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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
禁忌の森
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017 対峙

 粘土の乾燥を待ち、火を入れる。


 拾ってきた枯れ枝を窯の入り口いっぱいになるまで、その中に入れる。そして落ち葉を使って火を点ける。落ち葉の火は枯れ枝へと移り、窯の中で激しい熱へと姿を変えていく。

『ふむ。ソラよ、今日はどうするのじゃ。その火を見守るのじゃな』

「うーん、本当はそうしたいんだけどね。東の森の奥から木を取りに行くよ」

『うむ。しかし、あちらには、まだソラが倒すには難しい魔獣がいるのじゃ。用心するのじゃ』

「うん、気をつけるよ」


 火を中にため込んでいる窯を横目に、籠を背負う。手には木の槍と石斧を持つ。

『ソラよ、剣は持って行かないのじゃな』

「うん。あの大蛇に襲われた時のために木の槍を持っていくよ。あの大きさの生き物に、リーチがない武器を使うのは危険だと思うんだ。それに、今回は出会っても逃げることを優先したいからね。牽制が出来て、失っても痛くない武器が良いと思ったんだ」

『うむ。我も良い判断だと思うのじゃ』


 東の森へと踏み入る。


 薄暗く、何かが蠢く森。上を見れば、木々がその手を大きく伸ばし太陽の光を遮っている。何度も、何度も、踏み入り、落ち葉や枯れ枝などを採取している森。

 そんな森を奥へ奥へと進んでいくと、その雰囲気が変わった。


 陽光を隠すように手を伸ばした木々に隠れるように、自身の背の高さより少し高いくらいの若木が生えている。

「ここからは、あの大蛇のテリトリーだね」

『うむ。ソラよ、我も周囲の警戒をするのじゃ。しかし、この省エネモードでは、普段よりも警戒能力が劣るのじゃ。我の力だけではなく、ソラも油断しないように警戒するのじゃ』

 イフリーダの言葉に大きく頷く。


 まず最初に、以前、切り倒していた若木が残っていないかを探す。しかし、あの大蛇にやられたのか、粉々に砕け散った破片が残っているだけだった。

「そう上手くはいかないか」


 残っていなかったものは仕方ないと諦め、手頃な若木を探す。

「新しく切り倒そう」

 見つけた若木に石斧をスイングし、切り倒していく。

「折れた剣の方が切れ味は良いけど、毎日、まめに研いでいるしね、石斧の方が力が入りやすいのか、木を切るなら、こっちの方が楽だね」

 切れ目が入り、若木が傾いたところで、足をあて、体重をかけて折る。折った若木を背中の籠の中に入れる。

 背中の籠に入れた若木にはみ出るほどの長さがあるからか、籠の中でぐるんぐるんと暴れ回り、それが邪魔をして、とても歩きづらい。

「うーん、数が増えて、入れた木の動きが少なくなれば、もうちょっとマシになるかな」


 背中の籠の中で動いている木に注意して、バランスを取りながら、新しい若木を折っていく。

「あの大蛇の姿が見えないね。お休み中か、何処か他の場所に移ったのかな」

『うむむむ。今のところは居ないようじゃ』


 若木を求め、さらに森の奥へと踏み入る。


 そこで変わった物を見つける。


 木々に絡みつくツタ、そして、自分よりも背が低い植物。その植物には紅い丸々とした小さな実が実っていた。

「ねぇ、イフリーダ。あの実は食べられそうじゃないかな?」


 小さな赤い実を採取しようと、近寄る。

『待つのじゃ、ソラ!』

 そこにイフリーダの待ったがかかる。

「まさか!?」

 すぐに足を止め、周囲を、周辺の様子を確認する。しかし、何も見つからない。

「イフリーダ、あの大蛇?」

 こちらの足元へとイフリーダが近寄り、小さく首を傾げながらも頷く。

『何ものかの気配があるのじゃ』

 木の槍を構え、周辺の様子を確認する。しかし、何も見つからない。

「何処だ? 何処に?」


 そして、それは動いた。


 自分を中心とした周辺の地面が一斉に動いた。円を描いてくるくると地面が盛り上がって動いている。

「もしかして、囲まれた! 待ち構えていた?」


 そして、地面を突き破って、それが姿を現した。


 巨大な蛇。いつかの大蛇。

「こいつッ!」


 巨大な体が逃げ道を塞ぐように円を描き壁になっている。

「閉じ込められた!」

 そして、こちらを見下ろすように上体を起こし、その口から舌をチロチロと出し入れしていた。

「くっ」

 手に持った木の槍を強く握る。


 絶望的な状況だ。しかし、諦めない。イフリーダが教えてくれた神技スラストを使い、それで戦う。イフリーダは、この技なら通じると言っていたはずだ。逃げ道はない。


 と、そこで自分の肩にぽんと手が置かれた。見れば、猫姿のイフリーダが肩に乗り、口の端を上げてニヤリと笑っていた。

『ソラの気持ちは分かるのじゃ。しかし、ここは任せるのじゃ』

「分かった。まだ力不足ってことだよね。うん、イフリーダの力を借りるよ」

『うむ。して、ソラよ。この木の槍、使い捨てても……』

「任せるよ」

『了解なのじゃ』


 主導権がイフリーダに移り、自分の体が勝手に動く。


 壁になっている大蛇の体へと駆ける。そして木の槍を地面へと突き刺し、その反動で空へと舞い上がる。棒高跳びの要領だ。しかし、イフリーダは木の槍を使い捨てない。空へと飛び上がりながらも、木の槍を手放さず、そのまま持ち上げ、引き抜き、大蛇の体を飛び越える。


「イフリーダ!」

 叫ぶ。


 飛び上がった、こちらを狙うように巨大な蛇の上体が迫っていた。空中では身動きが取れない。このままでは回避することが出来ず捕食されてしまう!


『うむ。分かっているのじゃ』

 イフリーダが、こちらの体を無理矢理動かし、捻り、体勢を変える。手には、棒高跳びの棒代わりに使った木の槍。


『神技ジャベリン』

 木の槍を投げ放つ。


 木の槍は、とても木で作られているとは思えない、そんな力を持った勢いで手を離れ、空気を切り裂き、渦巻くような衝撃を纏い、飛ぶ。

 木の槍が飛びかかってきていた大蛇の右目に突き刺さる。その勢いに、その衝撃に、その痛みに、大蛇の体が大きくのけぞり、攻撃がそれる。


『ソラよ、このまま逃げるのじゃ』

 壁になっていた大蛇の体の向こう側に着地する。そして、そのまま逃げるために駆け出す。背中には、今日、採取した11本ほどの未加工の木の棒。イフリーダはこちらの体を器用に操り、それらが落ちないようにバランスを取りながら――駆ける。


 背中に強烈な殺意を感じながら、駆ける。逃げる。


 拠点に戻った辺りで背中に感じていた殺意は消えていった。


 逃げ切った。


 そのまま座り込み、大きく息を吐く。

「何とか逃げ切れたね」

『うむ。しかし、これでヤツには明確な敵として認識されたと思うのじゃ』

 大きく深呼吸をして、呼吸を整える。

「だろうね。次に、奥に向かう時は、あの大蛇と戦う時になりそうだね」

『ソラよ、分かっていると思うのじゃが……』

「うん。さっきの分で小動物から手に入れたマナ結晶の力を使ったってことだよね。貴重な力、無駄にしないつもりだよ」


 体に力を入れて、ゆっくりと立ち上がる。


 そして、そこで気付いた。


 窯が燃えている。


「え!」


 そう、作った窯自体が燃えていた。


 慌てて、火を消すために、兜の中に水を貯め、かける。何度もかける。火の勢いが強く、水をかけても消えない。それでも諦めずに水をかけ続け、空が紅く染まる頃になって、やっと火が消えた。

「何で?」

 火が消えた窯を見る。


 空気の取り入れと排気の為に、と開けていた天井の穴からヒビが入ったのか、そこから大きくヒビ割れ、崩れていた。

 さらに水をかけたのが良くなかったのか、外壁もヒビだらけになっている。ちょっと力を入れれば崩れてしまいそうだ。

『ソラよ、どうするのじゃ』

「うん、とりあえず粘土で補強する。はぁ、水をかけずに、自然鎮火を待つべきだったかなぁ」

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