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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
終焉迷宮

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202 帰ろう

 食事を終え、その日はそのままその場で眠ることになる。


「すまぬ。迷惑をかけるのだ」

「あ、いえ。カノンさんに動けるようになって貰わないと僕たちでは毒の沼を越えることが出来ませんから。気にせず体を治してください」


 カノンさんの回復待ちだ。


 他のメロウの皆さんは動けるくらいに回復している。移動だけなら彼女たちに頼めば何とかなると思う。だが最大戦力であるカノンさんを置いて帰る気にはなれなかった。

 これがすぐに帰ることが出来る距離だったならば悩んだかもしれない。しかし、スコルが待ってくれている場所まで戻るだけでも四日以上かかるのだ。だから待つ必要がある。

 カノンさんの手持ちの武器は折れてしまっている。それでも、彼女の力は頼りになる。


 ……。


 うん、これは言い訳だ。


 単純にカノンさんに治って欲しい。治った姿が見たい――だけだ。


 でも、必要なことだ。


 夜明けとともにメロウの一人と海草の森の奥へ向かった。薄暗くて本当に夜が明けているのかは分からないが、ゆっくりと休めたのだ……夜明けくらいの時間だろう。


 海草の森の奥には漆黒の鎧が転がっていた。中に居たはずの人の姿がない。マナがなくなったのだ、生き返って動き出したとは思えない。


 溶けて消えた?


 この地の呪いが原因?


 それともマナがなくなったから?


 もともとの病が原因?


 理由は分からない。分からないが、そういうものなのだろう。


 転がっている漆黒の鎧と巨大な戦斧を回収する。これらは有用だ――人のものを奪って使うなんて盗人にでもなったかのような気分だが……。


 首を横に振る。


 これが戦いだ。


 それに、だ。ここに放置するよりは誰かが使った方が良い。相手の道具を使うということは相手の意志を受け継ぐということ。想いが途切れない。


 まるで呪いのようだが、その方が良い。


 ――良いはずだ。


 折れた緑鋼の槍や砕け散った氷雪姫の破片、錬金小瓶の破片なども回収する。無くなった武器たちを思う。


 また、だ。


 せっかく作った氷雪姫も粉々になっている。この悲惨な姿を見た亡霊は嘆き悲しみ怒り出しそうだ。


 これも自分の弱さと考え無しの行動が招いた結果だ。


 受け入れ、次に活かさないと……。


 必要なものを回収した後はカノンさんと青髪の少女のところへ戻る。


 その後、もう一日だけその場で様子を見る。


 そして次の日。


 早く帰りたがっている青髪の少女の希望もあり、動き出すことにする。


 拠点への帰還だ。


 行きよりも時間をかけ、ゆっくりと帰る。


 そして六日目。


 やっと西の森の奥へと戻ってきた。戻ってくることが出来た。


「うん。ソラ、ここまでなのだ」

「はい。カノンさん、ありがとうございます。カノンさんたちの手助けのおかげで目的を果たすことが出来ました」

「うん。良かったのだ」

 カノンさんは笑っている。


 青髪の少女もカノンさんに向けて静かに頭を下げている。失ったものは大きいかもしれない、だけどカノンさんの協力があったからこそ、目的のものを手に入れることが出来たのだ。感謝するのは間違っていない。


「また……会いましょう」

「うん。今度は、天舞を食べるためにもソラの住む場所へ遊びに行くのだ」

「はい、是非」

 カノンさんたちは天舞をとても気に入っている。これからは交流が始まるだろう。


 彼女たちの知識と技術力、後、塩は、拠点のこれからの発展に必要なものだ。特に塩は重要だ。必要だ。必須だ。


 カノンさんたちが沼地の上を飛び、帰っていく。


 さて、と。


 どうしよう、か。


 周囲にスコルの気配は……無い。当然だ。


 スコルに話していた予定よりもかなり遅くなってしまった。スコルが居なければ持ち帰った荷物を運ぶことも出来ない。


 まずは拠点まで歩いて帰って、それからスコルと合流して荷物を取りに戻るべきか。ただ、スコル無しで戻るとなると拠点まで数日かかってしまう。


 さすがに、それは厳しいか。


 ……。


 さあ、どうしよう。


 転がっている巨大な戦斧を見る。


 黒い鎧の鬼が扱っていた戦斧。戦っている時は自分の力では持つことも出来ない大きさだと思った。


 だけど、何故だろうか。


 今なら扱えそうな気がする。


 黒い鎧の鬼、それと強大なマナを持っていた毒と腐敗に蠢く王との出会いによって自分の力が増したのだろうか。


 戦斧を持つ。


 重い。


 大きさ通りの重さだ。


 でも、両手なら何とか持ち上げることが出来た。


 やはり自分の力が増している。


 周囲を見回す。


 相変わらず薄暗く、ジメジメとした森だ。無数の巨大な木々が並び、足元には腐った葉っぱが敷き詰められている。


 木の数は多い。しかし、そのどれもが信じられないほどの大きさに育っている。


 手頃な木を探す。


「え? 何をするつもり?」

 青髪の少女が首を傾げている。

「スコルが気付くような、そんな大きな音を立てようと思います」


 青髪の少女には自分がやろうとしていることが理解出来ないようだ。


 うん、自分でも馬鹿らしい方法だと思う。


 出来るだけ小さな木を探し、そこへ両手で持った戦斧を叩きつける。


 戦斧が跳ね返される。それでも木には小さな傷が入った。


 繰り返す。


 最初は力の入っていない、巨大な戦斧に振り回されるような一撃だった。


 繰り返すうちに、戦斧の扱いに慣れたのか、腰の入った力強い一撃へと変わっていく。


 日が落ちるほど繰り返した結果、木が崩れた。


 大きな音を立てて木が倒れていく。


 ここで木を切り倒すのは二回目だ。経験が生きた。


 うん、自分でも出来るか不安だったが、やってみれば何とかなるものだ。


 ……後は待とう。


 倒れた木の側で眠る。


 そして、目覚めると、そこにはスコルが、ちょこんと座っていた。自分が起きるのを待っていたようだ。


 その顔は、何やってるの? と少し呆れている。


 そうだね。


 うん、そうだ。


「スコル、ただいま」

14日金曜日から18日火曜日までの更新は休む予定です。よろしくお願いします。

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