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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
希望の谷
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162 数日後

 スコルに跨がり東の森へと向かう。


 とりあえずこちらで木を切ろう。


 東の森に入ったところでスコルから降り、その後ろに連結させたソリを外す。

「ここで木を切ってるから、スコルは遊んできたら良いよ」

「ガルル」

 自由になったスコルが小さく頷き、森の中を駆けていく。


 さて、と。


 木を切ろう。


 手頃な木を探す。


 東の森の木も、西の森のような異常な大きさではないが、それでもそこそこの大きさに育った木ばかりだ。東の森の奥まで行けば、若木は増えるが、今度は小さすぎて素材として使うには物足りない。


『そう考えると、結局、ここになってしまうんだよね。仕方ないよね』

 持って帰りやすいように出来るだけ小さめの木を探す。


 しばらく森を歩き、やっと手頃な木を見つける。


 自分の背丈の数倍はある大きさ、両手で抱きかかえようとしても、どうしても手の長さが足りない太さ――それでも、この周辺にある木の中では小さめだ。

『今日はこれかな』

 いつものように重鋼の斧を構え、打ち付ける。


 全力の力を小さくまとめて放つ。大きな力を小さく圧縮すればするほど、放たれた時、その破壊力は大きくなっていく。


 斧も武器も――神技も、全ては同じだ。


 重鋼の斧を振るう。


 数回ほど繰り返すと、あっさりと重鋼の斧が木を抜けた。


 そのまま木が崩れ倒れていく。


 本当にあっさりだ。


 木が崩れ落ち、大きな音が響く。中身の詰まった良い木だったようだ。


『その次は、と!』


 倒れた木に重鋼の斧を振り下ろす。


 この木は、このまま持って帰るには大きすぎる。どうしても、ここで手頃な大きさに分ける必要がある。


 斧を振り上げ、振り下ろす。


 先ほどまでと同じように何度も繰り返す。


 時間をかけ、木をバラす。


 ソリに入れて持ち帰れそうな大きさにまで切り分けた頃には、倒れそうなくらいにヘトヘトで空腹になっていた。


『ご飯にしよう』


 切り分けた際に生じたおがくずに火を点け、小さな焚き火を作る。ソリの中に入れて持ってきていたキノコと乾燥させた鳥形魔獣の肉を焼いて食べる。


『樵に転職した気分だよ』

『うむ。このまま、この森を切り拓くのも悪くないと思うのじゃ』

 焼けた肉を囓る。塩が振ってあるわけでもないのに、何故か、少しだけ塩辛い。

『切り拓くのは竜種の人たちにお願いするよ』


 森は広い。


 開拓するとなれば、どれだけの月日がかかるか分からない。


 ……。


 簡単な食事を終わらせ、ソリの荷台に木片を入れていく。後の細かい加工は職人の方々にお任せだ。


 しばらくするとスコルが帰ってきた。何処か満足そうな顔をしている。

「スコル、帰るよ」

「ガルル」

 帰ってきたスコルにソリを結びつける。そして、そのまま背に跨がる。

「帰ろう」

「ガルル」

 スコルとともに拠点へ帰る。


 ここ数日、繰り返してきた、いつもの作業。


 拠点では、西の森で――あの時に切り倒した木を使って大きな家? 砦? のようなものが作られようとしている。

 てっきり、その木材を使って個人個人の家を作っていくのかと思ったら、作り始めたのは全員が住めそうな大きな一つの建物だった。


 意外だ。


 もしかすると皆で一つの場所に住むというのが竜種の人たちの習性なのかもしれない。


 建設途中の建物へと向かい、その近くに木材を置く。

「追加の木材です」

「戦士の王、助かるのです」

「親方、この木材は何処に持っていくのです」

「親方、何処に居るのです」

「加工するのです」

 後は職人の皆さんに任せれば大丈夫だろう。


「王様が帰ってきたな……のです」

 と、そこに忙しそうな職人さんと比べ随分と暇そうな亡霊がやって来た。

「暇そうですね」

「私は鍛冶が主だからね。建築は彼ら新人に任せているのさ」

 犬のような耳をピクピクと動かして亡霊が笑う。


「亡霊さんも職人さんと一緒に仕事を覚えたらどうですか?」

 暇なら、しっかりと武器を作って欲しいものだ。まだ完成してないんですよね?

「あ、ああ、ええ!? い、いや、それよりも、ソラ、彼らの名前は考えたのか? 何なら私が名付ける、のです」

 亡霊は、一瞬、驚いたような顔をしたが、すぐに表情を戻し、そして、何処か嫌らしい笑みを浮かべた。


 そうなのだ。


 名前だ。


 あれから、新しい竜種の人たちが五人ほどやって来た。


 竜種の里からの補充の人員だ。


 確かに学ぶ赤さんは、『まずは』十人で、と言っていた。追加の移住者が来るのは当然だ。


 その追加の移住者たちが五人。


 一人は生産組に、そして、残りの四人は炎の手さんが職人に育て上げると引き取った。


 そこまでは良い。人が足りていないと思っていたくらいだから、人が増えるのはありがたい。


 だが、一つだけ問題があった。


 彼らの名前だ。


 今回やって来た五人には最初の移住者の方々みたいな名前がなかった。


 彼らに名前を聞いても、自分では発音出来ない、区別が出来ない、そんな空気が抜けるような音で名前を教えてくれるだけだった。


「名前は王様の好きにしていいって言われているのに、悩むのが分からないな」

「好きにして良いと言われても悩みます。これから彼らを、その名前で呼び続けるんですから。今でも生産組の人たちの区別がつかないのに、覚えにくい名前を付けて……」

 そうなのだ。


 自分は彼らの区別が出来ない。だから、せめて名前だけでも……。


『学ぶ赤さんも人を連れてくるなら、最初から名前を付けてくれれば良かったのに……』


「それなら、私が付けるぜ。そうだな、もえもえ、げれげれ、ぷいぷい……」

「え? ちょっと待ってください。それは名前ですか?」

「そうだけど? ……です」

 亡霊に名付けのセンスは期待できないようだ。


 ため息が出そうだ。


「名前は自分が考えておきます。ところで、亡霊さん」

「ん?」

「最近、とってつけたように『のです』と語尾に付けてますけど、何でですか?」

「え? あ? ここではそういう喋り方をしないと駄目なんじゃないのか? だって、みんなそうじゃないか」

「自分は違いますよね。付けてるのは竜種の皆さんだけじゃないですか」

 亡霊は大きく目を見開き、驚いていた。


 ……ああ、この人、ホント、よく分からない。

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