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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
終焉迷宮

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203 城だ

 スコルの首筋を撫でてあげる。


 さあ、帰ろう。


 カノンさんたちに運んで貰った荷物は、行きにこの場で放置した荷台の中に、すでに運んである。スコルに、その荷台を連結させようと近寄ってみると――その中で青髪の少女が眠っていた。


 何処に行ったのかと思ったが、この荷台の中に居たとは……。


 確かに、周辺は薄暗く、地面なんてぐちゃぐちゃだ。ここでそのまま眠ろうとするのは、自分のように疲れて動けなくなって仕方なく……くらい、か。


 青髪の少女を起こさないようにスコルと荷台を連結させる。


 そのままスコルの背に跨がる。

「スコル、お願い」

「ガルゥ」

 スコルが静かに頷く。


 ああ、帰還だ。


 スコルが走り、西の森を駆け抜けていく。


 切り倒した木は後日、回収に来よう。拠点からは離れているが、皆で協力して日数をかければ持ち帰れるだろう。


 スコルが駆け、すぐに小川が見えてくる。いつもならスコルの足を洗ってあげているところだが、今日は、拠点に帰ることを優先する。


 そして、壁が見えてきた。


 リュウシュの皆さんが作った防壁だ。出発する前よりも背が高く頑丈そうな造りになっている。この安全な拠点でここまでする必要があるのだろうか、というほど立派なものだ。


 見上げるほどの高さ、何処までも続く防壁。


 背が高くなったため、スコルでも飛び越えることが出来なくなった。


 仕方なく、防壁に沿って動き、作られた門の方へと向かう。そして、そこから中に入る。


 門も櫓のついた立派なものだったが、そこに扉はなく、人影もない。無人だ。


 こんな状態で防壁や門の意味があるのだろうか? 不便になっただけのような気がする。


 門の中に入ってすぐは畑になっている。畑に人影はない。朝が早いので、リュウシュの皆さんはまだ眠っているのだろう。


 さて、どうしようかな。


 城のような、砦のような建物に向かい、そこでスコルの背から降りる。


 とりあえず皆が起きてくるまで待とうかな。


 となれば、ご飯だ。


 スコルに連結させた荷台を外す。

「ガルルル」

 スコルは、それじゃあ遊びに行ってくるという感じで一声、吼える。そして、そのまま、こちらの返事も待たずに駆けていった。スコルもご飯だろうか。お腹が空いていたのかもしれない。慌てて迎えに来てくれた感じだったから、そうかもしれない。


 行ってらっしゃい。


 さて、と。


 荷台の中から、今回の旅で使い切れなかった食材を取り出し、建物の前で火を起こす。そして、そのまま調理を始める。


 ああ、カノンさんから塩を分けて貰っておけば良かった。


 まぁ、今度、交渉しよう。


 肉の味しかしない乾燥肉を囓り、炊いた天舞を食べる。塩味……欲しいなぁ。一度、塩の味を知ってしまうと、何も味付けしていない食事との落差が……。


 もう、この食事には帰られない。


 帰ることが出来ない。


「戦士の王、そこで何をやっているのです」

 そんな食事を行っていると声がかけられた。リュウシュの皆さんも起きてきたようだ。


 振り返ると、そこに居たのは語る黒さんだった。

「食事です。ただいま戻りました」

「お帰りなのです。それで、何故、そこで食事を行っているのです」

 語る黒さんはこちらを見て、何処か呆れたような顔をしている。


「えーっと、皆さんが起きるのを待っていました」

 その自分の言葉を聞いた語る黒さんは大きなため息を吐いていた。

「戦士の王、城の中に調理場も食堂もあるのです。わざわざ、外で待っていなくても良かったのです」


 ん?


 ああ、これ城だったんだ。


 城になったんだ。


 じゃなくて、部屋も完成していたのか。


 最後の強大なマナを手に入れるために旅に出たのが、ちょっと前だと思ったのに、もうそこまで完成しているなんて……。


 なんだか随分と長くここを離れていたような気分になってくる。


「皆を呼んでくるのです」

 語る黒さんは大きなため息を吐いている。

「あ、はい。お願いします」

「戦士の王は室で待っていて欲しいのです」

「あ、はい」


 ……。


 って、ん?


「すいません。何処で、待て、と?」

「室なのです。あ、ああ、なるほどなのです。まずは戦士の王をそこに案内するのです」

 どうやら、自分が出発してから完成した部屋のようだ。


「はい、お願いします。と、その前にちょっと待ってください」

 荷台の方へ向かい、眠っていた青髪の少女を起こす。

「ん、うんん?」

 眠っていた青髪の少女がゆっくりと目を覚ます。そして、驚いたように周囲を見回していた。


「拠点に戻ってきました。寝起きで頭が動いていないかもしれませんが、一緒に来てください」

 目が覚めたのか青髪の少女がゆっくりと、無言で頷く。


 青髪の少女に手を貸し、荷台の中から外へ出してあげる。そして、その荷台に転がっている折れた緑鋼の槍、砕けた氷雪姫、錬金小瓶の破片を拾う。これだけで両手がいっぱいだ。


「少し持つのです」

 先ほどと同じように少し呆れた顔の語る黒さんが一部、運ぶのを手伝ってくれる。


 そのまま一緒に城の中へ入り、奥へと進んでいく。城の中は、当たり前だが、壁があり、通路になっており、部屋があった。以前のような外側だけではなく、中も作ってある。


 通路、部屋、階段。


 当たり前のものがある。


 城の奥へと進む。


 通路を右に曲がり、階段を上がったところに大きな扉があった。

「ここが室なのです。以前、戦士の王が言っていた皆が集まるための部屋をここにしたのです」

 あー、そういえば、そんなことを言っていた気がする。


 あー、でも、二階に作ったんだ。入り口からここまでちょっとした距離があるし、これだとすぐに集まれないような気がする。

「ここだと、集まるのに不便じゃないですか?」

「その辺りのことはよく分からないのです。ただ、守るのには向いていると思うのです」

 確かに。


 でも、守る、か。


 外の防壁もそうだけど、ここが攻められることなんてあるのだろうか。


 ちょっと想像出来ない。

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