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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
希望の谷
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172 ヒトシュの少女

 スコルが駆ける。


 最初は暴れていた猫耳ローブも疲れ果てたのかぐったりとして動かなくなっている。もしかすると気絶したのかもしれない。


 スコルが滅びた石の都を駆け抜け東の森に入る。


 森の中は非常に荒れており、至るとこに木の根が伸びたでこぼこ道だ。スコルの背中に乗っている自分ですら激しく上下に揺られて酔いそうだ。これが口元だったら……。


 猫耳ローブが気絶していたのは不幸中の幸いだったかもしれない。


 東の森を抜ける。


 その頃には、太陽は大きく傾いていた。

『帰ってきたね。でも、もう夕方か……』


 空が赤く染まる中、大きな建造物が見えてくる。拠点を覆うような建物。まだ外観しか完成していないが、強固な木材によって作られ、防壁のような壁に守られたその建物は、見るものを圧倒する。


『まるで砦かお城だよね』


 拠点に戻ったところでスコルが咥えていた猫耳ローブを吐き出す。


 猫耳ローブが地面にごろんと転がる。しかし、目を覚ます様子はない。完全に気絶しているようだ。


 もうすぐ日も落ち、冷え込んでくるだろう中、この猫耳ローブをここに放置することのはかわいそうだ。誰か人を呼ぶべきだろう。


「ガルルルゥッ!」

 スコルが大きく吼える。人を呼んでくれたのかもしれない。


 しばらく待っていると竜種の皆さんがやって来た。


「どうしたのです」

 炎の手さん、語る黒さん、戦士の二人、青く煌めく閃光さんを代表とした生産組の皆さん――亡霊を除くほぼ全員がこの場に集まっている。


 亡霊の姿が見えない。亡霊のことだ、鍛冶に没頭しているか、ぐうたら寝ているのだろう。


「スコル殿の大きな声が聞こえたのです」

 慌てた様子でやって来た皆が自分とスコルを見ている。説明を求めているのだろう。


「いつでも戦えるのです」

「準備万全なのです」

 戦士の二人は手に槍を持っている。もしかしたら魔獣が攻めてきたと思ったのかもしれない。


「皆さん、突然、大きな声を出してすいません。森を抜けた場所で人と出会いました。その人を連れてきたのですが、気絶しているので介抱をお願いしたいのです」

 これだけの騒ぎになっているのに猫耳ローブが目を覚ます気配はない。気絶したままだ。案外図太いのかもしれない。


「ヒトシュなのです」

 炎の手さんが呟く。


 え?


 人の耳ではなく、猫の耳を持っているのに、多分だが、ローブの下には尻尾も生えているはずだ――なのにヒトシュ……?


「すいません。炎の手さん、この猫耳ローブはヒトシュなんですか?」

 自分が問いかけると炎の手さんは困ったように首を傾げていた。

「ヒトシュにしか見えないのです。違っていたのなら謝るのです」

「いえ、すいません。自分もそこは分からないです。でも、耳とか違いますよね?」

 そう問いかけると、炎の手さんはますます困ったような顔で首を傾げていた。


「同じにしか見えないのです」


 ……。


 同じ?


「ただ、言われてみれば、外見は戦士の王よりもサザに似ているのです」


 ……。


 外見?


 いや、それよりも気になるのはサザって何?

「えーっと、サザとは何でしょう?」

 そこで炎の手さんは疑問符でも浮かべているような顔でこちらを見た。そして、小さく手を叩く。

「戦士の王が連れてきた鍛冶士見習いの名前なのです」


 え?


 と、そこで気付く。


 サザって、もしかして亡霊の名前!?


 自分には教えてくれなかったのに、炎の手さんにはあっさりと教えるんだ。いや、まぁ、炎の手さんは亡霊の師匠みたいなものだから、名前を教えてもおかしくない――かなぁ。


 なんだか納得できない。


 いや、それよりも、だ。


 炎の手さんの『外見は亡霊と似ている』という言葉だ。


 自分は外見が似ているから同じような種族だと思った。


 その前提が間違っている?


 もしかして種族を区別しているのは外見じゃない?


 もっと、こう魂が違うというか……。


 !


 そうか、マナ、か。


 最近になって、自分もマナの流れが見えるようになった。もしかすると、その流れる形によって種族が決まっているのかもしれない。


 ヒトシュのマナを持っているからヒトシュ。

 リュウシュのマナを持っているからリュウシュ。


 そう考えると凄く納得できた。


「戦士の王、このヒトシュはどういう立場なのです」

 語る黒さんが気絶している猫耳ローブを助け起こしながら話しかけてくる。


 どういう立場?


 聖者がどうのこうのと言ってたが、何かやることがあって、この地に来た? こちらが協力する代わりに人の言葉を教えてくれる存在?


 うーん、少し違う気がする。


「東の地で拾った世間知らずです。スコルに運んで貰いました」

 それを聞いた語る黒さんが大きなため息を吐いた。

「あれは辛いのです……分かったのです。一応、最低限の客人という立場にしておくのです」


 あ、はい。それでお願いします。


 とまぁ、そんな感じで猫耳ローブが人の言葉の先生として拠点の仲間に加わった。


 そして、その数日後。


 遊びに行っていたスコルが『新しい人』を咥えて運んできた。


「ガルルゥ」

 スコルがこれを見つけた、という感じで気絶している少女を地面に転がす。


 新しい人は――獣耳を持たない普通の少女だった。

諸事情により6日、7日、8日の更新はお休みします。

何事もなければ次の更新は9日の木曜になります。


追記

更新は10日金曜になります。お待たせしてすいません。

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