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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
希望の谷
199/365

196 襲撃

 何かがあった?


 急いで降りなければ……。


 崖から下へと降りる道を探す。周辺を見回すが近くには降りられそうな道がない。


 あるのは崖だけだ。


 仕方ない。


「下に降ります」

 真っ赤な猫耳に呼びかける。

「はぁ? 何を言っているの?」

 崖はほぼ垂直に近い。しかし、そこには、ところどころにゴツゴツとした岩の出っ張りがある。そこを掴めば、何とか降りられそうだ。


「下で何かあったかもしれません。急ぎましょう」

「え? あ? 無理無理」

 真っ赤な猫耳はこちらを見て首を横に振っている。


 うーん。確かに、この真っ赤な猫耳、運動神経が悪そうだもんなぁ。岩を掴んで降りるなんて無理かもしれない。


 しゃがみ、真っ赤な猫耳の方へと背中を向ける。

「どうぞ」

「へ?」

 真っ赤な猫耳の方を見れば、よく分からないという呆然とした表情をこちらへと向けていた。

「この崖を降りることが出来ないんですよね。どうぞ」

 しゃがみ込んだまま、手を動かす。ぱたぱた。


「どうぞ」

「あ、あ、うん」

 真っ赤な猫耳が恐る恐るこちらの首へと手を回す。


 誰かを背負うのは銀のイフリーダで慣れている。問題無い。


「落ちないようにしっかりとしがみついてくださいね」

 真っ赤な猫耳が背中にしがみついたのを確認して立ち上が……と、その足が上がらなかった。


「お、重い……」

 意外に重かった。よく考えれば銀のイフリーダには重さがない。それと同じように考えては駄目だった。

「え? あ、ごめんな……って、酷い!」

 真っ赤な猫耳が背中で騒いでいる。耳元でちょっとうるさい。


 気合いを入れて立ち上がる。


「降ります。怖かったら目を閉じていてください」

 そのまま崖の岩肌に手を伸ばし、下へと降りていく。


 急げ、急げ。


 真っ赤な猫耳を背負ったまま、岩壁を掴み、出っ張りに足を乗せる。次の出っ張りに足を伸ばし、降りる。


 降りる。


 降りる。


 次の出っ張りに足を乗せた瞬間、その出っ張りが崩れた。岩が崩れ、下へと転がり落ちていく。


「ちょ、ちょっと!」

 危ない、危ない。


 背中で真っ赤な猫耳が騒いでいるが無視する。


 油断せず、それでも急いで降りよう。


 降りる。


 岩壁を掴み、降りる。


 登るよりも降りる方が大変だ。


 降りる。


 ……そろそろ大丈夫かもしれない。


 岩壁を半分くらい降りたところで手を離す。

「へ? な、何!?」

 飛び降りる。


 このまま受け身をとって着地を……。


「落ちてるっ!」


 あっ!


 背中に真っ赤な猫耳が居ることを忘れていた。このままだと受け身が取れない。


 背負っている真っ赤な猫耳の足の下へと手を入れ持ち上げる。

「ひゃっ!」


 着地する。


 そのまま膝を付くようにゆっくりと足を折り曲げ、着地の衝撃を逃がしていく。真っ赤な猫耳を背負っているから転がって衝撃を逃がすことが出来ない。


 体に走る逃しきれなかった衝撃と痛みは我慢する。これは仕方ない。


「ちょ、ちょっと大丈夫なの!?」

 真っ赤な猫耳が騒がしい。


「大丈夫です」

「大丈夫そうな顔じゃない!」

 肩越しに、こちらを見ている真っ赤な猫耳の顔が近い。

「本当に大丈夫ですから、背中から降りてください」

「わ、分かった」

 真っ赤な猫耳が背中から降りる。


 ちょっと足が痛い。


 ……今は急ぐべきだ。


 周囲を見回す。


 何か激しい戦いがあったかのようにいくつもの海草が折れ、倒れている。周囲には上から落ちてきたであろう沢山の岩の塊。

 もしかして、洞窟の入り口が閉じられたのは、この落石が、偶然……?


 あり得そうだ。


 そうなると自分たちはどれだけ運が悪かったのか、という話になってくる。


 いくつもの海草の森が折れ、倒れ、奥へと続く道になっている。


 この周辺にカノンさんたちの姿はない。


「奥へ進みます」

 この海草が折れて作られた道の先にカノンさんたちが居るはずだ。


 進む。


 そこには無数の爛れ人の死骸があった。全て鋭利な刃物で切断され、絶命している。


 何か激しい戦いがあったかのように?


 違う、実際にあったんだ。


 自分たちが洞窟の中で戦っている間、外でも戦いがあったのだ。


「これ、大丈夫なの? ラーラは……」

「カノンさんが一緒です。大丈夫です。問題ありません」

 自分よりも強いカノンさんが居るんだ。問題なんてあるはずがない。


 その証拠に、転がっている死体は全て爛れ人だ。カノンさんたちメロウの死体は一つも無い。


 無数の死骸と折れた海草の中を奥へと進んでいく。死骸の数が多い。数え切れないほどだ。この数をものともしないのは、さすがはカノンさんというところか。それどころか、自分たちが洞窟で戦っていたわずかの間に、これだけの数を斬り伏せているのはさすがと言うべきだろうか。


 そして、海草の森の奥。


 死骸の山を越えた先にカノンさんの姿があった。

「ソラが無事で良かったのだ」

 カノンさんの言葉。


「あ、ぐっ」

 その姿を見て、言葉が詰まる。


 ……。


 それは。


 とても酷い。


 カノンさんの蜘蛛足は折れ曲がり、体も無事なところを探す方が困難なほど傷だらけだ。人の側の腕も歪な方向へと折れ曲がり、手に持った剣は半ばから無くなっている。生きているのが不思議なくらいだ。


 その傷だらけのカノンさんの足元では青髪の少女が手をかざし、必死に呪文を唱えている。


「ラーラ、無事なの? これは一体!?」

「姉さま! 彼女が私たちを庇ってくれて……」

 カノンさんに触れている青髪の少女の手がほんのりと青く光っている。これが癒やしの力なのだろうか。


「うん。不甲斐ない姿を見せるのだ」

 片目を閉じたカノンさんが唇の端を持ち上げ、笑っている。


「だ、大丈夫なんですか?」

 カノンさんが爛れ人ごときに後れをとるとは思えない。何かが、何かが……。

「危険な状態です! いつ命の炎が消えても……」

 青髪の少女が叫ぶ。いつものとろんとした様子からは想像出来ないほど取り乱している。


 その青髪の少女を――カノンさんが無事な方の手で、その青髪を撫でる。

「こうして治してくれているから大丈夫なのだ」

 カノンさんは不敵に笑っている。


 そして、こちらへ視線を向ける。

「ソラ、爛れ人と鬼の襲撃があったのだ。何とか撃退したのだが、このザマなのだ」

 このザマって……。


 カノンさんがこんな姿になるほど、鬼は強いのか? いや、足手まといを守りながらだったから、なのか?


 カノンさんの後ろには傷だらけになったメロウの三人がいる。三人の傷はカノンさんほど深くない。

 カノンさんほど強くないにしても、メロウの三人が居て、それでも?


 ……。


 カノンさんの言葉は続く。

「ただではやられていないのだ。鬼にも手傷を負わせたのだ……そこで、ソラにお願いがあるのだ」

 お願い?

「何でしょう。言ってください」

「鬼を倒して欲しいのだ。ヤツも無傷ではないのだ。今の手傷を負わせた状態なら――ソラなら勝てる!」

 カノンさんがこちらを見る。


「いや、まずはここで次の襲撃に備えて……カノンさんがそんな状態なのに、放って置けませんよ」

 カノンさんが首を横に振る。

「こうなったのは自分が弱かった、それだけなのだ。頼むのだ」

「でも……」


 カノンさんが笑う。

「私の仇をとって欲しいのだ」


 ……。


「分かりました。鬼を倒してきます」

「頼むのだ」

 頷く。


「カノンさん、戻ってくるまで死なないでください。倒したって報告する相手がいないなんてつまらないです」

「うん。メロウのしぶとさを見せてあげるのだ」

 カノンさんが笑っている。


「私が、私が助けます……!」

 青髪の少女は癒やしの力を使い続けている。


 休むどころではなくなってしまった。


 洞窟からの連戦になるけれど……うん、大丈夫だ。


 戦える。


 鬼を倒す。

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