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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
希望の谷
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157 洗う

「試作品が完成したのです」

 青く煌めく閃光さんが優雅に頭を掻き上げる。鬱陶しくなるような髪もないはずなのに、何を掻き上げているのだろうか。空気だろうか。


「それが、例の薬ですね」

「そうなのです。あの花の油を精製した試作品なのです」

 青く煌めく閃光さんから陶器の小瓶を受け取る。この小瓶の中に入っているのがここで精製した試作品。そして、実は、この陶器製の小瓶自体もこの地で作ったものだ。


 この地で作れるものが増えていく。それはとても嬉しいことだ。


「早速、試してきます」

「よろしくお願いするのです」

 青く煌めく閃光さんが酷く大げさな動作でお辞儀をする。そして、その顔だけを上げる。

「それと、炎の手が小川に向かうのなら採取もお願いすると言っていたのです」


 採取?


 多分、石のことだろう。炎の手さんは職人だけあって石の有用性と価値を分かってくれている。頑張って拾ってこよう。


 というわけで、だ。


 不安そうな顔をしているスコルにソリを連結させる。

「スコル、石の採取に向かうから西側の森の小川までお願いするね」

「ガルゥ」

 スコルはそれだけじゃないよねという顔でこちらを見ている。


「スコル、大丈夫だよ」

 何が大丈夫かは言わない。


 だって、大丈夫だからだ。


 (あぶみ)に足をのせ、そのままスコルの背にまたがる。

「ガ、ガゥ」

 スコルが諦めたような表情で頷く。そんなスコルの首筋を優しく撫でてあげる。その首筋は少し脂ぎってゴワゴワとしていた。


 スコルがゆっくりと動き出す。


 駆ける。


 一瞬にして西側の森へと進み、そのジメジメとした森の中を駆けていく。


 空高く、天を貫くほどの大きな木々が並ぶ森だ。もしかすると、魔法の金属で作られた道具があれば、今の自分なら、この木々を切り倒すことが出来るかもしれない。


 そう思っても良いくらいには自分も経験を積んだはずだ。


 ……今度、試してみよう。


 そして、すぐに小川に辿り着いた。


「ガル」

 スコルがゆっくりと足を止める。

「ありがとう、スコル」

 スコルの背から降りる。そして、そのままソリの連結を外し、鞍も外す。


 懐から、割れないように大切に持っていた小瓶を取り出す。

「ガルル」

 スコルはいよいよもって処刑される前のような表情だ。


「スコル、とりあえず自分の体を……髪を洗うから、周囲を見張っていて貰えないかな?」

「ガル!」

 スコルが嬉しそうに吼える。あからさまにホッとした様子だ。


 そんなに洗われるのが嫌なのだろうか。

「その後、スコルの番だからね」

「ガ、ガルゥ?」

 スコルがよく分からないという感じで首を傾げる。


「体を洗うのはスコルに綺麗になって貰いたいからなんだよ。それに、体を洗うのは虫がつくのを防いでくれるし、スコルも虫がついてかゆくなるのは嫌だよね? 病気予防のためでもあるんだよ」

「ガルル」

 スコルも必要なことだとは分かっているのだろう。ただ、それでも嫌なものは嫌ということなのだろう。

 自分としてもスコルの嫌がることがしたいわけじゃない。だが、これは必要なことなのだ。


 背中にまたがっていて獣臭いのや脂ぎっているのは、とても気になるのだ!


 と、その前に、まずは自分で実験しないと。


 小瓶の蓋を開ける。すぐに爽やかで透き通るような良い香りが広がる。


 これだけでも心が落ち着いていくような気分になる。


 良い香りだ。


 そして、中のどろりとした液体を手に取る。


 小川の水を掬いどろりとした液体を混ぜると少しだけ泡が立ち始めた。


 髪に水をかけ、少しだけ泡だった薬液を付ける。そのまま汚れを押し出すように、薬液を染みこませるように、髪を洗っていく。

 良く馴染んだところで綺麗に洗い流す。


『うん、良い感じだよ。髪がさっぱりする』

『うむ。心なしか艶が出て、さらさらになったように見えるのじゃ』

 出来れば濡れた髪を拭く布でも欲しいところだが、さすがに今の状況で、そのような贅沢品を用意することは出来ない。

 自然乾燥に任せるしかない。


 それでも久しぶりにさっぱりした気分に浸ることが出来た。


『うん、これなら大丈夫そうだ。というわけで、次はスコルだね』

 スコルの方を見る。

「ガルルルゥ」

 スコルは、自分の考えていることを読んだわけではないのだろうが、何処か少し怯えたような顔をしていた。


「こっちだよ」

 スコルを小川の方へと誘う。


 小川の水でスコルの体を濡らし、泡立てた薬液で洗う。スコルの大きな体は非常に洗い甲斐がある。こうなってくると毛並みを整えるための櫛も欲しくなってくる。

 今度、炎の手さんに頼んでみよう。


 スコルは目を閉じて、その時が終わるのを必死に耐えている。

「もう終わりだよ」

 スコルの体を洗い流していく。


 スコルの体を洗い終わった後は、石を集めてソリの荷台の中に入れていった。その横ではスコルが体を震わせて水を飛ばしている。


 終わったら帰ろう。


「ガルル」

 スコルの背にまたがった帰り道に、

「スコル、良い香りだよ」

 と褒めてあげると、スコルは満更でもない様子で嬉しそうに小さく吼えていた。


 洗われるのは嫌だが、綺麗になるのは悪くないようだ。しかし、

「これからもガンガン綺麗にしてあげるよ」

 と言うと、スコルは体をぶるりと振るわせていた。


 洗うのになれて貰うのは大変そうだ。

注射を我慢する子ども。

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