左足だ。回復力を高め治癒を促しているが、それでも動きが鈍い。回復するまでまだまだ時間がかかりそうだ。


『ソラよ』

 猫姿のイフリーダが、ぴょんと飛び、肩に乗る。

「イフリーダ……」

『ソラよ、分かっていると思うのじゃ。ここが、分水嶺なのじゃ』

「分かったよ」

 イフリーダの言葉に、ためらいながらも、ゆっくりと頷く。

『うむ。任せるのじゃ』

「でも、一つ聞いて良いかな。イフリーダに任せて、勝率はどれくらいなの?」

『ソラの体の状態、マナ不足、全てを考慮して10パーセントと言ったところなのじゃ』

「そっかー。イフリーダに頼っても10回に1度しか勝てないのか……」

 そこで猫姿のイフリーダがニシシと笑う。


『しかし、なのじゃ。戦いは勝つか負けるか、生きるか死ぬかなのじゃ。つまり確率は半分。この我に任せれば、それを引き上げよう。すなわち100パーセントなのじゃ』

 イフリーダの詭弁のような言葉に、驚き、感心し、勇気づけられる。

「そうだね。なら、絶対勝利だね」

『うむ。任せるのじゃ』


 折れた剣を構え動かない。


 全てをイフリーダに任せる。


 新しい大蛇がしびれを切らしたかのように飛びかかってくる。その巨体がうねり、壁となった死骸を乗り越え、突っ込んでくる。その勢いは最初の大蛇ほどではない。明らかに最初の個体よりは弱い。それでも今の自分には脅威だ。


 折れた剣が動く。


 大きく開いた大蛇の口が迫る。


 その口が閉じられる一瞬、全てのタイミングを狙っていたかのように、折れた剣が、牙と牙の間を抜け、大蛇の鼻先に刺さる。そのまま腕の力だけで体を持ち上げ、大蛇の口から逃れる。


 何も入っていない口が閉じられる。


 獲物を捕らえたと思ったら、口に中には何もおらず、鼻先に鈍い痛みが走っている。大蛇はたまったものじゃないだろう。


『ふむ。ソラが磨いただけあって良く刺さるのじゃ』

「磨いたんじゃなくて研いだんだよ」

 大蛇の鼻先に突き刺した折れた剣とともにぶら下がり、のんきにそんなやりとりを行う。


 大蛇が頭を大きく揺らす。鼻先にぶら下がっている、こちらの存在に気付いたのかもしれない。


 大蛇の頭とともに振り回され、折れた剣が抜ける。自分たちの体は簡単に吹き飛ばされる。その途中でくるくると体を動かして体勢を整え、着地する。殆ど衝撃を消したように見えたが、それでも着地した時に左足が鈍く痛んだ。

『ふむ。ソラが思っているよりも足の調子が悪いのかもしれないのじゃ』

「そう……だね。痛みでじんじんするよ」

『しかし、これで、あの壁の中からは脱出が出来たのじゃ』

 見れば、今立っている場所は大蛇の死骸の檻の外だ。

「そうだね」


 大蛇に吹き飛ばされ、囲われていた死骸の檻からは脱出することが出来た。

「それで、これからどうするの?」

『何とか、あやつの動きを止めて、必殺の一撃をたたき込むのじゃ』

「それはなかなか素敵な作戦だね」


 もう一度、ゆっくりと折れた剣を構える。


 大蛇が死骸を乗り越え、ゆっくりとこちらに迫る。じりじりとこちらとの間合いが狭まっていく。左足を負傷したこの状況では、こちらから動くことが出来ない。待つだけだ。


 大蛇がずるずると這い、そして上体を起こす。


 来るっ!


 と、その時だった。


 大蛇の横合いから大きな塊が飛びかかった。


 それは一瞬にして大蛇の首筋に噛みつく。


 初めてこの森で目覚めた時に出会った、青い狼。自分と同じくらいの背丈の、大きな狼。出会った時は恐怖を覚え、敵対していた青い狼。それが、今、大蛇の首筋に噛みついている。

 あの時は大きいと思った青い狼だったが、大蛇の前では大人と子どもほどのサイズの違いがある。

 大蛇はもがき、その頭を大きく動かし、振りほどこうと暴れているが、青い狼は、必死に耐え、なんとか首筋に噛みついている。


「イフリーダ!」

『うむ。今のうちに逃げるのじゃ』

 その時、自分は――イフリーダの言葉に、無意識に、首を横に振っていた。


「倒そう!」


『ふむ?』

「前に進むために!」

『了解なのじゃ』

 折れた剣を手に、左足を引き摺りながら大蛇へと歩く。勝つために。この与えられたチャンスをものにするために。


 大蛇は振りほどくことを諦め、その巨体を動かし、青い狼に絡みついていく。蛇の巨体が青い狼を締め上げる。

 その締め上げる力に、苦痛に、青い狼は顔を歪め、その牙が外れる。


 大蛇への距離は――まだ遠い。剣が届く距離ではない。しかし、そこで足が止まる。


「イフリーダ!」

『うむ。ソラよ。しかと見て、体で憶えるのじゃ』

 折れた剣をまるで鞘にでも収めたかのように、剣先を後ろに下げ構える。


『無限の剣、無を司る女神の剣の神技、その深奥への入り口なのじゃ』

 折れた剣が抜き放たれる。


『これが、神技アルファクラスターなのじゃ』


 折れた、何も無いはずの剣先から、無数の刃が放たれる。


 剣の閃光が大蛇を切り刻む。


 スパスパと大蛇の皮膚に筋が入り、血が吹き飛ぶ。しかし、致命傷には届かない。


「イフリーダ!」

『ふむ。大丈夫なのじゃ。今回はソラに技を見せるため、とどめは譲ったのじゃ』


 そのイフリーダの言葉の通り、先ほどの『無数』の一撃によって拘束が緩んだ青い狼が大蛇の首を噛みちぎっていた。

 首筋を噛みちぎられた大蛇は、一瞬、ビクンと体を震わせ、そのまま崩れるように横たわった。

 青い狼が絡みついていた大蛇の体から抜け出し、うんざりとしたような顔で大蛇の頭をぺちぺちと叩いていた。もしかすると、本当に倒したのか確認しているのかもしれない。


「はは、倒したんだね」

『うむ。そのようなのじゃ』

「さすがに次はないよね?」

『うむ。大丈夫だと思うのじゃ』


 そして、大蛇が本当に死んでいるのが分かったのか、ぺちぺちと叩いていた前足を止め、青い狼がこちらへと歩いてくる。


 さあ、どうしようか。

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