表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
希望の谷
190/365

187 準備の前に

「それでは話を戻しますね」

 リュウシュの皆さんには色々とお願いをしないといけない。


 いつも頼ってばかりで心苦しいばかりだ。


「分かっているのです。戦士の王には返しきれない恩しかないのです。何でも言うのです」

 青く煌めく閃光さんが頭の上に左腕をのせ、右腕をこちらに伸ばしながら笑っている。


 この人は相変わらず一つ一つの動作がとても大げさだ。でも、その言葉はとても暖かい。


「目的の場所までは二、三日かかるとのことです。その間の食料と水をお願いしても良いでしょうか」

「任せるのです」

 青く煌めく閃光さんが牙を見せて笑う。


「それなら、私も力になるのです。戦士の王と二度目の旅なのです」

 語る黒さんが口に手を当て上品に笑っている。


 確かに語る黒さんの神法の力は頼りになる。正直言うと、今回、目的の場所には一人で向かうつもりだった。この拠点で何かあった時のために戦える人は残っていて欲しいかったのだ。


 でも自分の力になってくれるという、その気持ちを……。

「はい、こちらこそお願いします」

 だから、協力をお願いする。


「ちょ、ちょっと待って!」

 と、そこに待ったがかかる。


 誰かと思えば真っ赤な猫耳だった。

「私が行く!」

 真っ赤な猫耳が大きく主張するかのようにこちらへと手を伸ばしている。


「えーっと、それは言っている意味を分かっての言葉でしょうか?」

 真っ赤な猫耳が頷く。


「ここを守る人が必要でしょ、違う?」

「確かにそうですね」

「部外者の私なら、頭数にないでしょ? これで人を残せるはず。それに私は魔法が使えるから……きっと役に立つ」

 真っ赤な猫耳が猫のような鋭い瞳でこちらを見ている。


「危険だと言うことは分かっていますよね」

 真っ赤な猫耳がゆっくりと頷く。


 あの戦うことが生き甲斐みたいなメロウという種族の、その里長が危険だとわざわざ忠告するような場所だ。


 この真っ赤な猫耳がそこで戦えるほどの実力だとはまだまだ思えない。


 足りない部分は命をかけることになる。


「姉さま、姉さまが行くのであれば私も……」

「行くのは私だけ。ラーラはここで待っていなさい」

 赤は激しく、青は静かに――何やら言い争っている。


「正直なところ、その選択は命をかけることになると思います。その聖者の遺産とやらが命をかけるほどだとは思えません」

 この二人は分かっているのだろうか?


 自分は良い。


 銀のイフリーダに助けられた命だ。その銀のイフリーダの望みのために動く覚悟が出来ている。もう三回も繰り返してきたことだ。


 でも、この二人はどうなのだろうか?


「分かっている」

 真っ赤な猫耳がこちらを見ている。猫のような瞳には強い意志の光が宿っている。


「もし、何かあったら、誰かが助けてくれると思っているなら、それは間違いですよ」

 もう一度だけ確認する。


「それも分かってる」

 真っ赤な猫耳の答えは同じだ。


「分かりました。そういうことみたいなので、今回は語る黒さんはお休みでお願いします」

「分かったのです。戦士の王が戻られるまでの間、しっかりとここを守るのです」

 語る黒さんが肩を竦め、微笑む。


「そういうことなので、この二人の分の準備もお願いします」

 リュウシュの皆さんが頷く。


「許してくれて……ありがとう」

 真っ赤な猫耳がこちらを見て小さく頭を下げる。


 ……。


 お礼が言えるようになるなんて、ここに来て少しは成長してくれたのだろうか。最初の――出会った頃はお礼を言ったら負けみたいな雰囲気があった。


 成長?


 これも成長なのかなぁ。


「あー、はい。ただ、先ほども言ったと思いますが、自分の身は自分で守れるようにしてくださいね」

「もちろん、ね!」

 真っ赤な猫耳が力強く頷く。


 正直、不安しかないが、そこは、まぁ、自己責任だ。


「スコルは沼地までお願い、だね」

「ガルル」

 スコルが任せろという感じで吼える。


 さあ、出発の準備を行って……うん、忙しくなるぞ。


「あ、それと皆が集まる用の部屋や何か合図を決めませんか?」

 今後、同じようなことがあった時に便利だからね。


「分かったのです。部屋を作るのです」

 炎の手さんが頷く。

「ふーん。それなら私が鐘でも作ろうか。こう、良い音色で響き渡るような、さ」

 亡霊がとても浮き浮きと楽しそうにしている。単純に鍛冶作業が――新しいことへの挑戦が楽しいのだろう。


「はい、お願いします。それと、これは急ぎではないのですが、自分もベッドを作って貰って良いでしょうか? 出来れば柔らかいものでお願いします」

 これもついでとばかりに炎の手さんにお願いする。


 それを聞いた炎の手さんと走る手さんが驚き、目を瞬かせながらこちらを見る。


「てっきり、戦士の王は、好んで、それを使っていると思っていたのです」

「だから、残していたのです」


 ……。


 なるほど。


 酷い誤解だ。


 いつの間にかシェルターの横に立っている銀のイフリーダがこちらを見てニヤニヤと笑っている。


 酷い誤解だ。


「えーっと、すいません。自分も足を伸ばしてゆっくりと眠る方が大好きです」


 大好きです。


 誤解は解いておこう。


 にしても、酷い誤解だ。


 伝えることは大切だ。


 うん、とても大切だ。


 言葉にして伝えていないから、こういう誤解が生まれるんだね。


 ……。


 にしても、言ってなかったかなぁ。


 言ってたような気がするんだけどなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ