164 緑鋼の槍と氷雪の剣
「まずはこちらから説明するのです」
炎の手さんが槍を持ち上げる。
全身が鈍く緑に輝く、全てが金属で作られた槍だ。
短剣のような両刃に金属の棒がくっついている、切って良し、突いて良しの標準的な形の槍になっている。
「戦士の王の要望を取り入れ、長さは持ち回りを重視した、戦士の王の背丈よりも少し長い位なのです。使った金属は戦士の王に馴染みやすいように軽くて硬い緑鋼なのです」
炎の手さんから緑鋼の槍を受け取る。
その瞬間、手に予想していた以上の重みがかかる。
重い。
とても重い。
「これは、本当に緑鋼で作った槍なんですか? 凄く重いです」
その言葉を聞いた炎の手さんと亡霊が顔を見合わせ笑う。
「この手で作った、間違いなく緑鋼で作られた槍なのです」
「ただし、工夫がしてあるんだよなー」
亡霊は何処か得意気だ。
「そうみたいですね」
何故か作成した炎の手さんよりも亡霊の方が得意気だ。あれだろうか、魔法炉や素材を提供したから?
「柄の中の芯として斧に使ったのと同じ重鋼を入れてあるのです」
炎の手さんがすぐにネタをばらしてくれる。
「なるほど、それで重くなっているんですね」
「そうなのです」
亡霊は、え? あれ? あれぇ? みたいな感じで炎の手さんと自分を見比べている。
炎の手さんはそんな亡霊を無視して説明を続ける。
「通常の槍と違い、刃ではなく柄が重いのです。重心が柄の方に傾いているので最初は戸惑うと思うのです。頑張って慣れて欲しいのです」
二人から距離を取り、緑鋼の槍を両手で持ち構えてみる。
重さは充分。
両手にかかる重さだけで言えばしっくりとくる感じだ。
軽く振り回してみる。
確かに刃の部分が軽いのは気になる。普通の武器のように刃の重さで斬るのではなく、柄の重さをのせる感じで斬り降ろすのが良いのかもしれない。
いや、槍なのだから、素直に突くべきだろうか?
緑鋼の槍を片手で持ち、肩から腕を伸ばすように突きを放つ。
もう一度。
今度は緑鋼の槍の柄の、出来るだけ石突に近い場所を持ち、先ほどと同じように突きを放つ。
風が抜ける。
完成した緑鋼の槍は割と短めだが、こうやって全身を使って突きを放てば、ある程度、その短さをカバー出来そうだ。
突きなら柄の方の重さも威力にのせることが出来る。
悪くない。
「少し練習は必要そうですけど、良い感じです」
「戦士の王が扱えるようで良かったのです」
炎の手さんは何処かほっとした様子だ。
「どうかしましたか? 自分には良いもののようにしか思えなかったんですが……」
炎の手さんが首を横に振る。
「初めての金属を扱って、初めての方法で作った槍なのです。出来上がったものは癖が強くて少し不安だったのです」
そして、そう言って少しだけ笑った。
「つーぎーは私の番なのです」
待ちきれなかったのか、亡霊が手に持った剣をこちらへと押しつけるような勢いで突き出してきた。
「あ、はい。綺麗な剣ですよね」
透き通るような、そして見ているだけで、吸い込まれそうな――そんな美しい刃を持った剣だ。
「あ、ああ、そうだろう、そうだろう。しかも美しいだけじゃないのさ」
緑鋼の槍をいったん地面に置き、亡霊から剣を受け取る。
手に馴染む。
まるで、長く使い込んできた――慣れ親しんできたかのような握り心地だ。
……。
ん?
よく見れば柄の部分は折れた剣と同じだ。
「亡霊さん、これは?」
「元々はソラが扱っていた剣なのさ」
やはり折れた剣が元になっているようだ。てっきり新しく打った剣かと思ったが違っていたようだ。
「えーっと、緑鋼の刃を作り直すって話はどうなったんですか?」
「最初は私もそのつもりだったのさ。ここで技術を磨いてね。でも、ソラから受け取った折れた刃を見て考えが変わったんだよ」
亡霊がいつものふざけた様子とは違う、何処か澄んだ瞳で剣を見る。
「姉さまのマナが導いてくれた――だから生まれた。その力の眠る剣だよ」
「姉さま?」
「ソラが救ってくれた、あの氷の幻影に囚われたマナだよ」
これは、氷の廃墟で戦った氷の女王の魂が込められた剣なのだろうか。
「氷と雪を閉じ込めた剣、氷雪の剣――ううん、名付けるなら氷雪姫だな」
氷雪姫……。
「その名前はちょっとどうかと思います」
亡霊に笑いかける。
「ふん。お前の名付けよりはよっぽどイカしているさ」
亡霊が笑う。
氷雪姫を構え、振るう。
透き通る刃から氷の軌跡が舞い落ちる。
流れるように氷が渦巻く。
「綺麗な剣ですね」
「綺麗なだけじゃなくて実用性もバッチリなんだぜ。早速、試し切りしてみ」
亡霊が何処に隠し持っていたのか木片をこちらへと投げる。
飛んできた木片を斬る。
スッと刃が吸い込まれるように空中にある木片へと流れる。
その抜けた先には氷の結晶を張り付かせて真っ二つになった木片があった。
斬れた?
いや、斬った?
恐ろしい切れ味だ。
「凄い……です」
「だろう? 鞘はまだ作成途中だから、その完成までは、悪いけど抜き身で持っててくれよな」
頷く。
この氷のような剣は普通の鞘には収まらないだろう。仕方ない。
「ありがとうございます。剣も槍も素晴らしい出来です」
炎の手さんも亡霊も笑い、頷く。
これで武器は手に入った。
使いこなせるようになったら石の廃墟に向かおう。
やっと、向かうことが出来る。
これで心残りが……。
と、その時だった。
「大変なのです」
慌てた様子で走る手さんがこちらへと駆けてきた。
何か問題が起こったのだろうか?