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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
希望の谷
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188 食事改革

 リュウシュの皆さんが遠征のための準備を行ってくれている間、自分はスコルとともに食べられそうな魔獣の狩りを行う。


 戦闘の訓練にもなってリュウシュの皆さんが大好きな肉を得ることも出来る。さらに銀のイフリーダのためのマナ結晶も得られるのだから、本当に無駄がない。


 食料は大切だ。


 ……。


 ただ、こうしているとメロウの皆さんを非難できないな、と思ってしまう。


 食べるために魔獣を狩っているのと、食べるために人『も』狩っている――違いは何だろうか。いやまぁ、メロウの皆さんが人を食べているところを見たわけではないのだけれど。

 でも、あの口ぶりでは、食べているのは間違いないだろう。


 ……。


 必要があって食べるために狩っているのは同じだ。


 何が違うのだろうか。


 意志があるから?


 心があるから?


 だから、違う?


 いや、魔獣にだって、スコルのように意志や心を持ったものだって存在している。


 ……。


 難しいなぁ。


 考えすぎているだけなのかもしれないが、それでも考えてしまう。


 結局のところ、カノンさんが言うように強いということが重要なのかもしれない。


 弱ければ、どれだけ正しかろうと、相手に自分の意志を認めさせることすら出来ないことだってある。


 ……。


 強いというのは大切なことだ。


 強かったからカノンさんに認めて貰うことが出来た。協力して貰えた。


 ……うん、強くなろう。


 ある程度、四つ足の魔獣を狩ったところで拠点に戻る。


 拠点に戻ると、そこでは青く煌めく閃光さんが待っていた。

「ただいま戻りました」

「戦士の王、毎日の狩り、助かっているのです」

 青く煌めく閃光さんがぐにゃりと体を捻ってこちらに右手を伸ばしている。伸ばした、その手は何なのだろうか。何のためなのだろうか。ハイタッチや握手でもした方が良いのだろうか。


「自分を待っててくれたようですが、何かありましたか?」

 青く煌めく閃光さんが変な姿勢を止め、頷く。

「戦士の王、今、準備している食料に関してなのです」

 調理は語る黒さんが行ってくれている。しかし、その材料となる食料の生産は青く煌めく閃光さんの管轄だ。もしかして、食料が足りなくなっているのだろうか。


「これを見て欲しいのです」

 青く煌めく閃光さんが腰に付けていた袋を取り外し、その中身を取り出す。


 それは、今、外の畑で多く育てている植物の種だった。


 自分の背丈くらいまで伸び、穂を持った植物。沢山の種を実らせるが、その実の大きさはあまり大きくない。


「この種は殻の中に食べられる実が入っているのです」

 青く煌めく閃光さんは種を一粒だけ取り、その殻を器用に剥いて中身を取り出す。少し赤みを帯びた実だ。


「これを、今、語る黒に調理して貰っているのです」

 なるほど。しかし、いくら一つの穂から沢山採れるといっても殻を剥かないと食べられないというのなら、かなりの手間がかかりそうだ。


「一つ一つ殻を剥くのは大変そうですね」

「それは大丈夫なのです。そういった作業は皆で分担して行うので苦にならないのです」

 なるほど。人の数で作業量を補っているんだね。でも、今は苦にならなくても生産量が増えてきたら大変そうだ。

 これは早い段階で何とかした方が良い気がする。


「王様ー、探したぜー」

 そんなやりとりを行っていると亡霊がやって来た。手に何か大きな板のようなものを持っている。


 確か、亡霊は鐘を作っていたような気がするのだけれど、何のようだろうか?


「どうしたの?」

 亡霊は何故かとても得意気だ。

「王様、これを見るんだぜ」

 そして、こちらへ突き出してきたのは先ほどから手に持っていた円形の板だった。


「これは?」

「あ、ああ! 盾さ」


 盾?


 円形の板を受け取り、確認する。板の裏側には取っ手のような握りと腕に結びつける時に使うのか結束用の紐が取り付けられている。


「えーっと、持って使うことも、腕に取り付けることも出来る感じですか?」

 亡霊が頷く。


 にしても、何故、今更、盾なのだろうか。盾の作成なんて頼んでいなかったような気がするのだけれど……。


「それだけじゃないのさ。表側を見て欲しいんだぜ」

 亡霊に言われて表面を見る。


 そして、亡霊が得意気な理由と、これを持ってきた理由を理解した。


 表面には亀の甲羅のように錬金小瓶の欠片が埋め込まれていた。


 あー、そういえば好きに使ってくださいという感じで錬金小瓶の破片を渡していた気がする。

「王様から貰った素材を活用した盾なのさ」

 亡霊が、どうよという感じで胸を張っている。


 確かに錬金小瓶は異様に硬い。これを盾に活用するのは良い考えかもしれない。


 でも、盾、盾かぁ。


 この盾は腕に取り付けることも出来るし、腕ならあまり邪魔にもならないかな。


 ……。


 うん、そうだね。今回の旅で役に立ちそうだ。


「ありがとうございます」

「他にも色々作っているから、待っているからさ。しっかりとやることやって帰って来いよな」

 亡霊は、そんなことを言いながら横を向き、顔を隠すようにフードを大きく引っ張っていた。


 そうだね。強大なマナを手に入れて戻ってこないと。


「戦士の王、こちらも完成したようなのです」

「お待たせしたのです」

 そして、語る黒さんがやって来た。


 手に持っているのは……鍋? リュウシュの皆さんはいつの間にか鍋を作っていたようだ。


「それが調理した、先ほどの実ですか?」

 語る黒さんが頷く。


 鍋の中を見る。


 その中にあったのは、ふっくらと炊き上がった、柔らかそうな薄い赤色の実だった。鍋の中にぎっしりと詰まっている。


 鍋からはほんのりと甘みを感じさせる匂いが漂っている。


「調理には、鍋と水、それに火が必要になるのです。でも、試した中では、これが一番、美味しかったのです」

 語る黒さんが目の前に鍋を置く。


「これを使うのです」

 語る黒さんからスプーンを受け取る。

「あ、はい。ありがとうございます」


「あ、ああ? 何々、美味しそうじゃん。良い匂い……」

 亡霊の食いつきが凄い。


 これは自分の分だからね、あげないよ。


 鍋の中のふっくらとした実にスプーンを差し込む。柔らかい。でも、ちょっと粘ついている感じがする。


 少しだけ掬って食べてみる。


 ほんのり甘くて美味しい。


 それに結構、お腹になる。


「待って欲しいのです。それだけではないのです」

 語る黒さんが焼けた鉄板を持ってくる。その鉄板の上には肉汁が溢れる焼いた魔獣の肉があった。


「これをかけて食べるのです」

 鍋の上に肉汁を垂らし、そのまま焼いた肉をのせる。


 食べる。


 ……。


 これは……!?


「肉の味が炊き上がった実に染みこんで凄く美味しいです」


 美味しい。


 久しぶりに焼いただけではない、まともな料理を食べた気がする。


「戦士の王、この実、かなり長期間保存できそうなのです」

 青く煌めく閃光さんがこちらを見てニヤリと笑う。


 長期保存が出来る……?


「問題は鍋、それに水と火が調理には必要になるのです。しかし、長期保存が出来て少量でも水を吸って膨らみ、腹持ちも良いのです。次の旅に良いと思ったのです」


 ……。


 青く煌めく閃光さんが待っていた理由を理解した。


 確かに鍋と水が必要になるのは問題だ。


 でも、それを補える食料だと思う。


 保存が利くのも素晴らしい。


 何よりも、美味しいのが良い!


「これは素晴らしいと思います。是非、持って行かせてください。準備をお願いします」

「戦士の王ならそう言ってくれると思ったのです。任せるのです」

 青く煌めく閃光さんが牙を見せ笑っている。


「で、私の分は?」

 そんなやりとりの中、亡霊が物欲しそうにこちらを見ていた。


「戦士の王の旅の準備が終わって、余ったらになるのです」

 青く煌めく閃光さんは無慈悲だ。亡霊がえーっと叫び、物欲しそうな顔でこちらを見ている。


「あー、えーっと、残っている分、食べますか?」

「あ、ああ。もちろん!」

 亡霊が鍋に取りつく。


 ま、まぁ、盾を作ってくれたからね。


 これくらいは良いか。

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