表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
終焉迷宮

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

225/365

221 鍛冶工房

 神官の青年にマナ結晶を渡し、お礼を言って無の神殿を後にする。


 まだ朝日が昇り始めたばかりだというのに、表の神殿街は人に溢れ、忙しそうだった。


 裏通りの静けさが嘘のような騒がしさだ。


 忙しそうにしているのは神官だけではなく、色々な武器を持った人たちの姿も見える。マナを奉納して力を得るために来ているのだろうか。


 神官に声をかけられないように気配を消し、静かに神殿街を抜ける。


 確か、ファフテマの工房は領主宮の前の大通りにあるんだったかな。


 早朝だからか、人の少ない領主宮前を抜け、大通りに入る。大通りも人の姿はまばらだ。人が少なければ、こちらをじろじろ見られることが少なくなるので気分的に楽だ。


 少し歩くとすぐに目的の看板は見つかった。


 石造りの大きめの建物には目立つように剣と盾が交差した絵が描かれた看板が掛かっている。


 ここがファフテマの工房なのだろう。


 さて、どうしたものか。


 目的の場所はすぐに見つかった。


 ……神官の青年は有名な人物が領主宮のためにしか武器を作らないと言っていた。このまま入っても追い返されるだけだろう。さすがにそれくらいは自分でも分かる。


 しかし、他に方法がないのも確かだ。


 ……。


 仕方ない。


 リュウシュの里の話をしてみよう。もしかしたら、何か話が伝わっていて、話を聞いてくれるかもしれない。


 それに、だ。


 自分は武器を作って貰いに来たわけじゃない。武器なら拠点に帰れば、いくらでも優れたものを作って貰える。ただ、炎の手さんが、そのファフテマという人物がどうなったかを気にしていたから、それを確認したかっただけなのだ。


 正直、ファフテマさんはヒトシュの地に帰り成功していたという情報だけでも充分だろう。


 だから、これは、その話を確認するためだけに、だ。


 建物に取り付けられた扉を開ける。中から、むせるような熱風が流れ出す。これは鍛冶の熱だろうか?


 中はかなり熱いようだ。


 熱風を掻き分け、中に入る。


 中には鉄で作られたと思われる剣や盾、鎧が並んでいる。これは売り物と言うよりも見本、または練習品のように見える。

 鎧などは、とても丁寧に形を整えて飾ってあるが、その鎧自体の造りが雑だ。鉄にムラが出来ている。これでは脆い鉄になってしまうだろう。

 製鉄の仕方が悪いのだろうか?


 工房内に飾ってある武具を見ながら熱風の漂ってくる方へと歩く。


 そして、すぐに大きな炉が見えてきた。


 ……。


 こんな入り口から直通の場所に火を使う炉を置いても良いものなのだろうか?


 炎の手さんはどうだった?


 炉のある場所は別の部屋に作っていたはずだ。そりゃあ、最初の頃の拠点には壁がなかったから、その時は剥き出しだったよ。でも、今は違う。


 こんな建物の中に風が流れるような造りでも大丈夫なのだろうか?


 炉の前には十人ほどの若い男たちが居た。手にハンマーを持ち炉に向かっている。


「すいません。忙しいところ、よろしいでしょうか?」

 声をかける。


 すると一番奥に居る少し偉そうな男が反応した。

「おい、流民の小僧が紛れ込んでいる。誰も気付かなかったのかっ!」

 すぐに隣の男が言葉を続ける。

「おい、エッタはどうした?」

 次々と男たちが喋り出す。

「おい、エッタのヤツは何処だ!」

「エッタは!」

「エッタを探せ!」


 まるで伝言遊びだ。


 そして、手前の方に居る男が手を上げる。

「エッタなら買い出しに出ています」

「馬鹿野郎! それなら誰が入り口を見るんだ!」


 何やら揉めている。


「えーっと、話を聞いて貰えませんか?」

 もう一度呼びかけてみる。


 すると、一番奥の偉そうにしている男が他の者へと顎を動かした。


 男たちは奥から順番に動き、最後に一番手前の男がこちらへとにらみを利かせる。

「ガキが何の用か知らないが、ここはガキの遊び場じゃねえぞ」


 この人たちは遊んでいるのだろうか。


「ここはファフテマの工房ですよね?」

「当たり前だろうが。ここはな、ガキのための武器を作ってやるような場所じゃないんだぜ」

 一番手前の男が答えてくれる。


「いえ、武器を作って貰いに来たわけじゃないんです」

「はぁ!? だったらよぉ! お前は何をしに鍛冶工房に来たんだ」

 この男は何を言っているのだろうか。


 武器を作らないと言ってみたり、すぐにそれを否定してみたり、忙しい男だ。


「ここは……」

 えーっと、何だったかな。


 確か……。

「ガキ、今、この工房はな、あの禁忌の地に向かうための武器を作ることで忙しいんだよ」

 そうだ。禁域だったかな。


「ここの工房を作ったファフテマさんは、禁域の森から帰ってきて、この工房を作った、で間違いないでしょうか?」


 こちらの言葉を聞いた一番奥の男が反応した。

「ほう。うちの工房のことをよく調べているじゃないか。うちに憧れて来るだけはあるってことか」

 一番奥の男は片目を閉じ、ニヤリと笑う。


「えーっと、その話で間違い無いということですよね」

「ああ。そうだ。このファフテマの工房は、誰も生きて帰ってくることが出来ないと言われていた、あの封じられていた禁域の地から生きて帰ってきた開祖が作ったものだ。それだけでも、うちがどれだけ凄いか分かるだろう」


 話の切り出し方が良かったのか話を聞いてくれそうだ。


「それで、あなたがファフテマさんですか?」

 少しだけ偉そうな男が顔を歪める。

「はぁ? な訳ないだろう。俺程度の腕でおやっさんに並べるかよ」


 どうやら、違っていたようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ