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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
希望の谷
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168 小さいの

 石櫃の間で黙祷を捧げる。


 死者を思うため?


 違う、ただの自己満足だ。


 それでも黙祷を捧げる。


 辺りに広がっていた淡い太陽の光が消えた後も黙祷を続ける。


 そして、新しい陽が石櫃の間の中に広がっていく。


 夜が明けた。


 一日、祈っていた?


 そんなにも時間が経っていたんだ……。


『……もう、いいかな』


 黙祷を止め、立ち上がる。


『帰ろう』

『ふむ。もう帰るのじゃな』

 いつの間にか石櫃の上に銀のイフリーダの姿があった。石櫃の縁に腰掛け、足をぶらつかせている。


『うん。もう、ここに用はないからね』

『ふむ』

 銀のイフリーダが石櫃を蹴り、飛び降りる。その行動を罰当たりだとも、不快だとも思わない。

 その石櫃は、ただ、死体を納めていた箱でしかないからだ。


 だけど……。


 そこで首を横に振る。

『何か持って帰ろうかと思ったけど、思っていたけど、ここは、このまま静かにしておくよ。うん。この城は、ここに生きていた人たちの墓標だから』


 だけど、だけど、だ。


 少しくらいは感傷に浸ろう。


 それを大事にしよう。


 自分だけは、そう思っていよう。


 ここでは何も手に入らなかった。でも、これは大事なことだった。


『スコルを待たせているかもしれないからね。それに少し……ううん、かなりお腹が空いたよ。急いで城から出よう』

『うむ』

 銀のイフリーダが小さく笑い頷く。

『む?』

 が、突如、上を見る。つられて自分も上を見る。


 しかし、そこには何も無い。あるのは石の天井だ。


『イフリーダ、どうしたの?』

 上を見ていた銀のイフリーダがこちらへと、その顔を向け、ニヤリと笑う。

『ソラよ、見るのじゃ』


 見る?


 何を?


 違う。


 そうだ。


 見る。


 気配を、マナの流れを見る。


 そこで気付く。


『何かがこの城に侵入した? まさか魔獣?』

『ふむ。ソラよ、用心するのじゃ』

 銀のイフリーダの言葉に小さく、静かに頷く。


 ここは行き止まりだ。


 いくら、ここが元々は隠し部屋だったとしても、今は解放されている。このままここに居るのは不味い。


 気配を殺し、静かに、そして、急いで石櫃の間を出るべきだ。


 いや、違うよね。ここが行き止まりだったから不味いんじゃない。ここを荒らされたくないから離れるんだ。


 気配は城の入り口から動く様子がない。何処か奥へ進むのをためらっているような感じだ。


 知性がある?


 魔獣じゃないのか?


 いや、魔獣でもスコルのように言葉を理解する賢い存在だって居るんだ。似たように知恵を持つ存在が居てもおかしくない。


 慎重に行動しよう。


 マナの流れを見ながら、薄暗い城内を隠れて進む。


 城門の近くまで来たところで崩れた石壁に隠れ、それを見る。


 そこでは何か自分と同じくらいの大きさの何かがちょろちょろと動いていた。


 奥に進むか、止めようか、そんな風に迷っているような感じだ。


 ……。


 人?


 まさか人?


 小さくてフードをかぶった……ローブを着込んでいる?


 子ども?


 それとも、そういう種族?


 でも、なんで、突然? 今までは人が居そうな気配なんて無かったのに、どういうこと?


「……キンキ……マホウ……ニゲ」

 フード付きローブの小さいのが何か呟いている。


 良く聞こえない。いや、聞こえないというよりも理解出来ない感じだろうか。


『人だよね?』

『ふむ。どうやら、まだこちらに気付いていないようなのじゃ。もう少し近寄るのじゃ』

 銀のイフリーダの言葉に頷きを返し、ゆっくりと近づく。


 向こうがこちらに気付いている様子はない。


 フード付きローブの小さいのは、何処か慌てた様子で何度も城の外の方へと振り返っている。


 そして、胸を撫で、何かを決断するかのように大きく息を吐き出していた。

「テンサイ……デキル」

 近づいたことで声は良く聞こえるようになったが、何を言っているのかが分からない。いや、単語、単語は分かる。でも、それだけしか分からない感じだ。


 それは、ローブの中から小さな木製の杖を取り出す。それを何か指揮でもしているかのように振り回し始めた。

「再生と破壊の神フレイディア、世界を壊し新しき力となり周囲を見通す火の加護をクダサイ――ファイアトーチ!」

 ローブの突然の意味が分かる流暢な言葉とともに小型の杖の先端に火が灯った。


 火のマナが流れているのが見える。


 ん?


『あれ、イフリーダが使った神法と同じ……かな? でも、イフリーダの時は燃えていたよね』

 火が灯った小型の杖は燃えていく様子がない。杖が特殊なのだろうか?

『ふむ。あれの神法は弱く、力が曲がっているのじゃ。燃やすのではなく、周囲を照らす程度の力になっているのじゃ』

『そうなんだ』

 本来は銀のイフリーダが使っていたような燃やす神法だった?


 それが曲がって違う力に変わった?


 銀のイフリーダは何処か馬鹿にした様子でローブ姿のちっこいのを見ている。


 でも、使い勝手で言うなら、松明代わりになる方が便利で良さそうだ。


 うん、便利だよね。


 ローブは杖に灯った火の明かりを頼りにゆっくりと城内を歩いて行く。その途中、途中で、よく分からない言葉のようなものを呟きながら、何度も振り返っていた。背後に何か気になるものでもあるのだろうか?


『これ、声をかけた方が良いのかな。でも、言葉が通じる自信が無いし……』

 単語は聞き取れるが、意味が分からないのだ。もしかすると、似たような発音だから、こちらがそれを意味ある単語として認識しているだけの可能性もある。


 扱う言語が違っていた場合、不用意な接触は危険だ。争いになる可能性もある。


 では、もう少し様子を見た方が良いのだろうか?


 それもどうだろう。


 あまり奥には進んで欲しくない。


 出来れば、ここは、この場所は、そっとしておいて欲しい。


 ……。


 どうしようかな?

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