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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
禁忌の森
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002 食事

 目が覚める。


 空は青かった。


 目覚めた、視界に広がる空は青かった。とても青かった。ああ、よく眠った。


 少し湿った草と雨の匂い。

『ふむ、目が覚めたのじゃ』

 そして、自分のすぐ近く、目の前に銀の少女の顔があった。少女が顔を上げる。それに伴って視界に入る柔らかな膨らみと後頭部に感じる柔らかな感触。今の自分の状況に気付いて慌てて跳ね起きる。

「な、な、な、なんで裸!?」

 銀の少女はこちらに膝を貸してくれていたそのままに、その裸身のままに、首を傾げ、にやりと笑う。

『神秘性の為なのじゃ』

 銀の少女のこちらを試すような、確認するような笑顔に、一瞬、息が止まる。すぐに目を閉じ、深呼吸をする。

「何か着る物を……」

『ふむ、分かったのじゃ』

 銀の少女の裸を見ないように後ろを向いて目を閉じ続ける。

『もう目を開けても大丈夫なのじゃ』

 振り返り、ゆっくりと目を開ける。すると銀の少女は体に銀色のひらひらとした布を纏っていた。先ほどの全裸に比べればマシというような姿だ。

『これでどうじゃ!』

 銀の少女は薄い胸板を張り、得意気だ。

「あ、はい。で、君は誰?」

『我はイフリーダなのじゃ』

 銀の少女は相変わらず得意気に胸を張っている。

『ふむ。聞きたいことは分かっているのじゃ。ただ、それを説明すると長くな……』

 銀の少女が話しを続ける。が、そこで、自分のお腹が鳴った。


 ぐぅっとお腹が鳴る。ゆっくりと眠ったことでまともな物を何も食べていなかったことを思い出す。

「ごめん。お腹が空いて……」

『ふむ。まずは食事じゃ!』

 銀の少女がこちらの後ろに回り、気絶する前と同じように後ろから手を、腕を回してくる。

『さあ、動くのじゃ』

 そして、自分の体が勝手に動く。何者かに操られているように勝手に動き地面に置かれていた折れた剣を取る。そして強く握る。そのまま自分の体が並んでいる木の一つへと動く。

『ふむ。この木の中なのじゃ!』

 そして、その外皮に折れた剣を沿わす。木の皮を剥ぐように折れた剣の刃をあてていく。中に潜んでいるものをえぐり出そうとするように動く。

『この中に……』

「ストップ、ストップ。やめて、止めてください!」

 銀の少女がやろうとしていること、探し出そうとしていることに気付き、慌てて口を開く。

『む。栄養価が高いのに、贅沢なのじゃ。まぁ、良い。ならば、こちらなのじゃ』

 外皮に当てていた折れた剣を戻す。その瞬間、その隙間から少しだけ白い物体が見えていた。銀の少女が自分に何を食べさせようとしていたかを理解し、予想通りだったことに恐怖を感じる。気持ちは嬉しいが、それを食べることだけは遠慮したかった。

 自分の体が動き、今度は落ちていた長めの木の枝を取る。そして、折れた剣を器用に扱い先端を尖らせていく。

 そして、湖の方まで歩く。

『見るがよい!』

 先端が尖った木の枝を構える。

『スラスト』

 木の枝が湖の一点に刺さる。その鋭さと早さは湖を貫き、飛沫すら生み出さない。そして、すぐに木の枝を引き上げる。その勢いを受け待っていたかのように水飛沫が舞い飛ぶ。引き上げた木の枝の先にはよく分からない大きな目玉がついた魚が刺さっていた。

『これが神技スラストなのじゃ!』

 背後から得意気な少女の声が聞こえる。そして自分の前には鋭く尖った木の枝に刺さった魚。

『そして、神法フレイムトーチ』

 手に持った木の枝が燃える。刺さった魚ごと木の枝の先端が燃え、その魚を燃やしていく。魚が燃え、その脂から食欲をそそる匂いが生まれる。

『火は不得意なのじゃ。うむ。加減は……これくらいなのじゃ!』

 そして、火を消すように木の枝を――燃えた魚が刺さった木の枝を振る。

『さあ、食べるのじゃ』

 銀の少女の言葉とともに自分の体に自由が戻る。自分の目の前には先ほどまで燃えていた魚。とても熱そうだ。

「今のは?」

『説明は後なのじゃ』

 そうだ。目の前には食べ物がある。まずは食べよう。こんがりとした魚、油がしたたり、てかっている魚に、そのまま食らいつく。


 む。


 中まで火は通っている。けど、外側は焦げ気味、さらに鱗もそのままだから、鱗がバリバリと……。内臓も取ってないし、ちょっと苦い。下ごしらえって重要だなぁ。それでも、夢中で食べる。何も味付けされていない焼いただけの魚をバリバリと食べる。久しぶりの食事。頭と骨、内臓部分だけを残し、魚を食べきる。まだまだ食べ足りない。お腹いっぱいにはほど遠い。でも、食べ物を食べたことで、少しだけ、ほんの少し心が落ち着いた気がする。


「それで君は? ここは? さっきのは?」

『にゅほほほ』

 こちらの首に手を回しぶら下がっていた銀の少女は気持ち悪い笑い声を上げ、その手を離す。そして、前に回る。

『我はイフリーダなのじゃ。ここは……』

 その言葉がこちらの頭の中に響いた瞬間、銀の少女の姿が一瞬だけぶれた。何かノイズが走ったようにざざっとぶれる。

『ここは、多分、禁域の森じゃ』

 銀の少女が胸を張る。

『そして先ほどの力は神技と神法じゃ』

「それは……」

 そこで銀の少女が手を伸ばし、こちらの言葉を止める。

『待て、待て、待つのじゃ。一つずつちゃんと説明するのじゃ!』

 銀の少女が腰に手を当て、再度、胸を張る。

『長くなるのじゃ。心して聞くが良い! まずは何も知らなさそうなソラに説明するのじゃ』

「ソラ?」

『む? お主の名前はソラだと思ったのじゃ。違うのか?』

 銀の少女が首を傾げる。自分の名前? 覚えていない。自分が誰だかも、名前も覚えていない。でも、この銀の少女が自分のことをソラだというのなら、そうなのだろう。そうか、自分の名前はソラだったのか。

「あ、うん。ソラだ」

『まず、先ほどの力なのじゃ。神技と神法なのじゃ。その言葉の通り、神の力を借りた技と法なのじゃ』

「神?」

『うむ。そうなのじゃ。この世界にはたくさんの神が人に力を貸しているのじゃ。例えば無を司る虚構と深淵の女神インフィーディア、先ほど使った火の神法が得意な火を司る破壊と再生の女神フレイディア、その下には炎を司るフレイムカルドなどじゃ! そのほかにも多くの神がいるのじゃ。そして、それらの神にマナを奉納することで人は神技や神法を授かったり、身体能力の向上を受けることが出来るのじゃ』

 神? マナ? 奉納? 先ほど、自分の体が勝手に動いたのが神技や神法?

「さっき、体が勝手に動いたよね。それが、その神様の力なの?」

『ふむ。少し違うのじゃ。でも似たようなものなのじゃ。神にマナを奉納し、その神技や神法を授かった後は、その単語を神に伝えることで、体がその神技を発動させるように神の力によって動くのじゃ』

「じゃあ、君は神なの?」

『我はイフリーダじゃ!』

 銀の少女は腕を組み、誇らしげに胸を張る。

『まぁ、しいて言えば、その腕輪が我じゃ』

 銀の少女が指さす先、右手を見る。いつの間にか右手には銀の腕輪が巻き付いていた。細やかな装飾が施された鈍く銀色に輝く年代物の腕輪。これが、目の前の少女? 腕輪の妖精とか、そんな感じなのかな。


『ふむ。話を戻すのじゃ。ソラはマナを知らないと思うのじゃ』

「マナ? 知らないです」

『マナとは魔物や人などの生き物が持つ器の中にある心のようなものなのじゃ!』

 よく分からないけど、なるほどなー。

『そこでソラなのじゃ』

 うん?

『何も知らないソラが生きるための力を我が貸すのじゃ。その変わり我に力を貸して欲しいのじゃ』

「力?」

 すでにこの銀の少女には命を助けて貰っている。青い狼から身を守ってくれた、安心して眠れるように見守ってくれた、食べ物を恵んでくれた、すでに三度も助けて貰っている。だから……、

「力になれることなら、俺、程度の力で良ければ……」

『早まるでない。そういうことは話を聞いてから、全ての条件を理解してから考えるのじゃ』

 銀の少女の真剣な表情に、思わず飲まれたように、少しだけ後ずさりしてしまう。それでも理解したことを示すために頷く。こちらが頷いたのを見て、銀の少女は小さく感心したように頷いていた。

『我が頼みたいのは二つなのじゃ。先ほど話したマナの奉納、そして迷宮の攻略なのじゃ。そのための力は我が鍛えよう。それはお主がこの世界で生きる力になると思うのじゃ。これで、どうなのじゃ?』

 銀の少女は、こちらの様子をうかがうように少しだけ首を傾げる。


 この銀の少女には助けて貰ったもの。答えは出ているじゃないか。出来るだけのことは返すべきじゃないか。

「出来るだけのことは、いや――」

 俺は首を振り、そして、目の前の銀の少女に手を伸ばす。

「頑張るよ」

 銀の少女が笑い、同じようにこちらへと手を伸ばす。そして自分の手と銀の少女の手が合わさる。

『ソラ、これでお主は我の主じゃ! この力、お主が我の望みを望む限り、お主のものじゃ』

あったよ、都合の良い枝が!

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