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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
終焉迷宮

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212 迷宮への道

「一緒に来て貰っても良いですか?」

 神官の青年がこちらへと手を伸ばす。

「何処へ?」

 神官の青年が伸ばした手を引っ込め、笑いかける。

「ここを離れましょう。騒ぎが大きくなり始めています」


 周囲を見回す。確かに周囲の人たちが、歩いていた人たちが、露点で作業をしていた人たちが、騒ぎを聞きつけ、何事かとこちらに注目し始めている。

「あの男は無視しても良いのか?」

「大丈夫ですよ。今はこの場から離れることを優先しましょう」

 神官の青年へと頷きを返す。


 とりあえず離れた方が良さそうだ。


 神官の青年が集まり始めた人々の邪魔にならないようにゆっくりと歩き出す。人を避け、しれっとした顔で歩いている。その背に隠れ、ついて行く。


 騒ぎの中心から離れたところで神官の青年が口を開く。

「ところで……」

「何でしょう?」

「騒ぎの元になるので、あまり、その結晶は見せびらかさない方が良いですよ」

「それは……」

 もちろん、そのつもりだ。自分だって見せびらかすつもりはない。ただ必要であれば使うというだけだ。


 神官の青年がため息を吐く。そして、足を止め、こちらへと振り返った。

「分かってませんね。あの結晶の価値を知っていますか?」

「いえ」

 首を横に振る。確かに、正確にどれくらいの価値があるのかは把握していない。あの男の反応から貴重だろうな、と思ったくらいだ。


「そうですね、大きさにもよりますが、十日ほどは何もしなくて暮らせるくらいでしょうか」

 それは……凄く微妙だ。


 思っていたほどじゃないというか――いや、この小さなマナ結晶一個でもそれだけの価値があると思うべきなのだろうか。


 確かに価値はある。あるけれど、目の色を変えるほどじゃないというか、あの露天商のように約束を覆してでも――そこまでしてでも欲しがるような価値があるとは思えない。


「その驚き方。価値を知らなかったようですね」

「いや、その程度の価値しかないのにあの男が豹変したことに驚いた」

 自分の言葉を聞いた神官の青年が笑う。


「その程度でも簡単に手に入るとなったら人は変わりますよ。それとですね、十日も食べられるというのは簡単なことじゃないですよ」

 確かにそうかもしれない。自分も最初の頃はその日の食事にも困っていた。食べるというのは大変なことだ。

「そうです……ね」

 頷きを返す。


「ちなみに、少年……」

「ソラです。名前はソラ」

 そういえば名乗っていなかった。

「ありがとうございます。私は無の神に使える神官のウーシアと言います」


 お互いに名乗り合い、歩きながら会話を続ける。


「ソラ少年は何故この都市に? 大人の姿は見えないようですが、遅れてくるとかですか?」

 子ども扱いされている? 普通にこちらのことを認めて話してくれているのかと思っていたが、違っていたようだ。

「自分一人です」

「子ども一人で旅を、ですか。外には危険な魔獣も……いえ、結晶を持っているのですから、倒せる実力はあるのでしょうが、それでも、です。いくら、この周辺は騎士団が定期的に魔獣狩りを行っていると言っても、そうです、それでも旅をするのは危険ですよ」


 うーん、ここまでの旅であまり危険なことは無かったと思ったけれど……。


 いや、まぁ、それでも食料や水がなくなってしまえば危険だ。でも、問題はそれくらいだ。


 ……。


 ここのヒトシュの人たちとは価値観が違うのかもしれない。


 ……それはそれとして、だ。


 ちょうど良い。この神官の青年に聞いてみよう。


「ここまで旅してきた理由は迷宮です」

 そこで神官の青年が手を叩いた。


「なるほど。そういうことだったんですね」

「それでその迷宮までの道を聞こうと思ったのだけど、誰も話を聞いてくれなくて……困っていた」

 神官の青年が苦笑する。


「でしょうね。ここは閉じられた都市ですから。外から訪れた人には……流民には厳しいところです」

 外壁も無く、門も無く、誰でも都市の中には入れるのに、その住人が外から来た人に厳しいとは――いや、逆なのか。誰でも都市に入ることが出来るから厳しくなった?


「迷宮へはこの道をまっすぐ進み、最初の分かれ道を左に、後は道なりに北へと進む形ですね。その先に……すぐに分かると思いますよ」

「ありがとうございます。その情報が欲しかった。助かります」

 やっと有益な情報が手に入った。


 しかし、だ。

「何故、僕に親切にしてくれるのですか?」

 そうだ。


 何故、だ。


 自分が子どもみたいな外見を、小さいから同情して、なんてことは無いはずだ。


 神官だから、子どもに優しい? そんなことはないだろう。この都市の神官というものがどういった職業なのかは分からないが、神官だから子どもに優しいなんてことも無いはずだ。


 では、何故?


 神官の青年は困ったような表情で頬を掻いていた。

「それは、ですね、その言い出しにくいのですが……」

「はい」

 何だろう?


「無の神殿は、今、寄進してくれる方が殆どいなくてですね、その、少しばかり苦しいというか、お金に困っているというか……」

 あ、ああ。なるほど。

「それで困っている旅の少年を見つけたので、助ければ親御さんから寄進が貰えるかもと……」

 この神官の青年は自分が男にマナ結晶をぽんと渡した姿も見ていたわけだ。意外に食えないというか、しっかりしているというか……。


「これをどうぞ」

 神官の青年にマナ結晶を三つほど渡す。

「これは!」

「元々、情報との交換に使おうと思っていた分です。遠慮無くどうぞ」

 マナ結晶に余裕はある。得られた情報を考えたら三つくらい安いものだ。


「助かります。何か困ったことがあったら無の神殿に来てください。無の神殿はこの坂の先にある、神殿街、その一番奥にある大きな神殿、光と闇の神殿の裏にあります」

 神殿街?

「光と闇の神殿は、それはもう、大きくて豪華ですから、すぐに分かると思います」

 神官の青年が何処か少し悔しそうだ。変に歪んだ笑顔を浮かべている。


「あーはい。分かりました。迷宮に向かった後に寄ります」

「はい、お待ちしてます」


 と、そこまで話したところで迷宮に向かう道と分かれたため、神官の青年と別れる。


 迷宮までの道は分かった。


 迷宮に向かおう。


 そこで気付く。


 市民証のことを聞いていない。せっかくだから聞いておけば良かった。


 うっかりしていた。


 ……。


 いや、それは迷宮の下見をした帰りでも大丈夫か。


 次は忘れずにしっかりと聞いておこう。

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