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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
終焉迷宮

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223 分かっていない

 都市を出る。


 碌でもない場所だった。


 もう二度と来たくない場所だ。


 だが、迷宮を攻略するためには、また来る必要がある。


 はぁ……。


 ため息が出る。


 その時のために、何が出来るかを考えておこう。


 舗装された石畳の道を歩いて行く。行きの時とは違い、様々な旅人の姿が見える。二分黒を背負いマントを身につけた人、剣を持ち武装している人――色々だ。

 角の生えた四つ足の鈍そうな魔獣が車輪のついた四角い箱を運んでいる。そして、その前を歩く人が魔獣に取り付けられた紐を引っ張っている。この魔獣に重い荷物を運ばせているのだろうか。


 キョロキョロと周囲を見回しながら拠点を目指し、歩いて行く。


 帰り道。


 道を歩き続ける。日が暮れてきたところで道から外れ野宿の準備を行う。もしかすると、この道の途中の何処かには、探せば泊まれる場所があるのかもしれない。だが、これ以上、ヒトシュと関わり合いになりたくなかった。


 二日目。


 人と出会わないように隠れながら道を進む。特に何事も無く、一日が終わる。いや、何事も無いとは言えない。食料と水が乏しくなっている。水を無の神殿で補充しておけば良かった。早くヒトシュの地から離れたいという思いが強すぎて、うっかり忘れていたようだ。


 三日目。


 そろそろ禁域の森が見えてくるはずだ。そこまで戻れば……。


 そんな感じで少し浮かれていた自分の耳に何か争っている音が聞こえてきた。


 音の方へと向かう。というよりも、進行方向と音の方角が同じだ。拠点に帰るためにはどうしてもそちらへと向かう必要がある。


 大きな音の方へ近づくと、それに合わせて血の臭いが漂ってきた。何かが争っている。命と命のやりとり。


 そこでは戦いが行われていた。


 そこに居たのは犬のような魔獣、そして、それと戦う男たち。


 戦いの場の奥には倒れた馬車が見え、その馬車の前には角の生えた魔獣が転がっていた。多分、馬車を引っ張っていた魔獣なのだろう。そして、その転がった馬車を守るように動いているのが戦っている男たちだった。


 またヒトシュ、か。


 正直、関わりたくない。


 だが、魔獣に襲われているのを見捨てるのも忍びない。


 複数の犬型の魔獣に襲われ、男たちは苦戦している。


 駆ける。そのまま、背中の剣へと手を伸ばし、その手が空を掴む。そこに何も無いことを思い出す。


 剣が無い!


 腰の短剣へと手を伸ばす。


 黒の短剣と石の短剣を引き抜く。


 そのまま駆け抜け、一番近い犬型の魔獣の目の前に――犬の魔獣がこちらに気付き、動く。その犬の魔獣の首を目掛け、まずは黒の短剣で一薙ぎ。犬の魔獣の首に綺麗な線が入り、血が噴き出す。その切り裂いた傷の中へと石の短剣を差し込み、えぐる。


 すぐに石の短剣を引き抜く。


 まずは一匹。


 次。


 残りは八匹ほどか。


 危ないのは戦っている人たちに近い魔獣だろうか。


 そちらを目指し、先ほどと同じように黒の短剣で犬型の魔獣を切り裂き、石の短剣でその中をえぐる。


 二匹目。


 とにかくすぐに倒してしまおう。


 次の犬型魔獣へと向かい、同じように倒していく。


 そのうち、戦っていた男たちが握っていた剣を降ろし、呆然とした表情でこちらを見るようになった。そして、ハッと気付いたように馬車の方へと動く。


 戦いをこちらに任せ馬車の護衛に専念するようだ。


 四匹目を倒したところで、犬型の魔獣は怯えたように逃げ去っていった。


 短剣でも何とか戦えたようだ。炎の手さんが作ってくれた黒の短剣はマナを受け付けないだけあって、魔獣のマナを――体を簡単に切り裂く。これで剣を作って貰いたいくらいだ。


「禁忌の地が解放された影響か、魔獣の数が増えているようです」

 男の一人が転がっている馬車の裏側へと向かい話しかけている。

「それで、その魔獣はどうなったのです?」

「突如現れた流民の子どもが……夢でも見ているようです」


 さて、これはどう反応したら良いものか。


 どうやら、彼らも、この地に住むヒトシュのようだ。魔獣に襲われたのは災難だと思うが、だからと言って、その魔獣を倒した後まで手伝うつもりは無い。


 もうこのまま、ここを去った方が面倒なことがなくて良いかもしれない。


 そう、もうヒトシュは関わり合いたくない。


 マナ結晶だけは欲しいが、それを取り出している作業の時間すらかけたくない。マナ結晶が欲しければ森の中で魔獣を狩ればいくらでも手に入る。ここでガツガツする必要も無い。


 そして、馬車の裏側に回って会話していた男がこちらへと歩いて来る。


「お前が、この魔獣たちを操っていたのか?」


 ……。


 またか。


「答えろ」

 男の言葉。


 その言葉には助けられたことへの感謝が含まれていない。


「操っていた者が、操っていた魔獣を倒すと思うのか。お前たちは、そんなことも考えられないのか」

 こいつらは想像力が足りない。


「お嬢さまに取り入るために行ったとも考えられる。お前のような流民の子どもがあっさりと魔獣を倒したのも怪し過ぎる」

 相変わらずだ。


「そのお嬢さまとやらがどれだけ偉いか知らないが……」

「流民が、そのような口を利いて許されると思うのかっ!」

 男が叫ぶ。


 また、それか。


 ため息が出る。


「何故、お前たちは、自分たちの方が偉いと思い込めるのか、それが分からない。お前たちは勘違いしている。助けたことに関してはこっちが勝手にやったことだ。別に感謝しろとは言わない。だが、訂正しておく、僕はお前たちが言う流民ではない」

 こいつらはどうしようもない。


「何かあったのですか? 大きな声が……」

 馬車の方から声が聞こえる。


 多分、この声の主が、こいつらの守っていた偉い人なのだろう。


 だが、どうでも良い。


「勝手に、勝手なことを言っていろ」

 ここを抜ければ森だ。


「この流民の子どもがっ!」

 男はまだ何か言っているが、心底どうでも良い。


 こんなところで、こんなやつらには構ってられない。


 最後の最後まで、こちらを不快にさせる奴らばかりだ。


 森に帰ったらスコルと一緒に魔獣を狩って、森の中を駆け巡ろう。


 ああ、炎の手さんと亡霊に武器を作って貰わないと……。


 盗まれたのが量産品で良かったよ。


 これが黒の短剣だったら、頑張って削った石の短剣だったら……許せなかったと思う。いや、今でも許したつもりは無い。


 だが、諦めることは無かったはずだ。


 森、森に帰ろう。


 あそこが僕の故郷だ。

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