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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
終焉迷宮

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201 悲しかったんだ

 カノンさんたちのところへ戻ると青髪の少女が一人で食事の準備を行っていた。

「戻りました。カノンさんは?」

 青髪の少女が手を止め、こちらへと振り返る。

「眠って……いる? 命の力が、生きるための力が私たち人とは大きく違うよう……」

 青髪の少女が小さく笑う。


「これを」

 そんな青髪の少女に毒と腐敗に蠢く王が残した首飾りを渡す。

「これは……本当にあったのですね」

 青髪の少女は首飾りを受け取り、ぼんやりとした表情でそれを見つめている。


「聞かないのですか?」

 ぼんやりと首飾りを見つめていた青髪の少女がこちらへ顔を向け、ゆっくりと首を傾げる。

「聞かないのですか?」

 だから、もう一度、確認する。


 そこで青髪の少女は小さく、何かを諦めたかのように顔を歪めた。

「ここに聖者の遺産があって、あなたが一人で戻ってきた……その意味?」

「そう……です」

 青髪の少女は首を横に振る。

「覚悟していた……こと?」


 青髪の少女は首飾りを横に置き、食事の準備に戻る。

「分かりました。僕は周辺の警戒を行っています。食事の準備が終わったら呼んでください」

「はい……」

 青髪の少女が頷く。


 その場に食事の準備を続けている青髪の少女を残し、周囲の安全の確認のため海草の森へと向かう。


 背後では何かに耐えているかのような嗚咽が聞こえた。


 振り返らない。


 自分には何も聞こえない。


 海草の森。


 海草の森は静かなものだ。爛れ人の姿はない。ここには自分しかいないかのようだ。

『どうしたのじゃ』

 いつの間にか自分の隣に現れていた銀のイフリーダが話しかけてくる。


『静かだなって思ったんだ』

『うむ』

 銀のイフリーダは座り込み、楽しそうに笑っている。


『最後の強大なマナが手に入ったね』

『うむ。あの小動物はあっぱれだったのじゃ。人も物も、意志すらも消し去ってしまう呪いの海を渡りきったのじゃから』

 銀のイフリーダは最後の強大なマナが手に入って嬉しそうだ。


『そうだね』

 改めて銀のイフリーダを見る。銀色に輝く美しい髪を持った少女だ。その容姿は輝くばかり――誰もが振り返るほどの煌めきだ。

『どうしたのじゃ。ふむ。我の類い希なる美貌に見惚れているのじゃな』

 銀のイフリーダは笑っている。


『イフリーダは……四つの強大なマナを手に入れたら、自分の元から消えると思っていた』

『ふむ。まだ肝心の迷宮が残っているのじゃ。ソラは、その迷宮に入るための資格を得たに過ぎぬのじゃ』

 確かにそれは銀のイフリーダが最初から言っていたことだ。


 彼女の望みは迷宮の攻略。


 彼女が望んでいるのはマナの奉納――マナを得ることと迷宮の攻略だ。四つの強大なマナを得ることではない。確かにその通りだ。


 これは準備が整ったに過ぎない。


 ここからが本番。


『ごめん。そうだね。確かに、少し勘違いをしていた』

『うむ。四つの強大なマナを手に入れ、ソラは資格を得たのじゃ。そして我は多くの力を取り戻したのじゃ。今まで以上にソラを鍛えることが出来るのじゃ』

 銀のイフリーダは膝を組み笑っている。


『うん、お手柔らかに頼むよ。それで迷宮は……』

『うむ。迷宮は人の住む地にあるのじゃ。あの青いのにでも案内させれば良いのじゃ』


 人の住む地、そこはどうなっているのだろうか。どれだけの人が居て、どれだけ文明が進んでいるのだろうか。


 赤髪の少女――ローラとその妹の青髪の少女を見ても、人の住んでいる場所のことは何も分からなかった。この地にあった城などの遺跡、その残滓よりは文明が進んでいるのだろうか。


 人……。


 そんなことを考えていると青髪の少女がやって来た。

「食事の準備が終わりました」

 青髪の少女の目の周りは少しだけ赤く腫れている。


「分かりました。周辺に魔獣の気配はありません。当分は大丈夫だと思います」

「はい……」

 青髪の少女とともに戻る。


「ソラを待っていたのだ」

 そこには未だ傷だらけのカノンさんが鍋の前に待ちきれないよう様子で座り込んでいた。


「起きて大丈夫なんですか?」

 カノンさんが頷く。

「美味しそうな匂いに誘われたのだ。傷を癒すのは美味しいものを食べるのが一番なのだ」

 カノンさんは笑っている。


 その後ろには他のメロウの人たちの姿も見える。カノンさんと同じように待ちきれない様子で鍋を見ている。


「そうですね。ご飯にしましょう」

「分かりました。私が鍋から器に移しますね」

 青髪の少女が鍋の元へと駆け出す。


「うん。頼むのだ」

 カノンさんが笑っている。


 カノンさんが青髪の少女から器を受け取り、蜘蛛の口で天舞を食べている。その都度、傷だらけで動かすのも大変そうな蜘蛛の足をばたつかせていた。傷が開いて治りが遅くなりそうな様子だ。


 嬉しそうだ。


「ソラも食べるのだ。美味しいご飯は傷を癒すのだ。それは心の傷も、なのだ」


 ……。


 カノンさんの、その言葉を聞いた瞬間、自分の目から小さなしずくがこぼれ落ちた。


 ああ、ああ、そうだ。


 真っ赤な猫耳のローラ。


 空気の読めない性格で足手まといでしかないと思っていたのに。彼女がいなければ強大なマナを手に入れることは出来なかった。


 彼女のおかげだ。


 彼女のおかげで強大なマナの最後の一つを手に入れることが出来た。


 ……。


 そうか、自分は悲しかったんだ。


 彼女が自己を犠牲にしたこと。


 救えなかったこと。


 悲しかったんだ。

チュートリアルの終了。

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