158 武器を作ろう
「設置が終わったらしいのです」
「設置が終わったことをお伝えするのです。この間の石が助かったと言っていたのです」
戦士の二人が魔法炉の再設置が終わったことを教えてくれる。
この間、持って帰った石を、その土台に使っての完成だ。
「伝えたのです」
「それでは狩りにいってくるのです」
「戦士の王、私も行ってくるのです」
「ガルル」
スコルや戦士の二人、語る黒さんは狩りに行くようだ。
「自分も手伝いましょうか?」
「戦士の王の力を借りるまでもないのです。私が力を貸すのですから、危険はないのです」
自分も一緒に行こうかと提案したが、語る黒さんに断られてしまった。
「心配無用なのです」
「自分たちも槍の扱いはそれなりになったのです」
戦士の二人が手に持った鉄の槍と鉄の斧を掲げて笑う。
「ガルル」
スコルも任せろという感じに吼えている。
……。
スコルの力を借りるのは良くて自分が駄目だということに、少し納得が出来ない。
いや、スコルは荷物持ちとして協力してくれるからだ、というのは分かるのだが、それでも釈然としない。
『一人で狩りすぎたのが駄目だったのかなぁ』
『ふむ。小さき魔獣の数が減って取り合いになっているのじゃ』
『そうだね。あれだけ倒しても倒しても溢れるほど現れた小動物の姿が、雪が消えてからぱったりと見えなくなったからね』
数が多くて手を焼いていたのに、居なくなってしまうと資源が手に入らなくなって困ってしまう。あの小動物は、どちらにしても困った魔獣だ。
その小動物を狩るのが難しくなったから、取り合いにならないように自分の参加を断った――ワケではない、ということは分かっている。
頭では分かっているのだけれど、それでも一緒に行きたかった。
少しだけ寂しい。
そう、小動物は、その数が激減した。
それでも今のところはキノコの収穫で食料は間に合っているため、食糧問題は起きていない。肉がさらに貴重になっただけだ。
『毎日、キノコ料理になっただけだよね』
食料と言えば……。
拠点に残っている他の蜥蜴人さんたちは畑仕事をしている。城から持って帰った種の中に食べられそうな植物が実りそうなものがあったので、そちらにかかりっきりだ。
そして、そういった新しい植物の知識で頼りになると思っていた亡霊は――あまり役に立たなかった。
整髪料として使える氷ソウビのことは知っていたのだが、それ以外のことを殆ど知らなかったのだ。聞いてみても、確か食べられるような、とか、その程度のことしか知らなかったのだ。
『食べて毒だった時が怖いよね』
『その時は我が教えるのじゃ』
『うん、頼りにしているよ』
というわけで、だ。
『設置が終わった魔法炉を見に行こうかな』
見に行くと言っても、ここは、まだ、建物という文明的なものが完成していない見通しの良い場所だ。見に行くまでもなく、どのようなものが作られているかは、分かっている。
新しい魔法炉は、石を土台にして、その上に城の迷宮で見たような青い球体が乗っている形だ。
行ってみよう。
魔法炉の前では炎の手さんと亡霊が何か作業を行っていた。
「完成したみたいですね」
炎の手さんと亡霊が作業を行っていた手を止め、こちらへと振り返る。走る手さんの姿はない。他の作業を行っているのだろう。
「やっと使えるようになったのです」
「あ、ああ。この場所で、使えるようにするのがこんなにも大変だとは思わなかったな。私の力がなければ……」
あまり大変そうにしていない炎の手さんを見ていると亡霊の言うこんなにも、がどんなにも大変なのか分からないが、それでもやっと完成したようだ。
「それでどうするんですか?」
「ああ! もちろん、ソラの剣を打ち直すのさ。今の私ならもっと凄いものになるはずだからな」
「まずは道具を作るのです。斧を作って、木材を加工するための鋸刃を作って、家を作るのです」
炎の手さんのかぶせるような言葉を聞いて亡霊が大きく目を見開き、そしてすぐにしょんぼりとしていた。
「えーっと、少しくらいなら……」
「分かっているのです。ただ優先順位があるというだけなのです。その合間には、もちろん戦士の王のためのものを作るのです」
炎の手さんが笑う。それを聞いた亡霊は嬉しそうに顔を輝かせていた。二人は仲良くやっているようだ。まぁ、炎の手さんが師匠、亡霊が弟子という感じにしか見えないが。
「分かりました。では、この剣は預けておきますね」
亡霊に緑鋼の剣を渡す。これで手持ちの武器が弓と石の斧だけになってしまったが、とりあえずは問題無いだろう。
「それで、なのです。戦士の王の希望があれば、その希望の武器を作るのです。先ほども言ったように優先順位があるので、すこし時間はかかってしまうが作るのです」
炎の手さんの提案。
武器……?
緑鋼の剣は炎の手さんの監修のもと亡霊が打ち直してくれる。だが、武器が一個だけでは心許ない。
確かに他の武器は必要だ。
『ソラよ、槍を頼むのじゃ』
銀のイフリーダの言葉に頷きを返す。
そうだ。頼むなら槍だ。
「槍をお願いします」
「分かったのです」
炎の手さんが頷く。
「それと……」
二人の前に折れた剣の刃と錬金小瓶の破片を置く。折れた剣の刃は氷の城で戦った騎士が残したものだ。
「これが使えるようなら使ってください。作るものはお任せします」
二人が二つの素材を確認し、頷く。
「分かったのです」
「あ、ああ。私に任せるのだ……のです」
何故か亡霊が語尾を変えて言い直していた。蜥蜴人さんの真似をしているのだろうか。ちょっとよく分からない。
『武器を渡したから当分の間、狩りにはいけないね』
『うむ。仕方ないのじゃ。我も少し我慢するのじゃ』
武器が完成するまでの間、何をしようかな。
スコルの体でも洗ってあげようかな。
ぶるる。
スコルは寒気を覚えた。