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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
希望の谷
184/365

181 話す

「分かった。何でも聞くのだ。ヒトシュとは思えぬ素晴らしきモノノフの技だったのだ」

 蜘蛛足がゆっくりと動き大きな体を持ち上げる。


「えーっと、では、そもそもあなたは何者なのでしょうか?」

 この領域の守護者? とか、そういう感じなのだろうか。


 蜘蛛の上にある人の上半身が腕を組み、首を傾げる。質問が大雑把過ぎたのだろうか。


「メロウだ」

 組んでいた腕をほどき、長い黒髪を掻き上げる。額当てが外れて長い髪がゆらゆらと揺れている。少し鬱陶しそうだ。


 ……。


 名前だろうか?


「メロウさんですか?」

 確認すると何故か鋭い眼光で睨まれた。めぢからが凄い。目から何か圧力のあるものが飛んできそうだ。


「種族がメロウなのだ。先ほどの質問が名前を聞いていたのならば、自分の名前はカノンだ」

 メロウという種族?


 リュウシュの皆さんと同じような感じ?


 巨大な蜘蛛から人の上半身が生えた種族がメロウ?


「えーっと、自分は、多分、ヒトシュです。ヒトシュの……名前はソラです」

 とりあえず自己紹介をする。


「なるほど。名前はソラか。覚えたのだ」

 カノンさんが鬱陶しそうに前髪を跳ね上げながら頷いている。


「とりあえず、この地に無断で入り込んだことについては謝ります」

「それはもう良いのだ。ソラは力を示したのだ。力あるモノノフは正しいのだ」

 カノンさんが笑う。蜘蛛の頭もガチガチと歯を鳴らし笑っている。人の頭と蜘蛛の頭で別々に思考しているのだろうか。なんとも謎な種族だ。


「えーっと、その人に見える部分と蜘蛛の部分があるように見えるんですが、どちらが本体なんでしょうか?」

 その自分の言葉を聞いたカノンさんはさらに大きく笑った。

「うんうん、ヒトシュらしい質問なのだ。両方、自分なのだ。この質問をする種族には大抵同じ答えをしているのだが、自分が右手や左手を動かす時に何を考えている? それと同じなのだと言っている」


 ?


 うーん、分かるような分からないような。両方本体で手足を動かすのと同じように両方ともが動くということ?


 やっぱり分からない。


「それでソラは何故、ここにやって来たのだ?」

 カノンさんから逆に質問を受ける。


 そうだ。


 ここにやって来た理由。


「聖者の遺産を……」

 と、そこで首を横に振る。


 違う、そうじゃない。


 それはあくまでオマケだ。オマケの約束でしかない。


「強大なマナの一つがこの地に眠っていると思って、それを手に入れるために来ました」

 そうだ。


 理由なんて、これしかない。


 カノンさんが頷く。

「なるほどなのだ。思い当たることがある。あの谷の……」

 と、そこで首を横に振った。

「ソラを里に連れて行った方が早いのだ」


 ん?


 里?


「えーっと……」

「この背に乗るのだ」

 カノンさんがこちらに蜘蛛の背を向ける。


 えーっと。


「ガ、ガウルル」

 と、そこにやっと立ち直ったスコルがやって来る。そして、よく分からないという表情でこちらとカノンさんをキョロキョロと顔を動かして見ていた。


 敵だと思っていた相手と仲良く話しているからね。ちょっと混乱したのかな。


「スコル、ごめんね」

 さっき、スコルを思いっきり押し込んで踏み台にしたからね。とりあえず謝っておこう。まぁ、それをやったのはイフリーダなんだけどね。

「ガ、ガルルル」

 スコルが、ちょっと痛かったと吼えている。


『うむ。我は悪くないのじゃ』

 銀のイフリーダはスコルの眼前で挑発するように腕を組んでいる。まったく見えていないと思って……。


 悪くないと言っている時点で悪いと思っているってことだよね。


 いや、まぁ、うん。


 ……。


 そうだね、悪くないね。


 はぁ……。


 ため息が出る。

「スコル、ちょっと、ここで遊んでて貰っても良いかな?」

「ガル?」

 スコルが少しだけ首を傾げ、それでも分かったという感じで頷く。


 さすがにスコルと一緒に里へ向かうことは出来ないだろう。仕方ない。


「えーっと、背中に乗れば良いんですよね」

「そうなのだ」

 そうなんだ。


 背を向けている巨大蜘蛛のお尻の方から背中へと上る。

「うほぅ」

 その際、カノンさんは何やらよく分からない悲鳴を上げていた。

「えーっと、どうしました?」

「変なところを触って欲しくないのだ」

 蜘蛛にくっついた人の上半身だけがこちらへと振り返る。


 変なところと言われても、何処が触って良くて触ったら不味いのか分からない。

「あー、えーっと、ごめんなさい」

 気にしたら負けなのだろうか。


「それでは振り落とされないようにして欲しいのだ」

 巨大な蜘蛛が立ち上がる。


 そのまま沼地の方へとガシガシと蜘蛛足を動かして歩いて行く。ここは普通に歩くんだ。いや、あの蜘蛛糸を利用した動きは戦っている時だけなのかもしれない。


 沼地の縁と思われる場所まで歩き、蜘蛛足を深く沈める。そして、飛び上がった。


『うむ。なかなかの跳躍力なのじゃ』

 銀のイフリーダがカノンさんの頭の上で足を組んで笑っている。人の頭の上とか、本当に、何処に座っているのやら。


 巨大な蜘蛛が何もない空中に着地し、そのままガシガシと歩いて行く。見えない蜘蛛糸を伝って歩いているのかもしれない。


 にしても、だ。


 改めてカノンさんの人の姿をした上半身を見る。


 本当に人にしか見えない――いや、違う。そういう姿をした人と同じ種族なのだろう。


 そして身につけている鎧だ。


 金属と革を組み合わせたものだと思うのだが、その造形が普通のものと違っている。丸みを帯びた銅の部分と階段状になった肩当て。そしてどのような意味があるのか細工が施され造形にこだわった篭手。

 あの実用性があるとは思えなかった反りのある細身の剣もそうだが、カノンさんの種族は見た目にこだわる性質を持っているのかもしれない。


 里はどうなっているのだろうか。

本来はメロウと言えば人魚です。これは、おかしいですよ!

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