175 猫耳たちの理由
「全く騒がしいったらない」
皆が皆、どうしようか迷っている中へ、何処か眠そうな様子の亡霊がやって来た。鍛冶が楽しすぎたのか鍛冶部屋に籠もりっきりになっていたようだが、今回の騒動のうるささは我慢しきれなかったようだ。
この亡霊、最近、その姿を見かけなかったが、引き籠もってばかりではなくちゃんと外に出た方が良いと思う。そういえば氷の城でも引き籠もっていた気がする。もしかすると引き籠もることに生き甲斐を感じている側なのかもしれない。
「あれ? なんかちっこいの増えてない? 王様の仲間?」
亡霊は、小さな金槌で自分の肩をとんとんと叩きながら、そんなことを言っている。そういえば真っ赤な猫耳がこの拠点にやって来た時も亡霊は引き籠もって出会っていなかったはずだ。
今回が初顔合わせだったのか。
「仲間では無いと思います。それよりも、もう引き籠もり生活は終わりにしたんですか?」
「あ、ああ!? な、だ、誰が引き籠もりだ」
亡霊は怒ったように手を振り回している。金槌を持った状態で手を振り回すのは危ない。とても危険だ。
「ね、姉さま、あの方は……?」
「まさか古代種? ご先祖様?」
真っ赤な猫耳と青髪の少女が驚いた顔でひそひそと話し合っている。
場は混沌としている。
亡霊が現れたことでさらに混沌具合は加速している。
『やれやれ、時間の無駄なのじゃ』
銀のイフリーダは他人事のようにこちらを見てニヤニヤと笑っている。
「ガルル」
スコルはどうしようという感じでキョロキョロと首を動かしている。
はぁ……。
ため息が出てしまう。
「はい止め止め。とりあえず、落ち着いてください」
皆に呼びかける。
「戦士の王の言う通りなのです。皆、落ち着くのです」
「ガルル」
スコルが頷き、竜種の皆さんもゆっくりと頷く。
しかし、赤と青の二人はよく分からないという感じで首を傾げている。そういえば、こちらの言葉と、この二人が使っている言葉は違うんだった。
こういう時は不便でしょうがない。
「とりあえず静かに。質問があるので、答えられることだけで良いですから、一つ一つ答えて貰っても良いですか?」
「そんな一方的に! まずは私がラーラに……」
真っ赤な猫耳たちにも分かる言葉で話しかけると、すぐにその猫耳が話に割り込んできた。
割り込んできた!
本当に、この真っ赤な猫耳は!
「姉さま、落ち着いて? まずは話を聞きましょう」
「もう、ラーラ。そういう甘いことを言っていると、すぐに足元を……」
「姉さま、協力することも大切」
二人はこそこそと話し合っている。
そして話し合いが終わったのか、真っ赤な猫耳が胸を張り、指をこちらへと突きつける。
「特別許可だからね」
はいはい、ありがとう。ありがとう。
この真っ赤な猫耳に常識を教えるのは時間がかかりそうだ。それとも人の住む地ではこれが普通なのだろうか。なんだか人の住む場所に行くのが怖くなってくる。
「自分が一つ一つ質問をして事情を確認するので、皆さんは待っていてください」
竜種の皆さんとスコルに改めてお願いする。こちらは素直に頷いてくれる。本当に良い人たちばかりだ。
「それでは」
青髪の少女へと振り返る。
「何でも聞いて……」
青髪の少女がこくんと頷く。
何でも、か。
「まずは名前を聞いても良いですか?」
「ラーラです。ラーラ・ノイン・アーケイディアです」
青髪の少女がぽやんとした表情のまま喋る。
「えーっと、なんて呼んだら良いのかな?」
「ラーラとお呼びください」
青髪の少女は何処かぽやぽやとしている。
『ふむ。神の眷属を名乗るとは不遜なのじゃ』
銀のイフリーダは唇の端を持ち上げ笑っている。何処か邪悪な感じだ。神の眷属とはどういうことだろうか?
「それで、この猫耳との関係を教えて貰っても良いかな?」
「だ、誰が猫耳!」
真っ赤な猫耳がすぐに会話へと割り込んでくる。どうにも、この猫耳は我慢することが出来ないようだ。
「姉さまは姉さまで、私は妹」
青髪の少女が真っ赤な猫耳の方を見て、その後にこちらを見る。
「その割には随分と似てないように見えるけど?」
ぽやんとした青髪少女が右、左と首を傾げ、ゆっくりと手を叩く。
「姉さまとは母様が違うから?」
真っ赤な猫耳が大きなため息を吐く。
「そう。ラーラの母親は人、私の母親は獣人」
獣人?
「獣人とは、獣の耳や尻尾がくっついている人ですか?」
「概ねその通り。それで私は獣人と人のハーフ」
真っ赤な猫耳は肩を竦めている。
「そうなんですね」
人の住んでいる場所には獣耳と尻尾を持った獣人という種族がいる、ということらしい。
「ちなみに、そこにいる亡霊さんと獣人はそっくりみたいですが、何か関係があるのでしょうか?」
何か古代種とか、そのような単語が聞こえていたからね。
「獣人の伝承にあるの。かつては獣人の方が人よりも上位の種族だった。その時は、獣人はもっと大きな体をしていたらしいってね。ただ、その古代種の国は滅びて、その時に逃げ出したのが今の獣人の祖先だって話。獣人はね、逃げ出して人に助けを求めた時に力を失って立場が逆転したって信じているの」
いまいち、よく分からない説明だが、この亡霊が、その古代種じゃないかと言いたいのは分かった。
「亡霊さん、そこの真っ赤な猫耳は、あなたの子孫らしいですよ」
「あ、ああ!? 何言ってるの!? 私に、こ、こ、こ、子どもなんて、居ないぞ!」
亡霊は何を勘違いしたのか真っ赤になっている。
「亡霊さんと同じ種族の子孫ってことらしいですよ」
なので少しだけ説明を足しておいた。
「それで、ここに来た理由は?」
「姉さまを追いかけて?」
青髪の少女は首を傾げている。そこ、疑問形なんだ。
「それで、その姉さまは何でここに?」
「何度も言っているでしょ。聖者の遺産探し」
「それを探す理由は?」
真っ赤な猫耳は唇を尖らせて横を向く。答える気は無いようだ。
「姉さまは私のために分かり易い功績を……」
しかし、その理由を青髪の少女が教えてくれる。
「な、何言ってるの!? ラーラ、私は、ただ、家の名誉のために動いているだけだから!」
真っ赤な猫耳は横を向いたままだ。
なんとなく話が見えてきた気がする。
ここまで無駄に長かった気がするよ。




