163 名前を付ける天賦
新しく移住してきた竜種の皆さんの名前を決める。
「えーっと、それでは皆さんの名前を付けようと思うんですが、もし、気に入らない……嫌だったなら言ってください。他の名前を考えます」
「あ、ああ。王様、名前決まったんだな」
そう言っているのは亡霊だ。新しい移住者の方々だけではなく、何処か暇そうな亡霊もやって来ていた。
「亡霊さん、言葉の最後に『のです』をつけるのは止めたんですか?」
「あ、ああ。王様、あれはもういいのさ」
亡霊は表情をこちらに見せないようにするためなのか、その顔を背けた。
『ふむ。こやつ、顔を真っ赤にしているのじゃ』
『そうなんだね』
亡霊は頭の上に乗っかった犬耳をぺたんと倒している。
「それで、なんでここに亡霊さんが居るんですか? 暇なんですか?」
緑鋼の剣を打ち直す話はどうなったのだろうか。忘れているのだろうか。本当にため息が出そうだ。
「そ、それで、彼らの名前はどうなったんだよ」
亡霊が慌てたように言葉を続ける。
「あ、はい。そうですよね。彼らを待たせてもいけません。皆さん、集まってださい」
亡霊と自分のやりとりを何処か生暖かく、遠目に見守ってくれていた竜種の皆さんが集まる。
「戦士の王、好きなだけ話していても良いのです」
「もうしばらく見ているのです」
「なかなか楽しいのです」
「待って欲しいのです。これはお芝居ではない可能性があるのです」
「ないのです」
竜種の方々は好き放題に喋ってくれている。この人たちも随分と良い性格のようだ。
「はい、そうですね。では、名前ですが……」
竜種の方々を見る。
本当に区別がつかない。皆、同じ顔に見える。もし、この中に元から住んでいる人が混ざっていても分からないかもしれない。
いや、さすがに炎の手さんや走る手さん、戦士の二人、語る黒さん、青く煌めく閃光さんの区別は出来るから……そう考えると生産組の皆さんとの関わりがなさ過ぎるだけなのか。
「まずは職人の皆さんですが、順番に、一の手、二の手、三の手、四の手でどうでしょうか?」
「あ、ああ!? 王様、真面目に考えてそれなの? 人にあんなことを言って、それなの!?」
亡霊が驚いた顔でこちらへと詰め寄る。最近の亡霊は少し鬱陶しいと思うのです。
一生懸命考えて、これなのです。
なのです。
それで肝心の竜種の皆さんの反応は……?
「戦士の王……」
皆が大きく口を開けて驚きの表情のままこちらを見ている。
どうなのだろうか。
「かっこいいのです」
「いかすのです」
「自分が一の手になるのです」
「いや、お前は三の手で充分なのです」
……。
と、とりあえず気に入って貰えたようだ。
「え、ええー!? おまえら、それでいいの?」
亡霊が一人一人に本当にそれで良いのか、聞いて回っている。この亡霊という存在は、自分の名付けに、何か文句があるのだろうか。
「構わないのです」
「自分が一の手なのです」
「それは私なのです」
「少しは譲るのです」
あ、うん。
こちらからすると、誰が誰だか分からないので、誰が一の手でも二の手でも困らない。いや、困るのか? 困るのかなぁ。
「それで私の名前はどうなるのです?」
残った一人が自身を指差している。
えーっと、この人が生産組に加わった人……だよね?
「あなたの名前は働く畑さんです」
「分かったのです」
この人の反応は普通だ。もしかするとあまり気に入ってくれてないのかもしれない。
「あのー、あまり良くなかったですか?」
「いえ、普通だったのです。特に問題無いのです」
普通かぁ。
普通だったのかぁ。
うーん、蜥蜴人さんたちのセンスはよく分からない。
まぁ、何にせよ、これで、この拠点に新しい仲間が五人加わったということだ。
「あ、ああ、それで王様」
亡霊がこちらの方へと戻ってくる。
「あの、亡霊さん、ちょっと気になったのですが、なんで王様なんですか?」
「ん? あ、ああ。ソラは、さ。皆が王って呼んでいるから、この地の王様なんだろう? それよりも……」
また亡霊は何か勘違いしているようだ。戦士の王といっても、そういう役職のようなもので、別に王という訳じゃないのに。いや、役職らしいことをしていないから、役職というのも違うのかな。
「おーい、王様、聞いてる? 明日、鍛冶の部屋に来て欲しいんだぜ」
ん?
「鍛冶の部屋って言えるほど、建物は完成していないと思うんですけど……」
「そこ? 王が細かいことを気にするなよな。伝えたからな」
それだけ言い残すと亡霊は去って行った。
やっと鍛冶仕事を行う気になってくれたのだろうか。
……。
それとも、それを言うために来たのかな?
とりあえず明日、か。
どんな用事なんだろうか?
そして、翌日。
亡霊の言葉通りに鍛冶の部屋に向かうと、そこには炎の手さんと亡霊が待っていた。
「待っていたのです」
「王様、待っていたのさ」
そして、そこには……。
「完成したんですね」
一本の槍があった。
「王様、それだけじゃないのさ」
亡霊が一振りの剣を取り出す。
それは、氷のように透き通る刃を持った美しい剣だった。
「王様の……ううん、ソラのための新しい剣だよ。姉さまのマナが力を貸してくれた、最高の剣だ」
ついに剣と槍が完成したようだ。
悪友感あふれる近所のお姉さんぽい感じ。