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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
希望の谷
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193 爛れ続ける

 周囲を警戒しながら海草の森の中を進む。


 毒の沼地が広がっているところは、毒に耐性のないヒトシュである自分では、探索することが出来ない。どうしても探索が甘くなってしまう。


 しかし、これは不思議なことだが、海草の森は、谷に流れている毒の川の中を、まるで進むべき道であるかのように奥へと続いていた。これなら毒の沼地に近寄らなくても谷の奥まで進むことが出来る。毒の川の奥まで調べることは出来ないが、これなら、あまり大きな問題ではないだろう。


 ……。


 少し出来過ぎな気がする。


『ふむ。なかなかに不快で楽しい場所のようじゃ』

 いつものようにいつの間にか銀のイフリーダが隣を歩いていた。

『何かありそう?』

『ふむ。特に何もないのじゃ。何か無ければ現れては駄目とは……ソラは酷いのじゃ』

 銀のイフリーダの言葉に慌てて首を横に振る。


『違うよ。最近は何かあった時ばかり銀のイフリーダと話している気がしたから、つい、そう思っただけだよ』

 そうだ。最近は何かあった時にしか銀のイフリーダと会っていない気がする。

『ふむ。ふむ。力を温存していたのじゃ』

 力を温存していた?


 それなら、今、現れた理由は?


 温存する必要がなくなった?


 この強大なマナが眠る谷に辿り着いたから?


 分からない。


 分からないが、何か不穏だ。


 そんな銀のイフリーダとともに海草の森を進む。


 しばらく海草の森を進み続けたところだった。


 この海草の森に――この先に、何か異質なマナの流れを感じる。


『何だろう。壊れたマナ結晶? 何か流れが普通と違うものの存在を感じる』

『うむ。我も敵の存在を感じたのじゃ』

 敵?


 もしかして、これがカノンさんの言っていた鬼?


 海草の陰に隠れて様子をうかがう。


 それは海草の森の中をふらふらと動いていた。


 海草の陰から少しだけ顔を覗かせて、そちらを見てみれば、それは人のような姿をした何かだった。


 いや、似ているのは姿だけだ。


 服は着ていない。あるのは腰布だけ。

 お腹は異常に大きく膨らんでいる。しかも、顔が爛れ落ち、中の骨がむき出しになっていた。その顔の爛れを隠すためなのか、口の部分に鳥の嘴を模したマスクを身につけている。


 手には先を削っただけの、毒々しい紫色に変色した木の槍を持っている。


 これが鬼?


 マナの流れが異常だ。でも、それだけだ。脅威となるような――強敵のようには見えない。

『ソラよ、相手はこちらに気付いていないのじゃ。先制攻撃なのじゃ』

 銀のイフリーダの言葉に頷き、緑鋼の槍を構える。


 小さく息を吸って吐き出す。


 そしてタイミングを見計らい、生きた死人のように木の槍を引き摺ってふらふらと歩いている鬼の後ろへと駆け出す。


 鬼はこちらに気付いていない。


 緑鋼の槍で鬼の体を突く――そして、緑鋼の槍が簡単に鬼の体を貫いた。


 鬼の体から紫の血液のようなものが飛び散る。


 緑鋼の槍を胸から生やした鬼が、その緑鋼の槍を引き抜こうと手を動かすが、すぐに、その力を失い動かなくなった。


 ……。


 一撃?


 これが鬼?


 とてもメロウさんが言うような脅威となる存在には見えない。


 てっきり鬼が強大なマナをもつ存在なのだと思っていたが、どうも違うようだ。


『そうだ、マナ結晶』

 鬼の体内にあったマナ結晶は歪な形に――その半分が溶けたかのように歪んでいた。

『イフリーダ、食べる?』

『食あたりを起こしそうな形をしているのじゃ』

 銀のイフリーダが顔を歪ませている。


 それでも歪なマナ結晶を受け取り、飲み込む。


 ……銀のイフリーダでも食あたりとかあるんだ。


『むむむ。いまいちなのじゃ』

 銀のイフリーダは不味そうに、眉間を歪ませていた。


 その後も海草の森を探索するが、他の鬼と出会うこともなく、特に目新しいものは見つからなかった。


 この周辺は安全なようだ。


 探索を打ち切り、カノンさんたちのもとへ戻る。


 そこでは赤と青の二人が料理を行っていた。二人は普段、あまり料理を行っていないからか、とても不器用に、恐る恐るといった感じで料理を行っている。そして、それをメロウの三人が手伝ってあげていた。


 どうやら、仲良くやれているようだ。


 真っ赤な猫耳の体調も戻ったようだ。


「戻りました」

「うん、待っていたのだ」

 見張りを行っていたカノンさんがこちらに気付き、頷く。


「それで、どうだったのだ?」

「周辺は……今は、危険がないと思います。ただ、途中で、敵と出会ったので排除しました」

「敵?」

 頷く。


「カノンさんが言っていた鬼? だと思います」

「なんと! すでに鬼と出会い倒したとは驚いたのだ」

 うん?


 驚かれるような相手ではなかった。


 あれは鬼ではないのか?


「えーっと、顔が溶けて骨が見えているような裸の化け物です」

 それを聞いたカノンさんががっかりしたように肩を落とした。

「ソラ、それは爛れ人なのだ」

「爛れ人ですか?」

「この谷に逃げ込んだヒトシュなのだ」


 ……。


 え?


 あれもヒトシュなのか。


「鬼は、頭に鋭い突起を持ち、全身がとても硬い殻に覆われているのだ。私の武器でも斬れなかったのだ」

 角の生えた殻を持った存在?


 昆虫のような魔獣なのだろうか?


 しかし、緑鋼すら斬ってしまったカノンさんでも斬れないなんて、どれだけ硬いんだ。


 でも、これでメロウの人たちが鬼を危険だと言った理由が分かった気がする。


 カノンさんでも斬れないなら、だれがやっても無理だろう。相手に自分の攻撃が通らなければ倒すことは出来ない。


 確かに危険な相手のようだ。


「最初からカノンさんに鬼のことを聞いておけば良かったです」

 カノンさんは首を横に振る。

「良いのだ。鬼は谷の奥に住むのだ。この辺りまで出てくることは殆どないのだ」


 谷の奥、か。


 食事の後、少し休憩を取ったら出発しよう。


 にしても、あれがヒトシュだったなんて……。


 いきなり攻撃をしたのは不味かっただろうか。


 姿形に騙されず、対話を試みてみるべきだったのだろうか。

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