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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
希望の谷

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198 黒い鎧

 目の前に立っているのは戦斧を構えた黒ずくめの全身鎧。


 これが鬼。


 確かに兜には角が生えているし、硬そうな鎧は体を守る殻のようだ。


 うん、カノンさんの情報通りだ。


 しかし、これはない。


 あの情報だけでは昆虫のような姿を想像してしまう。まさか対話が出来る『人』だったとは思わなかった。


 ……。


 いや、これを対話が出来ているとは言えない、か。


 ゆっくりと間合いを詰めていく。


「最後に一つよろしいでしょうか?」

「もう一度だけと言ったはず――これ以上の言葉は無用、去れ」

 黒い鎧からこちらを震え上がらせるほどの圧力を感じる。


 強い。


 今まで対峙した中で、一番の脅威だ。


 首を横に振る。


 ……いつだって自分の相手は自分よりも強い相手ばかりだった。それは今回も変わらない。


 いつもと同じだ。


 盾を持ち、緑鋼の槍を構え、ゆっくりと、ゆっくりと足元の大地の感触を確かめるように、大地をこするように――間合いを詰める。


「カノンさんたちを襲ったのはあなたたちですか?」

 これは確かめなければ、これだけは確かめないと駄目だ。


「カノン? ああ、あの魔物か」

 黒い鎧の答え――それだけで充分だ。


 駆ける。


 間合いは充分。


 後はこの手に持った緑鋼の槍で……。


 ッ!?


 とっさに盾を構える。


 次の瞬間には自分の体が宙を舞っていた。


 何が起きたか分からない。


 体が地面に叩きつけられ、そのまま転がる。


 体が動かない。強く叩きつけられすぎたようだ。


 なんとか顔だけ動かす。


 先ほどまで自分が立っていた場所に黒い鎧が立っている。黒い鎧は巨大な戦斧を肩に乗せこちらを見ている。

 とどめを刺しに来る様子はない。


 転がった自分、立っている黒い鎧。


 あの一瞬で吹き飛ばされたのか……。


 体の状態を確認する。怪我はない。地面に叩きつけられた時の打ち身くらいだ。体はすぐ動くようになるだろう。

 立ち上がろうと手を地面へと伸ばし、そこで気付く。


 手に持っていたはずの盾がない。


 見れば、黒い鎧の足元に粉々になった盾の破片が落ちていた。


 一撃で砕かれた?


 壊れないはずの錬金小瓶を使った盾が?


 いや、違う。錬金小瓶の破片は砕けていない。盾の基礎に使った部分が黒い鎧の攻撃に耐えきれなくて砕け散ったんだ。


 恐ろしい一撃。


 そして、早い。


 今回はとっさに構えた盾に命を救われた。だが、その盾は、もう……無い。


 それでもやるしかない。


「な、何、何が!?」

 真っ赤な猫耳が突如目の前に現れた黒い鎧と吹き飛ばされたこちらを見比べて震えている。理解が追いついていないのだろう。


「まさか防がれるとは思わなかった。勘が狂ったか……それとも相手の大きさを測り間違えたか」

 黒い鎧は何かよく分からないことを呟いている。


「こ、こいつ!」

 やっと状況が飲み込めたのか、真っ赤な猫耳が小さな杖を構える。

「再生と破壊の神フレイディア……」

 真っ赤な猫耳が呪文を唱え始める。


 ……相手の目の前でのんきに呪文を唱えるなんて何を考えているんだよ。


「止めた方が良い。この漆黒の鎧にマナの力は効かない」

「そんなことっ! 試してみないと!」

 真っ赤な猫耳が叫ぶ。


 何故、そんな注意を引くようなことを……。


 いや、そうか。


「……世界を壊し新しき力となって」

「無駄だと言ったはずだ」

「それが何!? 関係ない――ファイアアロー!」

 真っ赤な猫耳の持った小型の杖から炎の矢が生まれ黒い鎧へと飛ぶ。


 しかし、その生まれた炎の矢は黒い鎧に当たり、すぐに消えた。まるで生まれた、その力がかき消されたかのように――消えた。


「も、もう一度っ! 」


「止めておけ。このマナが乱れた地でマナの力を使えば使うほど、その体を乱す。私たちのようになりたくなければ止めた方が良い」

 体を乱す?


 どういうことだ?


「敵を貫く力をオネガイ――ファイアアロー!」

 先ほどと同じように小型の杖に炎の矢が生まれ、黒い鎧へと飛ぶ。しかし、その炎の矢も先ほどと同じように黒い鎧の前でかき消える。

「再生と破壊の神フレイディア、世界を壊し新しき力となり我が敵を貫く力をオネガイ――ファイアアロー!」

 炎の矢が生まれ――やはり、かき消える。


 同じだ。


「無駄だと言った」

 黒い鎧が真っ赤な猫耳の方へと振り向く。


 真っ赤な猫耳だって無駄だってことは分かっているはずだ。それでも繰り返しているのは――注意を引くためだ。


 自分が、この無様に転がっている自分が立ち上がるための時間を稼ごうとしてくれている。


 伸ばした手で地面を掴み、ゆっくりと立ち上がる。


『イフリーダ、いる?』

 銀のイフリーダに呼びかける。


 しかし、反応が返ってこない。銀のイフリーダの姿がない。


 銀のイフリーダは現れない。


『イフリーダ?』


 反応がない。


 ……。


 いや、これで良かったんだ。


 困った時だけ銀のイフリーダに頼っていた。


 銀のイフリーダにだって事情がある。いつだって頼ってばかりでは、それが癖になってしまう。


 銀のイフリーダは居ない。


 自分の力で、この強敵と戦う。


 ……これが普通なんだ。


 だから、この状況でも――勝つ。


 緑鋼の槍を構え、走る。


 真っ赤な猫耳が注意を引いてくれている。


 この好機を逃がさないっ!


 片手で持った緑鋼の槍を黒い鎧へと突き出す。黒い鎧は真っ赤な猫耳の方を向いている。


 この――


 次の瞬間には緑鋼の槍の途中から先がなくなっていた。


 黒い鎧は真っ赤な猫耳の方を向いたままだ。


 そのままの態勢で巨大な戦斧を振るった? しかも見えない速度で?


 片手で巨大な戦斧を扱うなんて化け物かっ!


 しかも緑鋼の槍を切断するなんて……。


 あのカノンさんでも中の重鋼までは切断出来なかった。


 なのに……。


 いや、分かっていた。


 強敵なのは分かっていた。


 想定内っ!


 すでに自分はもう片方の手で氷雪姫を握っている。


 緑鋼の槍は囮……。


 こっちが本命っ!


 これが覆すための一撃。


 喰らえ――神技リベリオンッ!

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