174 青髪の少女
さすがにこの少女を外に転がしたままには出来ない、ということで竜種の皆さんを呼んで建物の中へと運ぶことにした。
「ガルル」
何故かスコルも一緒に着いてくる。もしかするとこの青髪の少女をここまで運んできたことに責任を感じているのかもしれない。
やっと完成した拠点を覆っている木製の壁を抜け、中に入る。中に入ってすぐは畑になっており、今でも生産側の皆さんが畑仕事を行っていた。
「戦士の王がまた何かを拾ってきたのです」
「いつものことなのです」
畑仕事を行っている皆さんが勝手なことを言っている。また、と言われても亡霊、猫耳に続いての、まだ三人目でしかないのに。
畑の先には城と見間違うほどの大きな建物が存在している。まだ外観しか完成していないが何百もの人々が一緒に生活が出来そうな、そんな大げさすぎるくらいに大きな建物だ。
持って帰った一本の木だけで、一つの大きな建物を作ってしまうのだから竜種の職人さんたちの技術力と頑張りには驚かされます。
建物の中に入る。
その中は……空っぽだ。
いや空っぽと言うと語弊がある。
自分が作ったシェルターはそのまま残っているし、部屋を分けるいくつかの壁と眠るためのベッドくらいは置いてある。奥には鍛冶作業場も小さな祠もある。
でも、中は、それだけの完全な見かけ倒しだ。
張りぼての城である。
竜種の皆さんが丁寧に運んでいた青髪の少女をベッドの上に横たえる。新しく作ったベッドは木の板の上に狼食い草の布を置いただけの簡単なものだ。寝ていると体が痛くなってくる人には危険な代物だ。
それでも青髪の少女を地面に転がしているよりはマシなはずだ。
皆でしばらく見守っていると青髪の少女が目を覚ました。
「んー、よく眠りました」
青髪の少女がゆっくりと目を見開き大きく伸びをする。
「ガルル」
その様子を見守っていたスコルが良かったという感じで小さく頷く。スコルは青髪の少女をここまで連れてきたことで責任を感じているようだ。
それを見た青髪の少女は大きく目を見開き、そのまま動きが止まる。そして、コテンとベッドに倒れた。
……倒れちゃった。
「ちょっと、ちょっと、ラーラ、ラーラ! そこのあなた、ちょっとどいて!」
真っ赤な猫耳がスコルを押しのけようとして、どうにもならず、何処か苛々したような様子で、もうもう叫びながら大回りして青髪少女の前に立つ。
「あなたがいるとまた妹が気絶するから、ちょっと離れてて」
「ガルルル」
スコルがしょんぼりとした様子で青髪少女の前から離れていく。
「大丈夫?」
真っ赤な猫耳が青髪の少女を強く揺する。
「あ、ううん」
するとすぐに青髪少女が目を覚ました。
「ラーラ、目が覚めた?」
「はい、姉さまの姿が見えます」
目覚めた青髪の少女は何処かのほほんとした様子で真っ赤な猫耳を見ている。
真っ赤な猫耳が、この青髪少女の姉だというのは本当だったようだ。
「そうね。それで、何故、ラーラがここにいるの?」
真っ赤な猫耳は胸を張って無駄に偉そうだ。こうしていると威厳は足りていないが何処か銀のイフリーダとそっくりに見える。猫耳だからだろうか。
「姉さまを……追いかけてきた?」
青髪の少女がぽやんとした感じで首を傾げている。
「もう、この子は! 何で、そんなことをしたの!」
ちっちゃな猫耳がぷりぷりと怒っている。
「姉さま、禁域に一人で挑むなんて無謀」
青髪の少女は焦点の定まらない瞳でそんなことを言っている。まだしっかりと目が覚めていないのかもしれない。
「そんなこと分かってる。だから、私一人で来たんじゃない!」
真っ赤な猫耳はその猫耳をぴーんと立てて怒っている。
「ガルルル」
そんな二人のやりとりをスコルが遠目に心配そうな様子で眺めていた。
「ね、姉さま、魔獣が、恐ろしい魔獣がこちらを見てま……す?」
青髪の少女は何処かとぼけた様子で首を傾げている。それを聞いたスコルがますます困ったような顔をしていた。何を言っているか言葉は分からないはずなのに、雰囲気を感じ取ったのだろうか。
「あれは気にしたら駄目」
真っ赤な猫耳がため息を吐いている。それを聞いたスコルはますます困ったような顔になっていた。
「姉さま、亜人の姿も見えます。ここは何処でしょう?」
姉が居ることで落ち着いたのか、何処かぽやんとした様子で周囲を見回している。
「ここは彼らの村ね。そして、そこにある砦」
真っ赤な猫耳が肩を竦めている。
訂正したい。
ここは竜種の皆さんの村でもないし、砦でもないのだが、酷い誤解だ。
「禁域に住む亜人の皆さんです?」
「そうね。意外にしっかりと文明を持っているから安心して」
言葉が分からないと思って、この真っ赤な猫耳は好き放題言っている。
はぁ、何だろう、この真っ赤な猫耳は。
「ここは別に竜種の皆さんの村じゃないですよ」
とりあえず説明をしようと青髪の少女の前に進むと、そのぽやーんとした顔が固まった。
「ラーラ、彼はこの地の守護者のようなもの」
「そ、そうなんですね、姉さま」
青髪の少女はぽやんとした表情のまま、こくこくと頷いていた。
とりあえず適当なことを言っている真っ赤な猫耳の猫耳を摘まむ。
「な、にゃあぁ!」
真っ赤な猫耳が背筋をぴーんと伸ばしてぶるぶると震える。
「思い込みで適当なことを教えないでください」
真っ赤な猫耳が慌ててこちらの手から逃れ、猫耳を押さえている。
「何を、何を……!」
何やら真っ赤な顔でふーふーと唸りながらこちらを見ている。
「あー、姉さまと守護者さまは仲良しなんですねー」
青髪の少女はぽやんとした顔のまま、自分と真っ赤な猫耳を見ていた。随分とのんびりした子のようだ。
「ガルル」
スコルは心配そうな顔でこちらを見守っている。
「戦士の王、何を言っているか分からないので教えて欲しいのです」
竜種の皆さんは言葉が分からなくて、こちらのやりとりの意味を考えて困っているようだ。
『まったく何をやっているのじゃ』
銀のイフリーダはこちらを見てニヤニヤと笑っている。
『まったくその通りだよ』
まったく、無駄なことばかりで何も分からないままだ。
ため息しか出ない。