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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
氷雪凍土
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141 氷の騎士

 落ちないように気を付け、伏せて梁の上を進む。


 建物の奥の方へ、スコルが向かった方を目指して進む。


 梁の先は簡単な屋根裏部屋のようになっており、その壁にも枠のみが残った窓の残骸があった。

『ここで誰かが生活していたのかな? ……いや、屋根で生活する人はいないだろうから、天井を掃除する人とかの休憩場所だったのかな?』


 窓の残骸の先は城の屋根になっているようだ。その屋根伝いに進んでいけば、城の上層部に辿り着くことが出来るだろう。


 そして、この場所には、壊れている窓枠があるだけではなく、それなりの大きさの金属の箱が落ちていた。

 片隅に乱雑に置かれた箱。


『宝箱かな?』

 そんなことを考えているが、中身には全く期待していない。こんな場所に置かれている箱だ。中に入っているのは、ここを使っていた人の日常品や掃除道具などがせいぜいだろう。


 金属の箱に手をかける。


 罠は無さそうだ――無いと思う。きっと無いはずだ。


 箱に触れてみて気付いたが、何故か、この箱だけは凍っていないようだった。


 そんなに冷たくない。


 ここまでは、壊れているか、凍っているか、そのどちらかしかなかったのに珍しいことである。


 罠は無いと思うが、それでも慎重に金属の箱を開ける。


 箱の中には……、


 よく分からない紐で縛り封のされた小さな皮袋がいくつか入っているだけだった。


『何だろう、これ?』


 紐をほどき、中身を確認する。


 中に入っていたのは、何かの種だった。


 沢山の種が入っている。


 腐っていない。


 周囲の寒さが良かったのか、それとも金属の箱に入れていたのが良かったのか、種は生きているようだ。


『何の種だろう?』


 他の小袋も開けてみるが、中に入っているのは、全て何かの種だった。色々な品種が揃っている。


 ……。


 もしかすると、ここは、この城の庭師の休憩所だったのだろうか?


 何かの役に立つかもしれない。


 種袋は全部で七種類ほどあった。


 あまり荷物になるものでもないので、ありがたく種は貰っていくことにした。小さな皮袋ごと背中の袋の中に入れておく。


 拠点に戻ったら栽培してみるのも一興だ。


 ここにあるのはこれくらいのようだ。


 後は外に出るだけだ。


 窓枠の残骸から外に出て屋根の上へと降りる。


 ここからだと城の全貌がよく見えた。


 今自分がいる建物と隣接しているのが城の本殿のようだ。本殿は、ベランダのついた中央区画と、そこから伸びている尖塔がある区画に別れていた。

 少し離れたところに来賓用の宿舎ではないかと思える建物の姿も見える。


 その宿舎? の横には、城の中庭なのか、少し開けた場所があり、上半身だけの金属鎧が並んでいた。鎧を干している場所だったのか、それとも動く鎧の仲間なのだろうか。


 迷路になっている地下があって、その上に城の入り口があって、そこから大広間や謁見室? に繋がって、その二階層が書庫と回廊で、さらに上の階層が祭典などに使われる広間? そこまで来て、やっと、その上が本殿か。


 かなり大きなお城だ。


 そして、本殿が王の住んでいる場所だろう。


 向かうべきは城の本殿だ。


 ……。


 いや、違う。


 亡霊は上を目指せと言っていた。


 目指すべきは本殿から伸びている尖塔か。


 この、今、自分がいる屋根を伝っていけば、本殿を通ることなく、そのまま尖塔の中に入れるはずだ。


 まずは尖塔を目指そう。


 屋根の上を歩いていると、至る所で氷の塊の姿が見えた。この氷の塊たちは屋根を突き破って生えているようだ。氷が無差別に増殖しているように見える。


 氷の塊を避け、尖塔を目指して屋根の上を歩く。すると尖塔の近くの屋根の上に大きな彫像が並んでいるのが見えた。


 槍を手に持ち、上に掲げている羽の生えた悪魔の石像だ。これは氷で作られていない。


 よく見ると槍の先端が膨らんでいる。膨らみ、空洞になっているようだ。もしかすると中に火を入れて燭台代わりに使っていたのだろうか。


 そんな悪魔の石像が屋根の上に並んでいる。


 ここから下は、自分が宿舎かもしれない、と予想した場所だ。もしかすると、この石像は、その宿舎を照らす明かりだったのだろうか。


 梁の上から、ここまで屋根の上を伝って来ることが出来たのも、かつては、この石像に火を入れていたから?


 可能性としては考えられる。


 そのおかげで魔獣が生息している危険地帯を回避して、尖塔まで屋根伝いに歩いて侵入することが出来そうだ。


 ありがたい。


 悪魔の石像が並ぶ屋根を歩く。


 と、そこで異変が起きた。


 悪魔の石像が持っている槍に火が灯る。


 次々と槍の中に火が生まれていく。


 ……近寄ったことで何かの装置が作動した?


 そして、尖塔に取り付けられた窓から何かが這い出てきた。


 それが残骸となった窓枠からこぼれ落ちる。


 それは全身鎧の騎士だった。


 金属の鎧を着ているはずなのに、『音を立てず』ぐにゃりと屋根の上にこぼれ落ち、ゆらりと立ち上がる。


 かなり背が高い。大きいと思っていた亡霊よりもさらに背が高い。


 騎士鎧の謎の人物――いや、それは人なのだろうか。


 騎士が身につけている兜のバイザーの下からは幽鬼のように赤い瞳が輝いている。外にいる鎧とは違うが、生きている人とも思えない。


 騎士鎧が腰に着けている剣を引き抜く。


 剣が引き抜かれたことで周囲の温度が一段階下がったような気がする。そんな見る者を底冷えさせる剣だ。


 そして、長い。


 まるで槍のような剣。


 その剣の周囲に氷が生まれていく。


 周囲の空気を凍らせている。


 剣の周囲に生まれた氷が燭台の炎を受けて輝いている。


『イフリーダ、この人は!』

『うむ。生き死人なのじゃ』


 騎士が氷の長剣を構える。


『生き死人って?』

『死ねぬ者が、心折れ、マナを暴走させ、生きたまま死人となった魔獣なのじゃ』


 人が魔獣に?


 目の前の騎士が剣を構え、こちらへと迫る。


 考えている暇はない。


 倒すしかない。

2018年7月17日誤字修正

この石像に火を入れるていた → この石像に火を入れていた

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