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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
希望の谷
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184 最後の場所

 カノンさんがガシガシと蜘蛛足を動かし、奥にある大きな建物へと向かう。


「ところでソラ」

 カノンさんが歩きながら顔だけこちらへと振り返る。

「何でしょう?」


 カノンさんが笑う。

「手加減は良くないのだ。強者はその力を示してこそなのだ」

『うむ。良いことを言うのじゃ』

 いつの間にかカノンさんの背中の上に立っていた銀のイフリーダも、こちらを見て、とても得意気にそんなことを言っている。


『あー、うん。そうだね』


 大きな建物に取り付けられた扉を、カノンさんが蜘蛛の前足を使って器用に横へと動かす。この扉は横に動かして開ける形のようだ。


 大きな建物の中には、天井の高い、ただただ広がる空間があった。ここも平屋だ。外から見た時は、とても大きな建物だった。しかし、その中にあるのは一つの部屋だけだ。ここも外側だけを作った建物のようだ。


 そして、そこに多くの蜘蛛人の姿があった。


 細身の剣を持ち武装した蜘蛛人たちが左右に並ぶ。その一番奥には他と違う雰囲気を纏った蜘蛛人が、その蜘蛛足を折り曲げ座っていた。


「オババ、話があるのだ」

 カノンさんが並んでいる蜘蛛人を無視してずかずかと部屋の奥へと進んでいく。


「お嬢、お待ちください」

 しかし、すぐに並んでいた蜘蛛人たちに取り囲まれてしまった。

「いくら、お嬢でも、このような狼藉は……」


 カノンさんの足が止まる。


 そして身に纏っていた気配の質が変わった。戦闘態勢に入ろうとしている。


「良いっ!」

 と、そこへ奥から大きな声が発せられる。


 こちらを取り囲んでいた蜘蛛人たちが、そちらへと一斉に振り返る。


「さすが、里長は話が分かるのだ」

 カノンさんが囲んでいた蜘蛛人を押しのけ、歩いて行く。


「里長、何故このような……」

 動きを止めた蜘蛛人たちが騒ぎ始める。


 カノンさんはそれを無視して奥へと歩いて行く。


「ソラ。この里の長であるオババなのだ」

 目の前に座っているのは一人の蜘蛛人。


 疲れたように目を閉じ座り込んでいる蜘蛛の体、そこから人の上半身が生えている。布と布を重ねて作られた服を着た人の姿をした上半身は若々しく、とてもオババと呼ばれるような年齢には見えない。


「ふむ」

 大きくため息を吐き出している、その蜘蛛人は長く伸びた髪を棒のようなものでまとめ上げ、眠ったように目を閉じている。


「里長なのだ。オババなのだ」

 カノンさんは何処か楽しそうだ。


 オババと呼ばれた蜘蛛人がゆっくりと片目を開ける。

「カノンよ、此度のこと、事と次第ではお主でも、分かっているので?」

 その言葉とともに周囲の空気の重さが変わった。強い圧力を感じる。


「ソラ、オババに何でも聞くのだ」

 カノンさんはそんな圧力など何処にもないかのように笑っている。


 ……。


 何でも聞く?


 そうだ。


 ここに来た理由は最後に残った強大なマナの一つの話を聞くことだ。


 目の前に座っている蜘蛛人のオババからはこちらを威圧するかのような力の発露を感じる。


 しかし、強大なマナが持つ力にはほど遠い。


 あれは、対峙したものだけが知っている絶望の力だ。それと比べれば……。


「そうですね。分かりました」

 カノンさんの背から飛び降りる。


 地面は固い。この固さなら踏ん張りが利く。今、ここにいる蜘蛛人の全てが襲ってきたとしても、これなら対処できそうだ。


 うん、問題無い。


「ヒトシュが、この地、この里、この私に、何用で?」

 目の前の蜘蛛人から発せられる圧力がさらに強くなる。意志の弱いものなら、それだけで気を失ってしまいそうなほどの圧力だ。


 でも、それだけだ。


「強大なマナを探して、この里に来ました」

「それを探してどうするので?」

 オババの瞳がゆっくりと見開かれる。細く長い瞳。


 それを求めてどうする?


 決まっている。


「倒して、手に入れます」


 それを聞いたオババが大きく目を見開く。そして、座り込んでいた蜘蛛の前足を大きく持ち上げ、ガチガチと叩きつけた。


 笑っている。

「これは面白い。カノンが連れてきた理由も納得なので」

「うん。オババは理解が早くて助かるのだ」

 カノンさんとオババは楽しそうに笑い合っている。


「しかし、口では好きに言えるので」

「うん。ソラは私以上のモノノフなのだ」

 笑っていたオババの口が止まる。


「それは本当で?」

「何故、皆が疑うのか理解出来ないのだ」

 カノンさんは笑ったままだ。


「なるほど。強大な力に挑むのも頷けるので」

 オババがゆっくりと頷く。


「それで、どうなのでしょうか?」

 情報を手に入れるためにここまでやって来た。


 話を聞かなければ……。


「おおう、すまぬので。話は簡単なので」

 オババがこちらを見る。


「この里よりさらに西に鬼が住む谷があるので。その奥に眠るのが目指すもので間違いないので」

 確かに話は簡単だった。


「分かりました。情報、ありがとうございます」

 お礼を言う。


 でも、その情報を聞くためだけにこの里に?


 少しだけ、この里にまで来た意味を考えてしまう。


 思わずカノンさんの方へと振り返る。


 カノンさんはこちらを見てニヤニヤと笑っている。


 どういうこと?


 まだ、何かある?


 それを見てオババの方へと振り返る。


 すると蜘蛛にくっついた人の方の顔が大きなため息を吐き出していた。


「そこはヒトシュが向かうには無理な場所なので。この里から何人か力を貸すので」

「うん。それでこそ里長のところに来た意味があるのだ」

 人ではたどり着けない場所?


「この里の若いのに、声をかけておくので。そちらの準備が終わったら教えて欲しいので」

「えーっと、それは何日くらいかかりますか? その谷に向かう日数も教えてください」

 ここから近いのならば良いが、かなりの距離があるというのならば、どうしても食べ物や飲み水など準備が必要になってくる。


「一週もかからないので」

「三、四日でたどり着けるのだ」


 ……。


 思っていたよりも遠かった。


「すいません。一度、自分の拠点に戻って準備をしてもよろしいでしょうか?」

「それはもちろんなので」

 オババが頷く。


「それと、何人か人を連れて来ても大丈夫でしょうか?」

 その言葉にはオババは首を傾げた。

「かなり危険な場所なので。それが分かっているのであれば、こちらは構わないので。ただ、こちらも運べる人の数には限りがあるので、十人程度にして欲しいので」

「分かりました。ありがとうございます」

 お礼を言う。


 お礼は大事だ。


「構わないので」

「うん。それではソラ、出会った場所まで送るのだ。準備が終わったら、また、あの場所に来るのだ。すぐに迎えに行くのだ」

「あ、はい。ありがとうございます」


 西の森の沼でメロウという種族に出会った。


 そして、その協力を得ることが出来た。


 これで最後の強大なマナに挑むことが出来そうだ。


 ついに最後、だ。

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