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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
希望の谷
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178 森の先へ

 スコルの背に跨がり西の森に踏み入る。


 相変わらず大きな木が生え、地面は腐った落ち葉でぐちゃぐちゃになっている。せっかく綺麗にしたスコルの足の先がどんどん汚れていく。小川に着いたら、一度、スコルの足を洗ってあげても良いかもしれない。


 スコルが駆け、西の森の小川に辿り着く。


 この小川では沢山の石を拾ったが、それでもまだまだこの辺りには使えそうな石が転がっている。


 首を横に振る。


 今日の予定は石拾いじゃない。


「ガルゥ」

 スコルが小川に片足をゆっくりと浸け、すぐに持ち上げている。相変わらず水はあまり得意ではないようだ。


 ……。


 違う、違う。


 今日の目的地はここじゃない。


 戦士の二人には、赤の方は文句ばかりだが、それでも赤も青も二人ともが戦えるようになってきたと聞いている。


 思っていたよりも優秀なようだ。


 あまり時間は無い。


 急いだ方が良い。


「スコル、今日は、この奥に向かうよ」

「ガルル」

 何故か、スコルがほっとしたような顔でこちらを見ている。


 西の森の奥に向かうのは今回が初めてだ。


 何故か、この西の森の奥には向かおうという気にならなかった。この奥へ向かうことを、心の奥底で無意識に拒否していたのかもしれない。


 首を横に振る。


 単純に優先することが多かっただけだ。


 余裕がなかっただけ、ただ、それだけだ。


 そんな無意識下の何かがあったわけじゃ無い。


「ガルルル」

 スコルが任せろという感じで吼え、駆ける。


 スコルの走る速度に合わせるように腐った落ち葉と土が舞い、飛ぶ。


 大きな巨木が太陽を覆い隠す湿り気を帯びた森の中をスコルが駆ける。


 駆ける。


 駆ける。


 周囲には、木々の陰には、大きく伸びた木の枝の上には――至る所に、こちらの様子をうかがう気配があった。


 姿は見えないが、この地に住む魔獣だろう。


 しかし、それらの魔獣は、森の中を駆けるスコルの速度に追いつくことを諦めているのか、こちらに襲いかかってくることはなかった。


 駆ける。


 薄暗い森の闇の中をスコルが駆ける。


 そして、その足が急に止まった。


 そう、急に止まった。


 スコルの急制動による力が、その背にある自分の体を浮かせる。スコルに取り付けた鐙から足が抜ける。


 このままだとスコルの背から投げ出される!


『ソラよ!』

 銀のイフリーダの声が頭の中に響く。


 体が動く。


 スコルから、その背にいる自分へと流れる力を、足から手に、手からスコルの体へと戻す。そのまま浮かび上がった体をスコルの背に戻す。


『イフリーダ、助かったよ』

『ソラよ、油断しすぎなのじゃ』


 確かに油断していた。


 周囲の気配のことだけを考えていた。


「ガルルル」

 スコルが大丈夫? という感じで首だけをこちらに向ける。

「大丈夫だよ」

 スコルの首筋を撫でる。


 そして、改めて周囲を見回す。


 薄暗い森だ。


 大きな巨木がその手を伸ばし太陽を遮っている。そして、足元には腐った落ち葉が大量に積み重なり、地面を覆い隠している。


 ……。


 ん?


 地面?


 スコルがゆっくりと前足を伸ばし、すぐに、それを引っ込める。

「ガルルル」

 スコルが無理いぃって感じでこちらに振り返る。


 もしかして……。


 スコルの背から飛び降りる。


 腐った落ち葉に足が深く沈む。ぐちゃぐちゃと気持ち悪い。


 そして、その状態で鞍から緑鋼の槍を引き抜く。


 スコルが進むのをためらっている場所へと緑鋼の槍を突き刺す。腐った落ち葉の中に緑鋼の槍が沈む。何処までも沈んでいく。


 これは……。


 慌てて緑鋼の槍を引き抜く。


『もしかして、ううん、もしかしなくても沼になってる』


 ここから先は沼になっているようだ。


 これは進めない。


『ふむ』

 銀のイフリーダが腐った落ち葉の上を歩く。まるで浮いているかのような歩き方だ。

『これは腐っているのじゃ』

『そうだね。葉っぱが腐って沼になってるみたいだね』

 と、そこで銀のイフリーダが首を横に振る。

『違うのじゃ。この沼は毒なのじゃ』

『毒?』

 銀のイフリーダがニヤリと笑い頷く。


『ここの毒が落ち葉を腐らせ、それが広がっているのじゃ』

 落ち葉が腐って沼になったんじゃなくて、その逆?


 毒の沼地……。


 毒の沼地が広がっている?


『どちらにしても、これ以上先には進めないね。回り込むしかないか』

 改めてスコルの背に跨がり、その首筋を撫でる。


「スコル、回り込もう」

 しかし、スコルが首を横に振る。

「ガルルル」

 そして、何かを警戒するように小さな声で唸る。


「スコル、どうしたの?」

 スコルは沼地の先を見て唸っている。


 と、そこで気付く。


 スコルが動かない理由。


 すぐに周囲に何か反応がないか見回し、マナの流れを読む。


 ……。


 あった。


 反応が――沼地の先に、ある。


 緑鋼の槍を構える。


 スコルも首を動かし、自分の体に結びつけた鞘から石の両手剣を咥え、引き抜く。

「ガルルル」

 スコルが石の両手剣を咥えたまま唸る。


 そして、沼地の方から、何かが飛んできた。


 ――神技ディフレクト!


 手に持った緑鋼の槍で飛んできた何かを剃らし、防ぐ。飛んできた何かが腐った地面に突き刺さる。


 それを見る。


 それは――槍だった。


 腐った落ち葉の中から木製の柄が見えている。


 槍だ。


 この毒の沼地に居る何かが槍を投げてきた。


 つまり、槍を作る技術、それを操る知恵を持った何かが毒の沼地の中に居る。


 ……。


 こちらは毒の沼地の中に入ることは出来ない。向こうは何らかの手段でその中に潜んでいる。


 これは……かなり危険な状況かもしれない。

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