161 木を運ぶだけ
結局、その場にいた人員だけでは巨木を運ぶことは出来なかった。
「ガルル」
スコルが背中を振るわせる。もしかすると連結されたソリが邪魔だと言っているのかもしれない。
「分かったよ、一度、戻ろう」
「ガルル」
スコルが頷く。
「戦士の王、この場は自分たちが見ているのです」
「任せるのです」
「仲間を呼んできて欲しいのです」
戦士の二人と語る黒さんが見てくれている間に、一度、スコルとともに拠点に戻り、そこでスコルに連結させたソリを外し、皆に協力を仰ぐことにした。
「スコルもソリが邪魔で力が出せなかっただろうからね」
「ガルル」
スコルがこれが無ければ自分一人でも大丈夫だったという感じで唸る。
「うんうん、そうだね」
スコルの背に乗り、拠点へと戻る。
「皆さーん、集合してください!」
そこで皆を呼ぶ。
『聞こえたかな?』
しばらくすると皆が集まってきた。
「戦士の王、そろそろ日が落ちるのです。そのような時にどうしたのです?」
青く煌めく閃光さんがつるりとした頭を掻き上げながら、生産組の皆を引き連れてやって来る。
「切り倒した木を運ぶのを手伝って欲しいんです。木があまりにも大きすぎて運ぶことが出来ません」
青く煌めく閃光さんが驚いたように大きく口を開け、皆と顔を見合わせる。
「わ、分かったのです。急ぐのです。日が落ちる前に何とかするのです」
青く煌めく閃光さんを含めた生産側の人員の五人が動く。炎の手さん、走る手さん、それに亡霊の職人側の三人も、その作業の手を止めて応援に来てくれる。
全員で巨木の運搬へと向かう。
日が落ちる前に何とか回収しないと……。
さあ、頑張ろう。
スコルが先頭に立ち、巨木を引っ張る。そして、皆でそれを押していく。
大きな木が皆の協力で拠点へと運ばれていく。
『水路が使えたらもっと楽だったのにね』
『ふむ。ソラにこの切り倒した木を細切れにする力があれば問題無かったのじゃ』
銀のイフリーダはゆっくりと運ばれていく巨木に座り、足をぶらぶらと動かしながら、そんなことを言っていた。
正論だった。そうだねとしか言い返すことが出来ない。
「ソラ、凄いな。これだけの木材があれば家が作れるな。いい加減屋根のあるところで眠りたかったんだ!」
亡霊が何処か興奮気味にそんなことを言っている。興奮しているからか、最近始めた語尾に『のです』を付けるのを忘れている。
そして、それを聞いた炎の手さんが大きなため息を吐いていた。
「これは、まだ『木材』になっていないのです。今はまだ、ただの倒木なのです。加工する手間を考えて欲しいのです」
そして、炎の手さんがこちらを見る。
「あ、あの……」
「戦士の王を非難しているわけではないのです。これはこれでありがたいのです。この木を加工して拠点となるような建物を作るのです。ですが、次はもう少し小さめの木をお願いするのです」
「あ、はい」
頷くことしか出来ない。せっかくの新しい斧だからと張り切り過ぎたようだ。
日が沈んだ辺りでやっと拠点まで巨木を運ぶことが出来た。
何とか到着だ。
「このまま宴なのです」
と、そこで何故か語る黒さんが張り切りだした。
「戦士の王には火をお願いするのです」
「あ、はい」
語る黒さんが鳥のような魔獣を引き摺っている。今から捌くのだろうか。
この日が落ちた暗闇の中で?
大丈夫なのだろうか?
ああ、そういえば竜種の皆さんは夜目が利くんだった。暗闇の中で、手探りで火を起こす自分の方が大変かな。
『でも、こうやって皆で何かをするのは楽しいね』
『ふむ……』
銀のイフリーダはそれ以上喋らない。暗闇に溶け、その顔は見えないが、間違いなく笑みを作っているだろう。
明日は東の森に木を切りに行こう。
そして、新しい緑鋼の剣か、槍が完成したら、石の廃墟の探索を行おう。今なら――スコルの力を借りれば一日でたどり着けるはずだ。
探索できなかった場所を。
今度は余裕をもって。
あそこには、まだ何かが眠っているような気がする。
きっと何かがあるはずだ。
氷の廃墟のように崩壊していなければ良いのだけれど……。
スコル「ガルルル」
ソラ「スコル、どうしたの?」
スコル「ガルルル、ガルガル、ガルゥ」
ソラ「えーっと、何々、野生の獣は狩りを行う上で自然に溶け込む必要がある? だから、目立つような匂いを付ける行為はやめようね、かな? へー、そうなんだ」
スコル「ガルガル」
ソラ「でも、スコルって、野生の獣なの?」
スコル「ガルゥ(´・ω・`)」
スコルは、こっそりと一人で崖の上で狩りを行って食事を行っているようだ。
みんながスコルの分の食事を用意してくれないから仕方ないよね。スコルは、キノコを食わず嫌いしているから仕方ないよね。