表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
氷雪凍土
144/365

142 氷の残滓

 騎士が、ゆらりと動く。


 手に持った氷の長剣の煌めきだけが残像となって流れていく。


『ソラよ!』

『分かってる!』


 流れてきた氷の長剣を緑鋼の剣で受け止め――切れず、そのまま吹き飛ばされる。空中で体勢を整え、着地する。


 ゆらりとした動きなのに、思っていたよりも力強い。


 騎士が氷の長剣を振り回す。


 振り回しを避ける、避ける、避ける、避ける。緑鋼の剣では受け止めない。


 相手の方が力は上だ。受け止めてしまえば、先ほどと同じように吹き飛ばされてしまう。


 避ける、避ける。


 騎士はその膂力に任せて振り回しているだけだ。


 避けるのはたやすい。


 振り回された氷の長剣を避け、緑鋼の剣を両手で持ち、そのまま騎士の懐へと入り込む。


 がら空きとなった騎士の胴体へと緑鋼の剣をたたき込む。


「うわっ!」

 しかし、その一撃は、騎士の鎧によって跳ね返された。体勢が崩れる。このままだと騎士の反撃を受けてしまう。


 慌てて、転がるように後方へと飛び退き、体勢を整える。


「硬い」

 距離を取り、手に持っている緑鋼の剣の刃の状態を確認する。鎧に弾かれたのに、何処も刃こぼれしていない。硬いというのは本当のようだ。

 しかし、向こうの騎士鎧に痛手を与えることも出来なかったようだ。緑鋼の剣を叩きつけた場所にうっすらと剣の跡が残っている程度だ。


 この剣は軽すぎる。自分の人並み以下の膂力では――ただ振り回しているだけでは、相手に痛手を与えることは何度やっても出来ないだろう。


『まぁ、予想していたことだけどね』

『うむ』

 となりに立っている銀のイフリーダが、腕を組み、こちらを見守っている。


 銀のイフリーダの手助け無く、自分の力だけで勝てるように頑張ろう。


 緑鋼の剣を上段に構える。


 騎士がゆらりと動く。


 相手の騎士は、ただ、力任せの攻撃しかしてこない。かつては技を修めていたのかもしれないが、魔獣と化した今は、ただ、本能で動くだけだ。

 その力は脅威だが、逆に言えば、それだけだ。


 だから!


 駆ける。


 そのまま緑鋼の剣を振り下ろす。


 騎士が本能的に身を守るように氷の剣を頭上に構える。


 構わない。


 そのまま振り下ろす。


 ――神技スマッシュ。


 自分が持ち得る力を全て込めた強力な一撃。


 緑鋼の剣が氷の剣の刃を叩き折る。ただ、ただ、その勢いのまま振り下ろす。


 しかし、騎士兜の途中まで切り裂いたところで刃が止まった。止まってしまった。


 相手を一刀両断するには威力が足りない!


 緑鋼の剣を滑らせ、騎士兜から引き抜き、そのまま大きく後方へと飛ぶ。


 騎士兜の半分ほどまで切断したが、それでも相手は――まだ生きている。人なら致命傷だ。しかし、相手は人じゃない。


 これが魔獣の生命力!


 しかし、だ。


 氷の剣は切断した。相手には、もう武器が無い。


 後はとどめを……。


 しかし、『魔獣』は、そこで終わらなかった。


 騎士が吼え、獣のように四つん這いになる。


 騎士兜がぐにゃりと曲がり、中から大きな牙が生える。


 その姿は鎧を纏った獣――まさに魔獣だ。


 緑鋼の剣を鞘に収める。そして、柄の上に手を置く。


 一撃。


 ――一撃だ。


 目を閉じ、思い出す。


 銀のイフリーダが放ち氷の壁を切断した一撃を。


 魔獣が動く。


 魔獣の駆ける音。


 目を開ける。


 目の前に迫る、こちらを噛み千切ろうとしている魔獣の顔。


 鞘から緑鋼の剣を引き抜く。


 斬る。


 ただ、斬るだけだ。


 放たれた一撃が、衝撃となって魔獣を、魔獣の体を突き抜ける。


 魔獣は、こちらへと飛びかかってきた勢いのまま、半分に分かれ、自分を抜けていった。


 ――放たれる剣の衝撃、神技ソードインパルス。


 緑鋼の剣を振り払い、鞘に収める。


 悪くない。


 剣の刃としては鈍いかもしれないが、神技を使えば、充分にそれを補える。


 自分の後方では真っ二つになった騎士の魔獣が、声にならない声で呻いていた。

『見るのじゃ、ソラよ』

 その騎士の魔獣の体から鉱石のような透明な棘の柱が生えてくる。


 騎士の魔獣が結晶と化していく。


 騎士の魔獣は形を変え、そして少し大きめのマナ結晶が転がり落ちた。手のひらを広げたのよりも少し大きいくらいのマナ結晶だ。


『これは?』

『マナが暴走し、喰われた結果なのじゃ』


 強大な竜の王を倒した時と同じだ。


 魔獣がマナ結晶と化した。


『戦利品はマナ結晶だね』

 後に残ったマナ結晶を手に入れようと手を伸ばす。


 そして、マナ結晶に触れた瞬間、その中に残っていた記憶が流れ込んできた。


 城の中庭。


 そこにいるのは騎士と少女。


 騎士が少女に剣を捧げる。


 ――ヒメ……サマ……。


 そこで記憶は途切れた。


『これは、この騎士の記憶?』

『ふむ。どうしたのじゃ?』

『いや、何でも無いよ』

 少し大きめのマナ結晶を拾い、背中の袋に入れる。


『先を急ごう』


 この騎士の魔獣が落ちてきた窓枠から尖塔の中に入れるはずだ。


 目指すは尖塔の頂上。そこに元凶が待っているはずだ。


 尖塔に近寄り、壁に手をかける。


 と、そこで燭台の明かりを受けて輝いている何かを見つけた。屋根の上に何か落ちている。


 尖塔に中に入るのをいったん止めて、輝く何かの元へ向かう。


 それは、先ほど、自分が切断した氷の剣の刃の部分だった。この部分は結晶化せずに残ったようだ。纏っていた氷は消え、ただの金属の刃になっている。


 ……。


 これはこれで何かに使えるかもしれない。


 貰っていこう。


 氷の刃を背負い袋に入れる。


 袋が破れないと良いのだが。


 ……まぁ、多分、大丈夫だろう。


 さあ、改めて尖塔の中に入ろう。


 尖塔の壁に手をかけ、飛び上がり、窓枠を掴む。そして、中へ入る。


 尖塔の中は、螺旋階段になっていた。上と下、両方に階段が伸びている。


 進むのはもちろん上だ。


 螺旋階段を上る。


 もうすぐ目的地だ。


 元凶が待っている。


 そして、階段の先に金属の扉が見えてきた。


 ここが頂上だろう。


 この扉の先に吹雪の元凶が待っているのだろう。


 ついに辿り着いた。


 金属の扉に手をかけ、押し開ける。


 軋んだ音を立てて開かれた扉の先に待っていたのは――椅子に座る、氷で作られた少女の彫像だけだった。


 氷の少女像。


 これは、何だろう?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ