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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
氷雪凍土
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146 人の意志こそが魂

 何とか体を動かし、飛びかかってきた青い狼の攻撃を緑鋼の剣で逸らす――いや、逸らしたつもりになっただけだ。青い狼の勢いに負け、吹き飛ばされる。


 体が地面を転がる。


 受け身も取れない。


 無様に転がるだけだ。


 緑鋼の剣を杖代わりに、何とか起き上がる。


 駄目だ。


 心が折れている。


 戦おうという気持ちは――気持ちがあるのに、そう思いたいのに、それが無駄だと思ってしまっている。勝てないものに抗う無駄を考えて、体の動きが、心が止まっていく。


 逃げることすら……出来ない。


 駄目だ。


 と、そこでスコルがもう一度、吼えた。


 スコルの咆哮。


 心が震える。


 スコルは戦っている。


 戦っている!


 何のためにここまで来た。


 ここまで来た理由を思い出せ!


 それでも自分の心は動かない。


 スコルは咆哮を上げながら戦っている。


 その姿に心が震える。


 スコルの咆哮に、魔を打ち払うとか、戦意を高揚させるとか、何か特別な力があるわけじゃ無い。


 でも、その姿に、咆哮に、心が震える。


 スコルは戦っている!


 戦う意志、戦う力。


 奮い起こせ。


 立ち上がれ。


 何とか、何とか、何とか戦う力を!


 しかし、青い狼たちは、そんな心を奮わせようとしている自分を待ってはくれない。


 青い狼が飛びかかってくる。力なく下げられた緑鋼の剣を持ち上げようとする。剣が重い。


 あんなに軽いと思ったはずなのに!


 間に合わない。


 そのまま青い狼に吹き飛ばされ、地面を転がる。


 ……立ち上がれない。


 もう、駄目だ。


 その様子を見て、こちらを仕留める好機だと思ったのか、四匹全ての青い狼がこちらへと飛びかかってくる。


 駄目だ、体が動かない。


 全てを諦め、目を閉じる。


 最後の瞬間を待つ。


 ……。


 ……。


 しかし、いつまで経っても、それは訪れなかった。


 ゆっくりと目を開ける。


 ゆっくりと目を開けた先には――亡霊がいた。


 亡霊がこちらを庇うように立っている。

「何で、亡霊さんが……?」

「良かった。気がついたんだな」

 亡霊はこちらへと振り返らず喋る。


 その姿は、悲惨なものだった。体中に切り裂かれたような傷を負い、血を流している。立っているのが不思議なくらいだ。


 それでも手に持った鎚を構え、自分を守るように立っている。


「私は、怖かったんだ。アレが怖かったんだ」

 亡霊が氷の女王の方へと視線を向ける。その体は震えていた。

「だから、逃げていた。今でも怖い。逃げ出したい。でも、お前は戦うことを選んだ。お前は言ったよな、自分がやるべき事を、出来ることをやるだけだ、と。そうやって前に進んだよな!」

 亡霊が叫ぶ。


 そうだ、確かに自分はそう言った。そう言って、この元凶を倒すために、ここへとやって来た……はずだ。


「お前は立ち上がれ。私は、ここに来て、いや、来ることしか出来なかった。これ以上は恐怖で動けそうにない。だが、それでも、お前の盾になることくらいは出来る!」

 亡霊は自身の心を奮い立たせるように叫ぶ。そして、下がりそうになっていた、その手に持っている鎚を持ち上げ、構え直す。


 そうだ、自分は……。


 自分は……。


 自分はなんて言った!?


 亡霊は、こちらに分かっていない、逃げることしか出来ない、そんな力を前にしたことがないと言った。確かにその通りだった。


 でも、自分は言った。


 言ったはずだ。


 言った!


 だから、立ち上がる。


 緑鋼の剣を杖代わりに立ち上がる。


 心の炉に火を入れろ。


 心を燃やせ。


 魂を燃やせ。


 人の意志を示せ。


「あんな恐ろしい存在だと思わなかったんです。無茶を言わないでください」

 そう呟いて立ち上がる。


 緑鋼の剣を持つ手に力を入れる。


 そして、自分の盾になろうと立っている亡霊の前に出る。


「お、お前……」


 一歩、一歩、踏み出す。


「休んでいてください。その傷だと、これ以上は危ない」

 そう、亡霊は瀕死の状態だ。自分の盾になって、このまま死ぬつもりだったのかもしれない。


 だけど、そんなことはさせない。


 自分を送り出してくれた蜥蜴人のみんな。


 自分を庇って氷の彫像と化した語る黒さん。


 そして、今、自分の盾になろうとしている亡霊さん。


 心を燃やせ。


 これで足りなければ――足りていないはずがない。


 緑鋼の剣を持ち上げ、構える。


 スコルは未だ戦っている。


 こちらを囲んでいる四匹の青い狼も健在だ。


「後は、自分が何とかします」

 大きく息を吸い、吐き出す。


 戦える。


 いや、戦う。


 心が燃える。


 緑鋼の剣を持ち、駆ける。


 動き出したこちらを察知して青い狼が飛びかかってくる。その青い狼へと強力な一撃をたたき込む。その空気を切り裂くような鋭い一撃によって青い狼が叩き落とされる。青い狼が地面を転がる。


 ――神技スマッシュ。


 しかし、仕留め切れない。


 転がった青い狼が跳ね起き、こちらと距離を取る。


 不完全な一撃だった。まだ動きが重い。まだ体に力が行き渡っていない。


 でも!


 距離を取った相手にはっ!


 緑鋼の剣を下向きに構え、そして斬り上げる。緑鋼の剣から生まれた衝撃波が青い狼を切り裂く。


 ――神技エアースラッシュ。


「まずは一匹!」

 戦える。


 いや、戦う!


 自分は、もう、折れない!


 心を、意志を、魂を、燃やし続ける。

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