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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
希望の谷
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183 力こそ正義

 里の中をガシガシと歩き続けるとまたも石の門が見えてきた。


 木のように筒状に加工した縦長の石と横長の石を組み合わせて門を作っている。その技術力は凄いと思うが、何の意味があるのだろうか? せっかく作った門なのに扉がくっついていない。これなら簡単に通り抜けることができる。


 この門は侵入者を防ぐためのものでは無さそうだ。


 石の門を抜けると、石畳と階段が見えてきた。


 カノンさんが蜘蛛足を深く沈めひょいと石畳へと飛び上がる。ここの地面は泥状になっていないようだ。


 カチカチと硬い音を立てながら石畳の上を歩き、そのまま階段を上がっていく。


 階段を上がりきった先にカノンさんと同じような姿をした二人の蜘蛛人が立っていた。奥には大きな建物の姿も見える。


 この二人は門番だろうか?


 門ではなく、門を抜けた先に門番が立っている?


 謎だ。


「里長に会いに来たのだ」

 カノンさんが二人に話しかける。

「お嬢、後ろのそれは?」

 門番と思われる二人は胴部分だけの丸みを帯びた鎧を身につけ、細身の剣を持っている。


 この少しだけ反りを持った細身の剣が、この里でよく使われている武器なのだろう。薄く細い剣は芸術品のようでとても実用性があるようには見えない。


 しかし、自分は、その有用性を、その身をもって嫌というほど見せつけられている。要は使う人次第なのだろう。


「うん。里長に会いに来たのだ」

 カノンさんが二人に話しかけ、そのまま奥にある大きな建物へと進もうとする。しかし、その行く手を門番の二人が塞ぐ。


「お嬢、後ろのそれはっ?」

 カノンさんが首を傾げる。

「うん? 里長に会いに来たのだ」


 門番の二人が細身の剣を構える。蜘蛛の頭も牙を覗かせ、威嚇している。

「お嬢、ヒトシュをこちらに連れてくるとは、どういうことで?」

 カノンさんが笑う。

「うん。だから、里長に会いに来たのだ」

 それで話が分かるだろうという問い方。


 しかし、門番の二人は首を横に振る。

「通せませぬ」

「ヒトシュを連れていくなど考えられぬ」


 カノンさんが大きなため息を吐き出す。

「私の言葉の意味が分からないとは思わなかったのだ。だから、お前たちはここを守る程度しか役割を与えられないのだ」

 カノンさんが鞘から剣を引き抜く。

「もう一度言うのだ。里長に会いに来たのだ」

 周囲の空気が重く圧力を持ち始める。


「そ、それでもヒトシュを……」

「くどいのだ」

 カノンさんの人部分の腕が――剣を持った腕が動く。いや、動いたことしか分からなかった。


 そして、その一瞬で、こちらの行く手を塞いでいた門番の前足が――蜘蛛部分の前足が宙を舞っていた。

「自分よりも弱いものが遮るのならば、その命をかけるのだ」

 カノンさんが細身の剣を無造作に振り払う。


 それだけで門番の二人は怯えたように後退った。


 カノンさんは大きくため息を吐き出す。

「覚悟もないのに口だけは一人前のモノノフのつもりとは情けないのだ」

 そして、こちらへと振り返る。

「これで問題無いのだ。ソラ、奥に進むのだ」

 カノンさんが細身の剣を肩に載せ、笑う。とても楽しそうだ。


 試し切りが出来てちょうど良かったのだ、なんて呟いている。ちょっと怖い。


 カノンさんはカツカツと蜘蛛足をならし、怯えたように動きが止まっている門番二人の横を抜けていく。


 と、その前方に空から巨大な蜘蛛足が降ってきた。


 新手?


 新手だ。


「お嬢、これは何の騒ぎなので?」

 新手の蜘蛛人はカノンさんよりも一回り大きい。腕を組み、見下ろすようにこちらを見ている。やはり、この蜘蛛人さんも人の部分は女性の姿をしている。女性しか存在しない種族なのだろうか。


 カノンさんはため息を吐き出す。

「そこにいた半端者にモノノフの心得を教えたのだ」

「それは素晴らしいことで。ですが、そのヒトシュは? 何のためにこちらへ向かうので?」

 巨大な蜘蛛人は盛り上げた髪を掻き上げ、こちらを見る。見ているのはカノンさんじゃない、自分だ。


「この者の頼みで、話を聞くために里長の元へ向かう途中なのだ」

 カノンさんの言葉を聞いた大柄な蜘蛛人が笑う。


「お嬢ともあろう方が、ヒトシュの頼みを聞くので?」

 カノンさんが笑う。豪気に、心底楽しそうに笑う。


「うん。ソラの頼みだから聞くのだ」

「お嬢、狂ったので?」

 大柄な蜘蛛人がこちらを睨むように見る。


「うん。狂ったのだ。それでどうするのだ? お前もやるのか?」

「お嬢、ご冗談を。この里にお嬢以上の使い手など」

 カノンさんは笑っている。


「うん。だから、里長のところへ向かうのだ」

 とても楽しそうだ。

「お嬢、それはどういう意味で?」


 カノンさんの笑い声が止まる。こちらからでは見えないが、とても素晴らしい表情をしているのかもしれない。

 大柄な蜘蛛人が、その圧力に負けたのか、少しだけ後退っている。


「ソラが私以上のモノノフだからなのだ」


 大柄な蜘蛛人の顔が引きつっている。

「それはお嬢の言葉でも笑えないので」

「うん?」

 カノンさんは首を傾げている。


「ヒトシュがお嬢に勝ったとでも言うので?」

「何故、疑うのか分からないのだ」

 カノンさんは大きくため息を吐き出している。


「もう面倒なので全て斬った方が早い気がしてきたのだ」

 カノンさんが肩に載せた剣を、トントンと何度も肩を叩くように動かす。


 多分、その顔は、とても楽しそうに、愉快な笑顔を作っているはずだ。


『ソラよ、もう面倒になったのじゃ』

 いつものようにいつの間にか現れた銀のイフリーダが大柄な蜘蛛人の頭の上から、その顔をぺちぺちと叩いている。

『うーん。でも、ここはカノンさんの里だからね。部外者の自分が下手に口を出すべきじゃないと思う』

 銀のイフリーダは大柄な蜘蛛人の頭の上で笑う。


『違うのじゃ。単純なことなのじゃ。ソラが、力を示せば良いのじゃ』

 ため息が出る。


 結局そうなるのか。


『イフリーダ、勝てると思う?』

 目の前の大柄な蜘蛛人を見る。とても強そうだ。


 でも、カノンさんほどの圧力は感じない。


『うむ。ソラの……』

『分かってるよ。イフリーダに教えて貰わなくても、相手の実力くらいは読めるよ』

 それくらい出来なければ銀のイフリーダに鍛えて貰っている意味が無い。


 今の自分の実力でも、この大柄な蜘蛛人なら、百回戦って、九割程度は勝つことが出来るはず――いや、逆に言えば一割は負ける可能性が残っている。


 相手は、それくらいの強さのはずだ。


『うむ。しかし、それでは面白くないのじゃ』


 銀のイフリーダが動く。ぴょんと大柄な蜘蛛人の頭の上から飛び降りる。


 そして、そのままこちらの首に腕を回す。


 結局、そうなるのか。


 体が動く。


 緑鋼の槍を手に持ち、カノンさんの背から飛び降りる。


 地面は固い。これなら普通に動けそうだ。


「む。このヒトシュ、やる気で?」

 大柄な蜘蛛人が動く。その蜘蛛の背に乗せていたであろう剣を引き抜く。大きい、まるで鉄板のような剣だ。


 この里には、このような形の剣もあったのか。


「実力はお嬢ほどではなくとも、単純な力だけなら負けぬので」

 大柄な蜘蛛人が鉄板のような剣を振るう。


 体が動く。


 飛ぶ。


『ソラよ、学ぶのじゃ!』

 力任せに振るわれた鉄板のような剣の上に自分の体があった。


 剣の上に乗っている。


『まずは相手の意志を砕くのじゃ!』

 手に持った緑鋼の槍が足元にある鉄板を貫く。その一撃だけで鉄板が砕け散る。


 鉄板の破片が宙を舞う。


 その時には自分の体が宙にあった。


 大柄の蜘蛛人の眼前へと飛び上がっている。


 相手の驚きの顔。


 緑鋼の槍を、まるで鉄の棒でも持っているかのように両手で持つ。


 そして、そのまま横薙ぎに振り払い、大柄な蜘蛛人の上半身に叩きつけた。


 その一撃で大柄な蜘蛛人の巨体が浮く。


 そのままくるりと回り、カノンさんの背に着地した。


『うむ。これが力なのじゃ』

『はは。銀のイフリーダに借りた力だけどね』

『ふむ。ソラよ、卑屈になるでないのじゃ。これはソラがいつかたどり着ける場所なのじゃ』


 ……。


 その通りだ。


「うん。素晴らしい技なのだ」

 カノンさんは嬉しそうだ。


「ひ、ヒトシュがあり得ないので」

 大柄な蜘蛛人が苦痛に顔を歪めながら、打ち付けられた体をさすっている。


 そして、その大柄な蜘蛛の体が動く。


「ソラに手加減されたことも分からないとは思わなかったのだ」

 しかし、その大柄な蜘蛛人よりも早く、カノンさんの蜘蛛の体が動く。前足が、大柄な蜘蛛人を押さえつけ、そのカノンさんの下半身になっている蜘蛛の顔が、相手の足を食いちぎった。

「反省するのだ」


 カノンさんはとても楽しそうだ。


「さあ、ソラ。これで里長のところに行けるのだ」

 この里は、どうにも恐ろしい場所のようだ。

強さを数値化。

ソラ・40 イフリーダ+40

スコル・50

カノン・60

大柄な蜘蛛人・30

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