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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
希望の谷
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151 帰還

 スコルが自分を背に乗せて駆けている。その口には、未だ目覚めない語る黒さんの姿があった。


 一瞬にして景色が流れていく。


 日数をかけ、あれほど苦労して踏破した雪原地帯が一瞬だ。


 吹雪の元凶であった氷の女王を倒した。しかし、それでも雪原に雪は残っていた。もしかすると、元々、雪が多い地域だったのかもしれない。


 そんな雪原地帯を抜ける。


 まばらに木々が生えた地域。木々の上、枝には少しだけ雪が残っていた。そんな雪も、ゆっくりとだが、溶け始めている。


 太陽の陽射しがまぶしい。


 今着ている毛皮装備だと暑いくらいだ。


 拠点はもうすぐだ。拠点に辿り着いたら、毛皮装備を脱ぐことにしよう。


「……むにぃ、ここは、何処なのです……はっ!」

 下から声が聞こえる。


 スコルが咥えていた語る黒さんが目覚めたようだ。

「大丈夫ですか?」

 声をかける。

「あわわわわ」

 すぐに声が聞こえなくなった。どうも最初の時と同じように気絶したようだ。


 いくら、生命力が強く、雪の下で眠っていても、氷の彫像と化していても、それでも生きているような蜥蜴人さんでも、スコルが走る速度には、驚いて気絶してしまうようだ。


 確かに瞬間移動でもしているかのようだ速度だ。自分も振り落とされないようにしがみつくのがやっとだ。それに、あまり強くしがみつくとスコルがむず痒そうに頭を揺らす。背中に乗っているのもなかなか難しい。スコルの口元の揺れと速度は、かなりのものなのかもしれない。


 スコルが駆けていく。


 どれだけ走っても疲れなど感じないかのように――元気に駆けていく。


『一瞬だね』

『うむ。こやつもなかなか役に立つのじゃ』


 しばらくすると垂直に切り立った崖が見えてきた。


 スコルが飛ぶ。


 崖に作られていた雪の階段は溶けて消えている。もう簡単には氷の廃墟に向かうことが出来なくなったようだ。次からは、何か崖を登るための手段が必要になるだろう。


 スコルが崖を蹴るように飛び降りていく。


 そして、拠点が見えてきた。


 懐かしのシェルター、残念ながら雪の重さで潰れてしまった雨よけ、作りかけになっている木を使った建物……。

 語る黒さんがねだった小さな祠の姿も見える。


 戻ってきた。


「戦士の王なのです」

「戦士の王がスコル殿の背に乗って帰還したのです。皆を呼んでくるのです」

 こちらに気付いた戦士の二人が大きな声を上げる。


 そして、すぐに皆が集まってきた。


 スコルがペッという感じで口に咥えていた語る黒さんを吐き出す。酷い扱いだ。語る黒さんもスコルを捜索する時に力を貸してくれたのに……。


「無事の帰還をお祝いするのです」

 青く煌めく閃光さんがつるつるの頭を掻き上げ、キラリと牙を光らせる。相変わらず無駄に大げさな仕草だ。


「無事に戻ってきました。スコルとも出会えました」

 皆に報告する。


「良かったのです」

「本当に良かったのです」

 皆の心からの言葉。その気持ちがありがたい。


 そして、その皆に忘れ去られるように語る黒さんは気絶したまま地面に転がっていた。


「皆さんの方では何か問題はなかったでしょうか?」

 皆の元気そうな姿は見えた。でも、自分がいなかった数日間で何か起きていたかもしれない。


「問題はあったのです」

 輪のようにしてこちらを囲んでいた皆の中から炎の手さんが前に出る。

「問題……あったんですね」

「そうなのです。せっかく作った家が溶けてしまったのです!」

「あ!」


 確かにそうだ。


 雪は溶けてしまった。


 氷の廃墟の辺りならまだしも、この周辺の雪は溶けてしまっている。


 雪を利用して作った家は……うん。


「時間はかかりますけど、木材の家の建築、頑張りましょう」

 木材の加工は時間がかかる。


 この周辺の木は堅すぎるため、鉄の道具を使っても、どうしても時間が……って、そうだ!


 鉄より上の道具なら、魔法金属を使った道具なら、もっと作業が捗るはず。亡霊が来てくれたら、この問題は解決する。


 あの廃墟の城で待っている亡霊を……。


 うん? 城?


 そういえば……。


「青く煌めく閃光さん、ちょっと良いですか?」

「戦士の王、どうしたのです?」

 青く煌めく閃光さんが牙を光らせて笑う。

「あ、いえ、スコルを探しに向かった場所でこんなものを見つけたので」

 背負い袋から種の入った小袋を取り出す。

「これは……何かの種なのです」

「もし良かったら育ててみて貰えませんか? 何が育つか分からないんですが、何か役に立つものが育つかもしれません」

 これは廃墟の城に残っていた種だ。植えるために残していた種のはずだから、植えて損になることはないはず。

「分かったのです。任せるのです」


 それと、だ。

「崖の上で廃墟となった都市を見つけました。そこで出会った人を迎え入れたいのですが、大丈夫でしょうか?」

 亡霊がこの地にやって来れば、大きな力になってくれるはずだ。だけど、皆の了承を得ずに勝手なことをすることは出来ない。


「ここは戦士の王が管理する地なのです。戦士の王の判断に任せるのです」

 炎の手さんの言葉。

「任せるのです」

「大丈夫なのです」

「人が増えるのは歓迎なのです」

 続くように皆が賛同してくれる。


「ありがとうございます。それと、廃墟にある有用なものを持ち帰りたいのですが、何とかならないでしょうか?」

 それと新しく崖を登る手段も必要だ。


「分かったのです」

 炎の手さんが苦笑しながらも頷く。そして、言葉を続けた。

「でも、戦士の王、今は休むべきなのです。語る黒も戦士の王もボロボロなのです。全てはそれからなのです」


 ああ、そうだった。


 休み無く頑張り続けていた。


 確かに疲れている。


 ここは皆の言葉に甘えて休むことにしよう。

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