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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
終焉迷宮

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219 無の神殿にて

 塔の中に入り、こちらに気付いていないのか、それとも意図的に無視しているのか、忙しそうにしている法衣の人たちの横を抜け、塔の外へと出る。そして、そのまま門に向かう。


「おや、先ほどの流民の子どもじゃないか」

 門を通り抜けると、その先で門を守っていた門番さんに声をかけられた。

「そうか、駄目だったのか。しかし、気を落とすんじゃないぞ。そもそも、流民が、この学院の試験を受けることすら凄いことなんだぞ。お前は、まだ若い。頑張るんだぞ」

 何というか返答に困る。


「そうですね。考えが甘かったです。もう帰ることにしました」

「そうか。流民の子どもでも帰るところがあるんだな」

「あー、はい。そうですね。お世話になりました」

 とりあえず普通の対応をしてくれた門番さんにはお別れの挨拶をしておく。


 もう会うことは無さそうだが悪い人ではなかった。


 さあ、神官の青年にもお別れを言いに行こう。


 王宮の前の道を歩き、坂を上がり、神殿街を抜け、裏通りに入る。そして人の姿が見えない薄暗く寂れた裏通りを歩き崩壊した無の神殿に向かう。


 薄暗い裏通りに赤い陽の光が混ざり始める。もう夕方だ。夜が近い。


 そろそろ眠る場所を探す必要がありそうだ。可能ならば神官の青年の言葉に甘えて無の神殿に泊めさせて貰おう。


 崩壊した無の神殿の中に入る。


 神官の青年の姿は見えない。


「すいません」

 声をかける。


 だが、反応はない。


「すいませーん!」

 呼びかける。だが、反応はない。


 何処かに人が居ないかとマナの反応を探してみる。しかし、何かに邪魔されているかのように見ることが出来ない。どうも、この神殿街に入ってからマナの感知が上手く出来なくなっている。


 半壊した無の神殿の中を歩き、神官の青年を探す。


 奥へ奥へと探し、歩く。


 そして、彼は一番奥の部屋にいた。


 丸く縦長の鍋に火をかけ、良くわからない歌を口ずさんでいる。その姿はとても楽しそうだ。


「あのー……」

 声をかけると神官の青年が飛び上がった。


 そして、ゆっくりとこちらに振り返り、そのままほっとしたように胸をなで下ろしている。

「うわ、少年ですか。驚かさないでください」

「すいません。この神殿の入り口で呼んだんですが、何の反応もなくて……」

「あー、申し訳ありません。食事の準備に夢中になっていました」

「食事ですか?」

 そういえば、確かに神官の青年は鍋に火をかけている。歌を口ずさむくらい料理に夢中だったようだ。


「ええ。少年に貰った結晶を換金して久しぶりにまともな食事にありつけたのですよ」

 鍋を見る。鍋の中には、露店で見かけた果物のようなものが何個も『まるごと』入っていた。

「それが、食べ物ですか? 料理ですか?」

「おや、少年はフーゴの実は初めてですか? 良かったらどうですか?」

 神官の青年が鍋の中から果物のようなものを取ろうとし、その熱さに悲鳴を上げていた。


「えーっと、鍋の中には、その果物しか見えないようですが……」

「ええ、そうですよ。これはこうやって熱を通して食べる物なのですよ。ほくほくとして、なかなか、美味しいのですよ」

 なるほど。そういうものなのか。だが、温かくなっている果物をそのまま取ろうとしているのはどうかと思う。


 神官の青年が法衣の袖で果物を掴み、その皮を剥く。熱せられたからか、皮がつるりと剥ける。中にはふっくらとした青い実が詰まっていた。


 ……色的にあまり美味しそうじゃない。


「それで、少年の目的は果たせたのですか?」

「駄目でした。それで、一度帰ろうかと思ったので、その前にお世話になったあなたに挨拶をしようと思ったんです」

「そうですか。駄目でしたか。うーん、少年には何かを感じたのですよ。いや、もちろん、結晶を貰ったから、とか、そういう理由じゃないですよ」

 神官の青年が青い実を囓っている。


 自分も一つ受け取り、囓ってみる。ほんのり甘みがあって、もさもさして……うん、普通。そんなに美味しいものでもない。


 ……。


「この火、借りても良いですか? それと水の余裕はありますか?」

「水ですか? それなら、ええ、ここは神殿ですから、水だけは簡単に手に入りますよ。持ってきましょうか?」

「お願いします」


 用意して貰った水を自前の鍋に入れる。そして、背負い袋の中から取り出した天舞を入れ炊く。

 充分に蒸らしたら干し肉を入れて完成だ。


「良かったら、どうぞ」

「これは見たことのない食べ物ですよ。それに、その肉、もしかして魔獣の肉ですか。これはとても興味深いですよ」

 神官の青年が興味津々と言った様子で鍋の中を見ている。


「あー、見ているだけじゃなく、どうぞ、遠慮無く食べてください」

 手で食べるわけにもいかないので自分のスプーンを貸してあげる。

「あー、これは、どうもですよ」

 神官の青年がスプーンで天舞を掬い、ゆっくりと口の中に入れる。


 そして、その次の瞬間には料理の熱さなどものともしないような勢いでガツガツと食べ始めた。

「何ですか、何ですか。これは、この衝撃。まさに天啓を授かりました! 天啓ですよ!」

 なんだか、カノンさんを思い出すような食べっぷりだ。


「それは良かったです。それと結晶を渡すので、今日一日、ここに泊めさせて貰えませんか?」

「なんと! 結晶を、ですか? もちろんです。無の神は、あなたを祝福するでしょう!」

 神官の青年はとても喜んでいる。


 とりあえず、今日はここで休めそうだ。


 ……と、そうだ。


 明日、ここを去ることになるのだから、もう一つだけ聞いておこう。


「一つ聞いてもよろしいですか?」

「もちろんですとも」


「ファフテマという人を知っていますか? 多分、鍛冶の仕事をしていると思うんですが?」

 神官の青年が首を傾げ、そして、何かを思い出したのか手を叩く。

「ファフテマといえばファフテマ工房ですね」


 ファフテマ工房? ん?

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