165 大発見
「何があったんですか?」
走る手さんは慌てて駆けてきたのか、肩で息をしている。
武器も手に入って、やっと石の廃墟の探索に向かえると思っていたところに水を差されたような感じだ。
いや、今は、気持ちを切り替えるべきだ。
何か問題ごとが起きているなら、それを解決しないと……。
「……た、大変なのです」
走る手さんは、慌てているからか、興奮によって、それ以上の言葉が続かないようだ。
「落ち着くのです。何があったのです」
炎の手さんが走る手さんに声をかける。
「そ、それが大変なのです」
「それではよく分からないのです。まずは深く息を吸って吐き出すのです」
炎の手さんの言葉を聞いた走る手さんは大きく目を見開き、周囲を見回す。そして、ゆっくりと息を吐き出す。
走る手さんのここまで慌てた姿は初めて見たかもしれない。
「もう一度聞くのです。何があったのです」
走る手さんが何度も頷き、そしてこちらを見た。
「で、出たのです」
出た? 何が出たのだろうか? お化けでも出たのだろうか? お化けではなく似たような存在の亡霊ならここにも姿が見えるんだけどね。
魔獣かな? 魔獣なら、この新しく完成した武器のちょうど良い練習になりそうだ。
……でも、魔獣が現れたのなら、ここではなく、戦士の二人か語る黒さんのところに向かっているはずだ。
本当に何が出たのだろう?
「崖、崖なのです」
崖?
そうだ。
そういえば走る手さんは崖を登れるように道を作っている途中だったはずだ。
そこで何かがあった?
「らちがあかないのです。見に行くのです」
炎の手さんが大きなため息を吐き出す。
確かにその通りだ。見に行った方が早いかもしれない。
「準備するのです」
結局、皆で崖を見に行くことになった。
崖へと向かっている途中には走る手さんも落ち着きを取り戻していたが、何が見つかったかを伝えるよりも実際に見た方が早いという話になった。その、のんびりとしたやりとりから、何か急ぎの、危険なことが起こったわけでは無さそうだった。
急がないけど、驚くような何かが見つかった?
しばらく歩くと崖が見えてきた。最近はこちらの方に来ることがなかったため気付かなかったが、崖の形は、少しだけ変わっていた。
崖が削られ、階段のようになっている。てっきり、木材などを使って上るための階段を作っているのかと思っていたが、まさか、削り出していたとは……。
恐ろしく地道な作業だ。そして気を付けないと崖崩れなどを起こしてしまう危険な作業だ。
これを走る手さんは一人でやっていたのだろうか?
炎の手さんも無茶を押しつける……。
普通に階段を作った方が安全なような……と、そこまで考えて気付く。
よく考えてみれば、現在、木材は貴重だ。その貴重品を使って階段を作るわけがなかった。
地道に削っていくのは――その労力を考えなければ、間違っていないのかもしれない。
ん?
その階段状に削られた崖だが、少しだけ様子がおかしかった。
崖にマーブル状の波が入っている。
もしかして……!?
「これって?」
「そうなのです。『鉱脈』なのです!」
走る手さんが興奮した様子でこちらへと振り返る。
「お、落ち、落ち着くのです」
炎の手さんが再び興奮し始めた走る手さんを落ち着かせようとする。だが、その炎の手さん自体が驚き、落ち着かない様子だ。
「ん? ああ、どうしたんだ? 波打って汚い崖にしか見えないぜ」
亡霊は二人が興奮している意味が分かっていないようだ。走る手さんの鉱脈という言葉が聞こえなかったのだろうか。
「亡霊さん。鍛冶に携わるものがそれで良いんですか? 鉱脈ですよ、鉱脈!」
これは興奮しても仕方ない。それだけのものだ。
「へ?」
そこまで言っても亡霊はよく分からなかったようだ。
「金属が取れるってことです! これは何の鉱脈ですか? 鉄ですか? 錫ですか? 銅ですか? 金属にはあまり詳しくないんです」
赤錆びた色合いも、黄色い色も、青、白、様々な色が見える。
色々な金属が混ざっているのかもしれない。
これは大変なことになる。
「建築の方の人材から何人かをこちらに回すのです。これで色々なことが捗るのです」
炎の手さんが口の端をあげ笑う。ちらりと鋭い牙が見えた。この人が、こんな風に悪巧みするような感じで笑うのは初めて見たかもしれない。
「え? これが金属? 金属って、鉱石の形か四角く加工してあるものじゃないのか?」
「だから、その鉱石が埋まっているのが見つかったって話なんですよ!」
亡霊は本当に分かっていなかったようだ。
「あ、ああ? 誰が埋めたんだ?」
……。
思わずため息が出そうになった。
「炎の手さん、亡霊さんへの説明は……教育はお願いします」
「……分かったのです」
亡霊の、そのよく分かっていない様子には、炎の手さんや走る手さんも何処か呆れているようだ。
しかし、大変なものが見つかってしまった。
これが魔法金属ではなく、普通の金属だったとしても、その利用法は数え切れないほどある。
これで一気に色々なことが出来るようになるはずだ。
ここまで来れば、竜種の里の援助がなくても何とかなるかもしれない。